第百七十二話 久しぶりのお買い物というもの

「いつから行けばいいんだ?」

「そ、そうね、それは聞いておかないと荷物はまとめないといけないし」

「できれば帰る時に一緒に来てくれるといいかも? ラースさん、どう?」


 とりあえずグラフさんとスピカさんの二人は移住するにあたって荷物の整理をしたいとのこと。ラースさんの手間がかかるので直接聞いてみると、


「今から俺達は買い物に行くからそれまでに準備できれば転移魔法で一緒に向こうへ行こう。無理そうなら明日の朝、迎えに来るよ」

「俺はそれほど持って行くものは……いてぇ!?」

「道具をもっていかねえつもりかグラフ? 来い、まとめるぞ。皆さんが帰る時に一緒に行くんだ」

「わ、わかったよ」


 ドランさんに連れられて工房へ消えるグラフさん。残されたスピカさんと両親も話を始める。


「お前は荷物が多いのか?」

「まあ……服とかくらいかな? ベッドとかはあるのかしら?」

「それは作るから大丈夫だよ」

「作る……!? なら身の回りのものと服、道具くらいね。すぐまとめられそうだから皆さんが帰る時ご一緒させてください」

「よろしくねぇスピカさん」

「よろしく!」

「い、いいのかしらねホント……。そこ、ニヤニヤしないの!」


 僕達が握手をすると、まだ顔の赤いスピカさんが困ったように笑う。

 両親はそんな彼女を見てニヤニヤしていた。まあ分かっているといったところだろう。


「それじゃあ荷物をまとめてきます! お友達にも挨拶をしないと――」

「ではワシらも一度帰るか。見送りには行きますので」

「うん!」


 そういってスピカさん一家もここを立ち去り、グラフさんのお母さんだけが残った。


「ごめんなさいねえ騒がしくて。あの二人、ずっとあの調子でケンカばっかりするのよ。お互いが好きなはずなんだけど」

「まあ、見ていたらわかりますね」


 バスレさんが眼鏡の位置を直しながらそういうとお母さんも微笑みながら頷いた。


「だからいい機会だと思って二人きりで生活させてみようかと思ったのよ。だいたいの事情はグラフから聞いていたし。スピカちゃんと会ったのは偶然だけど、呼ぶつもりだったわ」


 ほとんどお母さんの手の内だったらしい。

 小さいころから一緒で、お互い学校でも喧嘩をしていたとか。スピカさんは可愛い系の顔立ちなのでモテていたそうだけど二十歳になる今もまだ彼氏を作ったことがないとのこと。一途というか拗れているというか……。


「ま、これで結婚したら嬉しいけどね。一番早そうだから盛大に結婚式をしたいかも」

「いいわねぇ♪」

「それじゃ私もグラフの荷物をまとめてきますからこれで」

「はい。それじゃ僕達もお買い物へ行こうか」


 そういって僕達は歩き出す。


 そして――


「わふ」

「クルル」


 ということで、一旦町長さんの屋敷へ戻り、大人しく待っていた二頭が久しぶりに口を開いた。ちなみにどっちが僕を載せるか、お互い頭をこすり付けて争っていた。


「健康のため歩くよ。ほら、行こう」

「ふふ、しょんぼりしていますね」

「体力もつけないといけないしね」


 両脇に二頭を招いて挟まれるように歩くことにした。たまに背中を撫でて上げれば機嫌が良くなるので特に問題は無いのだ。


「まずは食料?」

「そうですね、もう少ししたらお野菜などは収穫できると思いますけどまだ買っておいた方がいいでしょう」

「わかった。ベルナさんは?」

「わたしも食料だけど、騎士達の分だから多くなるかも? バスレさんの言う通り収穫できるまでにはいっていないし。後は体力仕事だからお肉もたくさん欲しいかしら?」


 魚は川から池に流れて来たのが釣れるから今はいいんだそうだ。そういえば小型のブラックサーモンが池から飛び跳ねているのを見た気がする。

 ということでまずは食料をば!


「いらっしゃい、仕入れはボチボチだけど見てってくれ」


 と、肉屋さんなのにガリっと細いマスターが笑いながら案内してくれる。お肉は牛・鶏・豚と魔物の肉があるので満遍なく購入。

 冒険者が狩ってきた魔物を卸して売っているようだ。珍しい『グレイブロック』というサイに似た魔物の肉が売っていたので買ってみた。高かったけど、あまり肉がとれない個体なのでそれは仕方がないみたい。和牛の霜降りみたいなものだと思えば。


「こら、涎を飲みこみなよシルヴァ。みっともないよ」

「ハッ!? わふ……」

「これだけ肉が並んでたらフォレストウルフにはご馳走だもんな。……あれ? フォルテが居ないぞ」


 笑いながらシルヴァの頭を撫でていたラースさんがそんなことを言う。確かにそこにいたはずなのにと思っていると、少し離れたところでびっくりした声があがる。


「うわあ!? 魔物がいるぞ!?」

「クルル……」

「あ!? 居た! フォルテ、どうしたんだ? ごめんなさい、こいつは僕の家で飼っている魔物なんです」

「お、おお……マジか? 確かに大人しいけど」


 フォルテが動かないのでじっと見ている方へ目を向けると――


「桃だ」


 そういえば果樹園で桃ができると聞いて大喜びしていたっけ。目の前には大きくてきれいな桃が籠に入っていた。三つで銀貨七枚……七百円。結構お高い。

 

「なんだい桃が好きなのか? 変わった魔物だな。そろそろ寒くなってくるから今のうちに食っておいたらどうだ? なんてな」

「クルル」

「こっちも涎がすごい。水路で頑張ってくれたし、買ってあげるよ。おじさん、三つちょうだい」

「クルルルル……!」

「おう! 良かったなお前。そのまま籠ごともっていってくんな」

「ありがとう! はい、お代」

「毎度!」


 僕はお金を払うと籠を持って一歩下がる。ねだらないフォルテはいい子だなと思う。


「お昼ご飯の時に食べようね」

「クルルル♪」

「うわ、くすぐったいよ」

「他にも買っていくかい坊主」

「そうだねえ――」


 と、ショッピングは始まったばかりだけど、久しぶりなので色々と買ってしまいそうだ。ハリヤーやジェニファー、タイガにもお土産は必要だよね。

ポンプも一度組んでみたいから素材もいるかな?

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