第百三十四話 一件落着というもの


「この人たちはなんだい?」

「あ、ラースさん。カトブレパスを狙ってきた冒険者みたい」

「……えっと、どちらさんで……?」


 冒険者達の後ろから声をかけてきたのはラースさんだった。様子を見に来てくれたのか報告に戻ったのか。

 タイミング的にもし攻撃されていたとしても蹴散らしてくれる状況だったかもしれない。冒険者達は運がいい。

 その冒険者に素性を尋ねられたラースさんは咳ばらいを一つしてから口を開く。


「俺はラース・アーヴィングという。フライラッド国王より命を受けて、そちらの貴族であるウルカティヌス様の護衛をしている者だが?」

「「「げっ……!?」」」

【まあ驚くのも無理はないでござるな】


 オオグレさんがカラカラと笑う中、冒険者達は『坊主はめちゃくちゃ偉いやつだった……?』みたいなことを小声で話していた。


「知らなかったとはいえ申し訳ありませんでしたぁ!」

「いや、僕はいいよ。カトブレパスも冒険者が狩りの対象ということならわかるしね。たまたま僕が見つけて保護したから差し出せないけど」


 冒険者も珍しい生き物を捕まえたり牙や爪といった素材を集めるため殺すこともあるのだ。それは生活のためなのでとやかく言うのは筋違い。

 だけど今回は僕がカトブレパスを確保したので申し訳ないけど諦めてもらう形だ。


「ありがとうございます。では、石化の治療だけでもお願いします」

「うん! もちろんだよ。あと、このままなにも無いのも申し訳ないから――」

「お、おい、ウルカ君」

「大丈夫、お金はあるから。金貨二枚ずつでカトブレパスを買ったということにさせてもらうよ」

「い、いや、そりゃ流石に悪いですぜ」


 顔の割に遠慮するんだなとちょっと胸中で苦笑する。

 だけど、横から奪ったようなものなのでそれだと気は済まないんだよね。

 僕が前に出て手渡すと、冒険者達は困惑しながらも頭を下げてくれた。


「ありがたく頂戴します」

「どういたしまして!」

「はあ……優すぎるのも考え物だなあ」

【そういうのもウルカのいいところだろう。まずいことになれば我らがストッパーになればいい】

「君もたいがい良いヤツだな。なんでリンダさんに倒されたんだか」


 ボルカノはいつもそうだけど、そういえば暴れているからリンダさんに倒されたんだっけ。そういうことをするドラゴンには見えないんだけどな……?


「ラースさん。この人達の仲間が石になっているんだって。薬はまだあるかな?」

「ああ、そうそう。そのことで帰って来たんだよ。様子見もしたかったし。少し血が足りないらしいから分けてもらいたい」

「なるほど。だって、大丈夫かい?」

「クルルルル♪」


 大丈夫らしい。

 一緒に来ていたお医者さんらしき人が注射器をもって血を抜く。ぎゅっと目を瞑ったカトブレパスが可愛いので頭を撫でてやった。


「これだけあれば大丈夫でしょう。ありがとう」

「クルル!」

「それじゃ冒険者さん達もついて来てくれ。薬を渡せると思う」

「お、おう、お願いします!」


 ラースさんの言葉に冒険者さん達がついて行く。一回、僕の方を振り返って手を振って来たので振り返すと闇の中へと消えて行った。


「ふう。これで一安心だ。お前も元のところへ帰れるね」

「クルルル♪」

【嬉しそうだな】


 ゼオラも笑顔でそう言う。とりあえず他の冒険者は分からないけど、元々カトブレパスを追っていた脅威は無くなったと言える。

 明日は町に戻って辺境へ向かうとしよう。バスレさん、どうしているかな?


◆ ◇ ◆


「……助かったな」

「ウルカ君に感謝しなよ? 町に被害が出ているから本来なら罰金くらいはあるんだ」

「わ、わかってますって旦那。あいつ結構すばしっこくて気づいたら見失ってたんですわ」

「ま、冒険者が狩りをするのは当然だしね。石化が治ったから今回は誰もなにも言わないはずさ」


 ラースは後ろを歩く冒険者達へ釘を刺していた。もしあのまま石化が治らず、カトブレパスが死んでいたりしたら牢に入るのは確定だと。

 愛想笑いで謝罪する彼等。そこでふと質問をなげかけてきた。


「そういえば貴族の坊ちゃんがどうしてこんなところに? アンデッドを使役しているみてえだし、大掛かりな作戦でもあるとか?」

「いや、そういうのじゃない。さっきも言ったけど陛下の命令で辺境の開拓に向かうんだ」

「辺境……。子供にやらせることかね」

「彼はちょっと特殊でね。多分問題なく『できる』んだ。あの家も自分で作ったんだよ。数十分で」


 ラースが笑いながらそういうと、冒険者達は顔を見合わせてから肩を竦める。


「それはまた……」

「嘘だと思うか? クリエイトの魔法は名前くらい知っているだろ。だから君たちにお金を払うくらいわけないくらい」

「た、確かにそれなら納得はいくが……。というかあんた、そんなにペラペラと話していいのか? あの子を誘拐するかもしれねえぞ」

「辺境には後三日で到着する。俺はもちろん、向こうには百名からの騎士団が常駐しているから安全は確保されている」


 どうしてこんな話を? と、一人が口にすると、


「機会があれば開拓地へ足を運んで欲しいんだ。騎士は戦えるけど、開拓となると別の知識や力が必要だろう? だから人を集めているのさ」

「なるほど……。いや、そういうことならその内に行きますぜ。俺の村は牛とニワトリを育てていたから飼い方は上手いぜ」

「そういうのだよ。さ、町へ戻って石になった人達を戻そう」


 誘拐するよりもリスクが少なく儲けられる可能性がある。そう言ってラースは笑みを浮かべて冒険者達に話をするのだった。

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