第百三十三話 悪い人間達というもの


 オオグレさんがカタナに手を添えて扉の方をじっと見つめる。確かに耳を澄ますと具足の金属音が聞こえてくる。やがて入口でその音が止むと、扉がノックされた。


「夜分すまない。少し聞きたいことがあるんだがいいだろうか?」


 太い男の声……。

 さらに聞こえにくいけど後三人くらいはいそうな感じだ。


「あ、ちょっと待ってもらえますか? 家の者と話をしたいので」

「ああ、問題ない」

「……子供の声?」

「親子が住んでいるのか。……こんなところに?」


 訝しむような言葉が聞こえてくる中、僕は頭上に浮かぶゼオラへ目を向ける。すると彼女はすぐに察してくれたようで、ニヤリと笑いながらスゥっと壁を通り抜けて行く。


【便利でござるな】

「だね。それにしても何者だろう?」

「クルルル……」

「こけー?」

「うぉふ」

「にゃ」


 姿が見えないゼオラなら偵察はお手の物なので扉を開ける前に数と様相を確認してもらおう。ボルカノも横に寝ているんだけど暗いから見えないのかもしれない。岩みたいに見えるし。

 黙って様子を伺っているとすぐにゼオラが戻って来て僕達へ報告をしてくれた。


【キナ臭い連中だな。冒険者っぽいが盗賊に近い風貌をしている。なんか鎖付きの首輪を持ってるぞ】

「怪しさ大爆発だなあ。強そう?」

【オオグレなら余裕で倒せるな。数は四だ】

【ふむ。気配からすると大した強さではなさそうでござる】


 もしかすると、という思いが強くなり、僕は少し考えた後で二人へ作戦を告げる。考えが正しければ――


「ええっと、話し合いが終わりました。おじさん達の話は扉越しで聞きますね。どうしましたか?」

「ああ? 開けろっつってんだよ。パパかママを出せ」

「悪いけど今、生きているのは僕とペット達だけなんだ。……というか、おじさん達、カトブレパスを狙ってきた人だね?」

「な、ガキが知って――」


 と、彼等が動揺した瞬間に僕は扉を開ける。

 そこから一筋の光が出て行ったと思った矢先、悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんだ……!?」

「ス、スケルトン!?」

「ぐえええ!?」

「こいつ……! ぐあ!?」


 子供の声だけが聞こえていて油断していたのもあるだろう。さらに不意打ちでオオグレさんが突っ込んでいったため場は混乱を極めていた。

 

「光を! <ライティング>!」

「うを!? まぶしっ!?」

「目、目があぁぁ!?」


 さらにいきなり暗闇の中へライティングを放つ僕。これで彼等の目は一時的に使えない。そこへオオグレさんがトドメの一撃を放つ。


【そりゃぁぁぁ! ……安心せい、みねうちでござる】

「ぎゃぁぁぁぁ!? い、いてえ!!」

【おや? すまぬ、久しぶりに人間を相手にしたもので……】

「一人ばっさりいってる!? 回復魔法を使わないと!」

【捕縛してからにしようぜ】

「あ、それもそうだね」


 と、すでに悪い人前提で話を進めているわけだけど、恐らくさっき僕が口にした通りカトブレパスを捕縛するための人間達だと思う。

 さっそく倒れている男達をロープで腕を縛っておき、話しかけることにした。


「こいつを追ってきたのかい?」

「ス、スケルトンを使役しているのか……?」

「あ、カトブレパス……!! そ、そうだ! そいつは金になるからな。わざわざ西の山から追い立ててここまで来たんだぞ!」

「おら、わかったろ。そいつは俺達の獲物だ。返してもら……ふがっ!?」


 勝手なことを言う男の鼻をつまんで目を細める。


「カトブレパスは野生だから言いたいことはわかる。けど、そのせいで町の人達が犠牲になっているんだけどそれについてはどうするのかな?」

「そ、そりゃ人の獲物に手を出そうとしたんだから当然の報いだろうが……!」

「ふうん。なら、先に捕まえたは僕だから僕のものってことになるよね? おじさん達は『現時点』で捕まえられていないんだから」


 冷ややかな目で適当なことを言うおっさん達へ告げる。子供だからと言いくるめられると思ったのか黙り込む。

 こういうのは早い者勝ちなので獲物を追い立てようとも先に手に入れた者に優先権がある。これは冒険者のルールである。


「カトブレパスは僕に懐いているから悪いけどおじさん達には渡せないかな。一方的に攻撃して悪かったね。オオグレさん、拘束を解いていいよ」

【あいわかった】

「クルルル♪」


 脅威がなくなったとわかったのか、嬉しそうに僕に頬ずりをしてくるカトブレパス。こいつも元の山に返してやったほうがいい気がするけど、また狙われるかなあ。

 そんなことを考えているとオオグレさんが拘束を解いて回り、おっさん達が立ち上がる。


「ひ、ひい……」

「くそが……」

【いいのか? 飛び掛かってくるかもしれないぞ?】


 ゼオラが心配そうに言うけど、僕には考えがある。もちろんオオグレさんもいるし、僕自身も強いしね。


「ガキが……!」

「ボルカノ」

【うむ。ふん!】

「生暖かい風が!?」


 僕達へ掴みかかろうとしたその時、ボルカノへ合図をすると男達があっさり転がった。超強力な鼻息で倒してくれたようだ。

 

「な、なんだ、今のは……!?」

【我だ。フレイムドラゴンゾンビの主であるウルカを襲うとは命知らずだな?】

「な!? ドラゴンゾンビだと!?」

「で、でけぇ……!」

「というわけで、カトブレパスをどうしても欲しいというなら僕と戦う必要があるよ。もちろんこのスケルトンのサムライとドラゴンゾンビは僕の味方だ。で、僕自身も――」


 と、薪に使うためにとっておいた太い幹を剣でスライスする。すると男達は目を丸くして膝から崩れ落ちた。


「わ、わかった。カトブレパスは諦める! 命だけは!」

「あ、あと、仲間が石化しているんだ! 治療だけさせてくれっ!」

「ふむ」

【ま、いいんじゃねえかな】


 これ以上攻撃しないならということであれば治療に手を貸すことを告げると喜んでいた。恐らく捕まえようとした時にやられたのだろう。無理しなければいいのに。

 そこへ町へ戻っていたラースさんが戻って来た。

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