第百三十一話 どうしてお前はこんなところに? というもの

 牛っぽい体に尻尾。

 少し青っぽい体毛に単眼をした魔物は背中にふさふさの毛があった。カトブレパスは毛が無いイメージだったけど、昨今ティラノサウルスには毛が生えていたみたいな話もあるし現実はそういうものなのかもしれない。


 ……というのはおいといて――


「こけー!!」

「うぉふ!」

「にゃーん!」


 ――なぜか飛び出したペット達を追いかけないと! そう思い腰を上げるとカトブレパスに動きがあった。


「クルルル!? ……クル!」

「あ!」

「いかん! 石化光線だぞ!」

「こ!」

「にゃ!」

「回避した……!?」


 カトブレパスが困惑しながらも目から怪光線を放つ。しかし、ジェニファーやタイガはそれをやすやすと回避してさらに迫る……!


「ク、クルル……!!」

「こけ! こけっこ!」

「にゃーん!」


 慌ててカトブレパスも光線を連発するけど、軽快な一羽と一頭に翻弄され狙いがつけられずにいた。


「うぬ……! ただのニワトリと猫がいい動きをする……!」

「確かに二体で動けばどちらかしか攻撃ができん! やるな……!」

【拙者たちと一緒に訓練していた成果でござるぞ!】


 そうオオグレさんが叫ぶ。

 確かに僕達の訓練を近くで見ていて、ペット達はじゃれ合っていたような気がするけど、あれって訓練だったのかな?


「クルルル……!」

「こけー!」

「上手い! 懐に潜り込んだ。これなら目からの攻撃は使えない!」

「うぉふ!!」

「シルヴァが背後からいった!」


 タイガに気をとられていたカトブレパスがジェニファーの接近を許し、お腹のあたりに潜り込む。その瞬間、いつの間にか回り込んでいたシルヴァが背後からダウンさせるべく体当たりを仕掛けた。


「クルル……!?」

「ばうわう」

「こけー」

「にゃー!!」

「ん?」

【なんだ? ウルカを呼んでいるみたいだぞ】


 ゼオラがおでこに手を当てて覗くようにペット達の様子を伺いながらそんなことを言う。シルヴァが抑えているので怪光線の範囲に入らないよう回り込んで近づくことにした。


「お、おい、ウルカ様危ないぞ!」

「多分大丈夫かも? 確保したのは偉いぞお前達。って、なるほど」

【どうしたでござるか? ……ふむ】


 僕についてきたオオグレさんが、納得した声をあげた僕の意図に気づいた。


「クルルル……」


 見た目より弱々しい声を出すカトブレパス。さっき動きが鈍いなと思ったのも無理はない。こいつは右足をケガしていたからだ。

 だから木に体当たりした時も動きが鈍く、今もジェニファー達を攻撃する時にその場から動かなかったのだろう。


「あ、目を閉じた。諦めたのかな?」

【どうするでござるか?】

「うーん、ちょっと申し訳ないけどこの瓶に血を入れさせてもらおうか」

「クルゥ……」

「ああ、ごめんよ。すぐ終わるからさ」


 背後で冒険者達が「大丈夫か?」みたいなことを口にしている。まあここまで抑えていたら問題ないだろう。


「まさかペット達が活躍するとは」

「すげえな……」


 苦笑するラースさんと呆れた顔でため息を吐くマトリクさんが近づいてきた。

 僕が血を採取しているのを見てマトリクさんが口を開く。


「お……。早速血を集めていくれているのか。助かるよ。こいつを連れて帰って絞った方が早いぞ」

「クルルル……」

「なんか可哀想になっちゃってさ。多分、こいつずっとケガしていて治ってないんだよ。縄張り争いか他の魔物にやられたかわからないけど、ここに居るのは不本意じゃないかな?」

「それはありそうだな。まあ、注射器で抜くこともできるから傷の手当てをしてやろうウルカ」

「あ、注射器あるんだ」


 僕はなんとなく捕えてから逆さづりにして血を抜くイメージがあったから、なんだか怖かった。だけど注射器があるならきっと大丈夫だろう。

 僕は病気をしないから知らなかった。


【なら治してやろうぜ】

「そうだね」


 僕は回復魔法を使ってカトブレパスの足を治療すると単眼をパチパチさせて驚いていた。


「ほら、これで安心だ。攻撃しないでくれよ?」

「こけ。こけっこ」

「クル? クルルル?」

「にゃー」

「ばう」

【なんといっているのでござる……?】


 まあ分かるわけないよね。

 でもなんかペット達は意思疎通が出来ているようなので任せておこう。するとカトブレパスは僕と目が合うと、そのまますり寄ってきた。


「クルーン♪」

「懐いた!?」

「珍しい魔物で気性は荒いと聞いているけど……」

「そうなの? あ、やっぱりモフモフしているよこの背中」

「クルルル♪」


 単眼を細めて嬉しそうに鳴くカトブレパス。どうやら説得と僕が治療したことが良かったようで、敵意が無くなったみたいだ。


「こけー♪」

「ばうわう」

「にゃーん♪」

「クルルル♪」


 動物達も嬉しそうで何より。とりあえずこの後のことをマトリクさんへ尋ねてみることにした。


「血はどれくらい必要そうですか?」

「いやあ、わからねえ。注射器一本分は絶対いると魔法医には言われたけどな」

「うーん。町に連れて行くのはまずいし……。そうだ、僕がここでこいつと待っているから一旦、血を持ち帰って足りなかったら採りに来るのはどう?」

「お、それはいいかもしれねえ! ……けどいいのか? ちょっと時間がかかるぞ」

「まあ、ペット達も居るし、秘密基地を作れば身は守れるしね。ラースさんは説明のため戻って、オオグレさんを護衛に置く。どうかな?」


 僕は土でさっと家屋を作ると、カトブレパスとマトリクさん、それと控えていた冒険者達がびくっとする。


「すご……」

「なんだこれ……魔法……?」

「こけー♪」

「うぉふ♪」


 なぜかペット達が誇らしげに鳴く。そんな中、ラースさんが顎に手を当てて口を開いた。


「そうだな……。最善かもしれない。マトリクさん、それでいこう」

「いいのかい? オオグレは確かに強そうだが夜は森も危険が多い。一人で問題ないか?」

「うん。僕自身も戦えるし、こいつらも居るからさ」


 ラースさんが賛成してくれ、僕達は頷く。それならとマトリクさんを含む冒険者達も納得してくれた。

 カトブレパスを説得してちょっと血をもらうと彼らは出発。注射器はあまり痛そうじゃなかったな。


「偉いなお前」

「クルルル♪」

「さて、それじゃ野営の準備をしようか」

【そうでござるな。おや、なにか忘れているような……】

「なんだっけ? ……あ!?」








【我の出番は……?】

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