第百三十二話 仲良しになる動物達というもの


「クルルル♪」

「こけーっこ!」

「にゃーん」

「うぉふ」


 とりあえずラースさん達が一度町へ戻った後、僕は家屋を綺麗に作り、オオグレさんのことを考慮して囲炉裏がある内装にした。

 動物達も家に入るのでカトブレパスが居たほら穴の中を改造して、奥で暴れられるくらいにしている。で、煙がちゃんと出るよう天上の穴も作った。

 その穴が不意に影が差し、暗くなる。


【ふう、我は必要なかったな】

「それは結果論だよ。頼もしいんだからそんなこと言わないでよ」

【おお、そうか? そう言われたら悪いことはしないな】


 影の主はボルカノだった。

 カトブレパスが大丈夫な魔物だったことを告げてこっちに来てもらったのだ。

 ボルカノが家の隣で寝ているだけで基本的に下手な魔物は近寄れない。


【ではゆっくりさせてもらおう。なにかあったら呼ぶのだぞ?】

「ありがとうボルカノ」


 そういって天上の穴から顔を外して寝そべる音が聞こえてくる。その瞬間、動物達が玄関から飛び出してボルカノの下へ向かう。


【む、なんだ? ほう、お主がカトブレパスだな。なになに――】

「なんか楽しそうでいいなあ」

【まあ動物同士だからな。それより、あいつはどうするんだ?】

「え?」


 玄関を開けっぱなしでいいかと思っていると、頭上からゼオラがなにやら尋ねてくる。


「あいつってカトブレパスのこと?」

【そうそう。置いて行くのか?】

「そのつもりだけど……」

【いや、それは無理ではござらんか? もうウルカ殿を恩人だと思っているしついてくるでござろう】

「そうかなあ」


 流石に野生の魔物がそこまで慣れるとは思えない。するとゼオラが手を打って僕へ言う。


【試しに呼んでみろよ。多分来るぞ】

「ええー? カトブレパスって自分を認識しているかな? おーい、カトブレパスー」

「……! クルルルル!」

「うわ、来た!?」


 認識しているらしい。

 あっという間に僕のところに来て頭をすり寄せてきた。ちょっと可愛い。


「ごめんごめん、特に用はないんだ。みんなと遊んでいていいよ」

「クル?」

「行ってらっしゃい」


 僕が背中のモフモフを撫でてからそう言うと、嬉しそうにジェニファー達の下へ走っていく。


「……確かに」

【だろ? まあ、この辺に一頭で居るのも可哀想だし連れて行けばいいんじゃねえか】

【心強いでござるぞ】

「うーん、ついてくるならって感じかな。群れとかからはぐれたのかな」


 それについてはゼオラが『あり得る』という。生息地域が特殊なので間違えてここまで来た可能性は高いのだとか。あと、成体よりちょっと小さいかもと彼女は言う。


「子供なのか……。親とはぐれたというなら可哀想だね」

【まあ、フレイムドラゴンゾンビとかスケルトン剣士がいるんだからカトブレパスくらいどうってことないけどな】

【ゼオラ殿もたいがいでござるぞ】

【なんだとぉ? この美女にそんなことを言うのか?】

【むほほ、ゼオラ様……!】

「子供にそういうのを見せるのは良くないと思うよ」


 ゼオラがウインクをしながらミニスカートの裾をちらりと上げる。するとオオグレさんが興奮状態になり拝み始めた。結構女好きだよねオオグレさん。

 生前がどういう顔だったか凄く気になる。


 と、いうわけで簡易宿泊施設を作りゆっくりすることにして、動物達とはしゃぎ回った。

 ジェニファーは言わずもがなだけど、やはり魔物同士ということもあってシルヴァと仲が良いみたいだ。

 しばらくして陽が暮れた後はみんなで家の中へ入って休むことに。ラースさん達が戻って来なかったところをみると足りたのかな?


「にゃーん……」


 関係ないけどタイガはカトブレパスのモフ毛が気に入ったようで背中に乗って伸びている。


「そういえば相手を石にする眼だけど、なんでも石にできるのかな?」

「クルル?」

【生き物ならいけるはずだぞ。人間・動物・植物・魔物……】

「なるほど」

【魔力耐性が高いやつはなかなかかかりにくいみたいだけどな】


 あたしなら大丈夫だけどな! と、ゼオラがドヤ顔をして僕を高く持ち上げた。


「クルル!? クルルル!」

「ん? ああ、大丈夫だよ。なんか連れて行かれると思ったみたいだから降ろしてもらっていい?」

【おう】


 浮いた瞬間、カトブレパスが慌てて僕のズボンに噛みついて引っ張ってくれた。危ないと思ったのだろうか?


「こけっ!」

「クルル」

「こーこけっこ!」

「クル!」

「なんかよくわからないけどジェニファーが張り切っているなあ」

【先輩風を吹かしているのでござるかのう。ウルカ殿、スープができたでござるぞ】

「あ、美味しそう」


 今日はジェニファーの産んだ卵とネギ、それとショウガのスープだ。それとクロワッサンのようなパンにハムとチーズ、キュウリを挟んだサンドイッチが夕食となった。


「すぐ戻ると思ったからあんまり食料を持ってこなかったんだよね。お前達もご飯だぞー」

「うぉふうぉふ!」


 一番体が大きいのに嬉しそうに震えるシルヴァにステーキ肉を提供し、他は果物やとうもろこしなどの野菜を与える。だけどカトブレパスは首を傾げて食べようとしない。


「これはお前の分だから食べていいよ? なんだい、律儀な魔物だなあ」

「こけっ!」

「クルルル!」


 なんとなくジェニファーが『食え!』と言った気がした。ふむ、まだ半日足らずだけど情が湧いてくるね。


 そんな調子で仲良く食事をしていると――


【……何者かが近づいてくるでござる】

「え?」


 オオグレさんが湯飲みを置いてカタナに手をかけた。ちなみに相変わらず着物はびしょ濡れだ。


 それはともかくこんな時間に森にいるのは誰だ? オオグレさんの様子からラースさんではなさそうだけど。


 

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