第百七十五話 アンデッド達とご挨拶というもの
「今日も張り切って家を建てるよー」
「わんわん!」
「クルルル!」
「こけー!」
さて、いよいよ住人が増えた翌日。僕は日課をこなすため家の前に動物達とやる気を溜めていた。
朝食は昨日買ったパン屋さんのパンで、これからあれがここでも買えるようになるのかと嬉しくなるくらい美味しかった。
「今日はジェニファーも僕達と行くのかい?」
「コケ」
首を振る。
どうやら挨拶だけしてまたどこかへ行ってしまった。まあ村内なら好きにしてもらって構わないけど。
【また牧場の方じゃないか? 最近あそこで遊んでいるみたいだ】
「そうだね。他にニワトリも居るし、今まで僕達しか遊び相手が居なかったもんね」
元々、フォルドの親父さんところで卵を産むために飼われていたのでアニーが連れて来なければひよこを産んでそのまま老衰という流れだったに違いない。
幸い、タイガやシルヴァといった肉食動物と仲が良いので天敵にも狙われずすんでいる。
【ま、飽きたら戻ってくるだろ。やっぱステラやアニーが居ないからかな。お前は仕事ばかりだし、邪魔をしたくないのかもしれないぜ】
「あー」
ゼオラの言葉にそうかもと頷く。ジェニファーは賢いのでそういう面もありそうだ。
それはともかく騎士さんの家を造ろうと背伸びをした後フォルテの背に乗る。ふかふかだ。
「クルルル♪」
「ブラッシング効果は高いなあ」
【石化の能力なのにな】
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「おや?」
そんな平和な朝にひときわ大きな悲鳴が聞こえて来た。あの声はスピカさんだ。
何事かとフォルテを走らせて現場へと急行。
「スピカさんどうしました!」
「あ、ああ……ウルカ様! あ、あれ……が、骸骨……!」
「ん?」
現場は池のほとりだった。
水を汲みに来たスピカさんがとある場所を指さして震えていた。
なんとそこには――
「オオグレさん!?」
【……ん? この声はウルカ殿……。ふあああ】
「いやあああああ動いて喋ってるぅぅ!!?」
「クルルル!?」
スピカさんがその場でへたり込んでフォルテの首にしがみ付いた。そういえば工房なんかを作るのに夢中で忘れていたよ。
「ごめんなさいスピカさん。このスケルトンは僕の眷属でオオグレさんというんだ」
【おや、これは美しい女性。拙者、オオグレと申す。このような姿で申し訳ないが、アンデッドなので許して欲しい。おっと】
「手がとれたぁぁぁ!?」
「クルルルル……!?」
「わ、わふん……」
左手に酒瓶を持ち、右手で挨拶をしようとしたオオグレさんの手首がとれてスピカさんはパニックだ。
フォルテの首が心配になってきたのでオオグレさんに離れるように指示する。
「ほら、バスレさんの時もそうだけどスケルトンは一般人にはきついんだよ。自己紹介だけにしておこう?」
【むう、仕方ないでござる】
「うおおお! スピカどうしたぁぁぁぁ!」
「おや」
そこへ工房から飛び出してきたグラフさんが長いハンマーを持って駆けつけて来た。
【おお、こちらも新顔でござるな】
「動くスケルトン……!!!!?」
気さくな挨拶をするオオグレさんにずっこけるグラフさん。まあ慣れないと仕方ないよね。
「た、倒さねえと……!」
【おう!? 鈍器はダメでござる!?】
「グラフさん、グラフさん。かくかくしかじかで」
「眷属……」
とりあえず振り上げたハンマーを下ろしてもらい、手首をくっつけているオオグレさんを紹介した。
「なるほどなあ。ウルカ様はヴァンパイアハーフなのか。それでアンデッドを使役できるんだな」
「そうそう。話が早くて助かるよ」
【おーい、ウルカ。どうした? 家は建てんのか?】
「「うわあああああああ!? ど、ドラゴン!?」」
「クルルル!?」
「うおふ!?」
今度はボルカノが現れ、グラフさんがシルヴァの首に抱き着いた。ここで止まっていたので呼びに来てくれたようだ。
「ごめんごめん。ボルカノにも新しい住人を紹介しておくね!」
【ふむ、そういえば知らない顔が数人いたな】
「あらまあでかいのがいるねえ」
「こりゃ凄い。ドラゴンか」
そこへパン屋の夫婦がやってきて説明をする。歳をとっているからか、オオグレさんにあまり動じなかった。
「よろしく頼むわい。騎士にドラゴンにスケルトンとは、若いころならワクワクする村じゃな」
「あんた才能がなくて冒険者を諦めたクチだもんね」
「へえ、そうなんだ?」
「うむ。若いころはそんなもんだ! グラフだってそうだからここへ来たんだろう」
「ま、まあ。親父がすげえのは知っているけど、オレはオレだけでなにかできないかってよ」
【わかるでござる。拙者も剣の道を究めるため修行の旅に出たでござるからな】
「それで死んでたら世話ねえよ!?」
【はっはっは! それでも満足できる人生だったでござるよ。今は骨生に変わったし、楽しいでござる】
【我も最後の戦いすら楽しめていたな。リンダはここに来ないのだろうか】
と、なんだか集まって、あの頃はとかこれからは、みたいなそういう話になった。
そこでスピカさんが立ち上がり、目を丸くしてボルカノを見上げた。
「な、なんだかすごい村にきちゃったかも……」
「多分すぐに慣れるよ! ほら、スピカさんもフォルテの背中を撫でて落ち着いてさ」
「あ、モフモフだ」
「クルル♪」
「ふふ、可愛いかも。ま、なんとかやっていけそうかも? スケルトンには驚いたけど」
「うん! なにかあったら言ってね。僕が領主だし」
「ありがとうウルカ様」
僕は笑顔のスピカさんと握手をする。
【拙者はオオグレ。よろしく頼……あ、また落ちたでござる。いかんいかん】
「手首がとれたぁぁぁぁぁ!?」
……まあ、賑やかになるのはいいことだよね。
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