第百三十話 モフブレパスというもの
「ウルカ様ー。ウルカ様はいずこー」
「さっき男風呂へ入っていくのを見ましたよぉ」
「一足遅かったようですね……。一緒に入る予定でしたが」
「あのくらいの歳の子は難しいからねぇ。お母さん以外の女性とお風呂に入らないんじゃないかしらぁ」
「旅先の冷めやらぬ興奮とかでなんとかなりませんかね」
……なるわけがないと、僕は脱衣所で思う。
いくつになっても十六歳まで僕は体と心の年齢が合わないからどうあがいてもセクハラである。彼女がいいと言っているならとも思うけど、ベルナさんや他の女の人が入ってくる可能性もあるからね。
「ふう……」
というわけで一人でお風呂に入り、昼間のことを考える。カトブレパスの生け捕りは問題ないと思う。ボルカノやオオグレさんというアンデッドには石化は効きにくいというしね。
では懸念点はなにか? それは今までこの地に居なかった魔物が現れたのが気にかかるんだ。
実はカトブレパス以外にも……なんてことがあるかもしれない。
「どう思う?」
【……実はカトブレパスってのは岩が切り立ったような荒地を好むんだよ。それが森に居るのは珍しい。あ、主食はネズミとか小動物と落ちている木の実で、人間は食べない】
それでも目から出る魔力光線で石になるのは厄介だとゼオラは言う。人の来ないようなところに生息するので興奮状態かもしれないってさ。
「どっちにしても辺境に来られたら困るし、やる価値はあるか」
【要らないって言われたら剥製にしようぜ】
「ボルカノが怒るよ?」
ゼオラがいしし、と笑うので諫めておいた。あいつはもっと性格が過激だったらしいけど、剥製にされてから弱弱しくなったそうな。それでもリンダさんと戦う気概は残しているのは凄い。あと、アニーに弱い。
そんなお風呂も終わり、報酬の一部として名物料理をふるまってもらった後は即座に就寝。
◆ ◇ ◆
「お気をつけてー!」
「うん! ベルナさん、ここはお願いしますね」
「はいー♪」
「そんじゃ出しますよー」
冒険者が一声上げた後、馬車がゆっくり動き出す。現地に赴くのは僕とラースさんにオオグレさん。それとペット達にボルカノだ。
ギルドマスターのマトリクさんも自慢の剣をもって参戦してくれた。後は、冒険者が数人って感じだね。
「そっちのフードを被った方、隙がありませんな……。手練れと見える。一度手合わせ願いたいものだ」
【あ、おかまいなく……】
「にゃーん」
「む、ウルカ様の猫か。よしよし」
マトリクさんの意識が顔を隠しているオオグレさんに向いたことを危惧したのかタイガが寄って行った。しかし大男の『撫で』では満足いかないのか髭がしなっている。
とりあえずマトリクさんはしばらくタイガに任せておくとして、ジェニファーは僕の膝。シルヴァは馬車の外をボルカノと一緒に歩いている。
冒険者のみんなはおっかなびっくりだけど、これは頼まれたことなので我慢してもらいたいね。
「どれくらいで到着するんですか?」
「目の前に森が見えるだろ? あそこに入ったら西へ進むんだ。そこに崖があって、洞穴に棲みついてるってな」
「なるほど。……四十分かそこらってとこかな」
御者の冒険者へ質問をし、懐中時計を開いて時間を確認したラースさんはまた縁に背中を預けて座り込む。なんだかんだと珍しい魔物だし緊張しているのかもしれない。
「俺から離れるんじゃないぞウルカ」
「うん。でも僕の方が耐性あるなら前へ出てもいいと思うけどね」
「実戦はやったことないんだろ?」
「まあね。訓練だけは欠かさなかったけど」
念のため僕も自分で作った剣を持ってきていた。クリエイトなら今の自分にあった長さのものを作れるのが良い。フォルドの大剣は大人用で作っているけどね。いつ会えるか分からなかったし。
そんな話をしながら森へ入り、方角を西へ。すると冒険者さんの言う通り崖が見えてきた。少し離れた場所へ馬車を止めてから木陰に身を隠す。
「あれか」
「ええ。ほら穴の中ですかねえ……俺はおっかねえですよ。でも親友を元に戻すまでは弱音は吐けませんが」
「ギルドマスターが居るんだ、今度は捕まえて見せるぜ……!」
ラースさんの呟きに冒険者さんが意識を高める。ほら穴の傍には果実の成る木があったので丁度良かったのだろう。
「さて、どうする? ほら穴の中に居るなら食事なり水を飲みに出てくるのを待つのがいいよね?」
「そうだな。もしかしたら出かけている可能性もある。バックアタックは避けたい」
他にも根城を変えているかも? などの意見が出たけど、闇雲に探すよりはここで一日待ち構えていた方がいいだろうという結論になった。
それで出て来なければ捜索に入ることになるのだけど――
【……む、ウルカ殿。出てきたでござるぞ】
「ふあ……。え? あ! 本当だ!」
固まっていると石になる光線で全滅することを考慮し、いくつかの隊に分れていた僕達。僕はオオグレさんとペット達と一緒だった。
それはともかく、青っぽい体毛をした一つ目の魔物がのそりと穴から出てくるのが見えた。
「本当に単眼なんだ……。でも、あまり気持ち悪く感じないな」
【体の形のせいでござろうか? む、ラース殿達も気づいたでござるぞ】
「だね」
見ればカトブレパスを指さして目で合図をしてくる。ボルカノを使って委縮させてから確保、という流れだ。
「おや」
「クルルル……」
僕が動こうと思った瞬間、カトブレパスはよろよろとしながら近くの木に向かい、体当たりを決めた。
「クルルル♪」
木から落ちてきた果実を口にして嬉しそうに鳴く。ふむ、なんかモフモフしてそうだし、キモ可愛い系だなと思う。
「それにしても動きが鈍いなあ? ま、いいか。とりあえずボルカノを――」
「こけー!」
「にゃー!」
「うぉふ!」
「おや!?」
【どうしたでござるか!?】
「クルル!?」
――ボルカノに声をかけようとした瞬間、 ジェニファーを筆頭に大きな声を上げてペット達が草むらから飛び出した!?
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