第百二十九話 物わかりがいい人たちというもの
【ほう、転移か。やるではないか】
「ありがとう。ドラゴンみたいな大きなのを運ぶには丁度いいんだけど、一回行ったことがある場所だけだから微妙なんだけどね」
「それでも凄いよ! 一瞬で別の場所に行けるんだし! 僕も覚えたいなあ」
「そうだな……。ただ、かなりきつい修業になるよ」
「ふふ、思い出すわねぇ。あんな顔をしたラースを見たのは初めてだったもの」
ラースさんは笑いながら僕の頭に手を置いてそんなことを言う。
転移魔法のことを教えてくれなかったけど、ベルナさんの言葉で真面目にきつかったっぽいことが伺われる。
「とりあえず待っていてよボルカノ。オオグレさんは怖いから馬車で」
【あ、はい】
【まあ仕方ねえよな】
大人しく従ってくれるオオグレさんに手を振ってボルドさんの後をついていく。とりあえず僕とラースさんで話を聞き、バスレさんとベルナさんにはボルカノに人が近づいてきた時の牽制をしてもらうことにした。
「お気をつけて」
「うん。ベルナさん、バスレさんをよろしくね! ジェニファーとタイガは僕と一緒に。シルヴァは残ってね」
「はぁい!」
「うぉふ!」
【ふむ、早速子供が群がってきたぞ……!】
「おおきいー!」
「犬さんも居るよ!」
「わ、わふ……!」
「触ったらだめだからねえ?」
早速おもちゃになりそうなボルカノ達。
まあ目立つし仕方ない。一応、門番さんから町に話がいっているようだから大きな騒ぎにはなっていないけど。
「お二人だけで?」
「ええ、僕がボルカノの主で、大人であるラースさんが居れば大丈夫かと」
「達観しているなあ……。町長のところにギルドマスターが行くように頼んでいるので話は早いと思う」
そう言って先を急ぐボルドさん。しばらく歩いたところで到着したのは少しだけ他より大きな建物だった。
察するに町長のお屋敷ってところだろう。
「ボルドさん」
「ギルドマスターは?」
「到着しています。どうぞ」
屋敷の使用人らしき人が外で待っていて、ボルドさんと二、三話してすぐに屋敷内へ。というか門で話してからここまで、すでに用意ができていることに驚く。
連携がしっかりとれているんだろうなと思いつつ、屋敷内へ。
入ってすぐのホール。そこから右にある廊下に行き、最初の部屋をノックするボルドさん。
「入ってくれ」
「失礼します」
低いおじさんの声が中から聞こえ、ボルドさんと一緒に部屋へ入る。するとそこにはクマみたいな人と、清潔な服を着たおじさんが向かい合って座っていた。
僕とラースさんは頭を下げると、クマみたいな人が歯を出して笑う。
「おお、よく来てくれた! 俺はマトリク。この町のギルドマスターをやっている」
「ワシは町長のモダン。それで重要な話とはなんだ? ああ、すまない、客人は座ってくだされ」
「ありがとうございます」
僕とラースさんがもう一つ、お誕生日席のようになっているソファに着席すると、ギルドマスターのクマさん……じゃなくて、マトリクさんの隣にボルドさんが座る。
「彼らはここへ戻る途中に出会った旅の方なのですが――」
と、ボルドさんが話を切り出し僕達と会った経緯とボルカノのことなどを話してくれた。二人は驚いていたけど、ボルドさんは信用のある人らしく信じていた。
「……それならカトブレパスくらいならなんとかなるか。しかし、よろしいのですか?」
「はい! ご近所さんになると思いますし、危ない魔物は放置できませんしね」
「ご近所さん……?」
「それは俺が説明します」
そこでラースさんが僕にウインクをして言葉を続ける。そこで僕達の素性を説明すると、二人が慌てて頭を下げてきた。
「なんと辺境の開拓者とは……それに貴族……。知らぬこととはいえ申し訳ございません」
「いや、ホント……俺もこんなだから。いえ、こんな感じなので」
「全然気にしないでください! 僕も罰みたいなものなので。それで、カトブレパスはどのあたりに?」
「ここから3キロほど行った森の中にいる。人間は近づかないように言っているが、魔物同士で争っているようなのです」
「多分、別のところからきた魔物なんだろうな」
マトリクさんが腕組みをしてそう口にする。
追われたかなにかで本来の住処ではないところへ来たのではないかと。
どちらにせよ、駆除しないことには狩りもできないし薬草採りも難しい。だからボルカノで討伐して欲しいとボルドさんが再度頼んで来た。
「話はわかりました。それなら――」
「では、成功した暁にはそれなりの報酬を期待してもいいでしょうか?」
「ラースさん?」
僕が見上げると、ラースさんは「いいから」とそのまま続ける。
「先ほどお話した通り、我々は辺境開拓をする予定です。即金よりも労働力を借りたいと思うのですがいかがでしょうか?」
「ああ」
上手いなと僕は感心する。
確かにお金は僕達にはあるけど、人手が足りない。騎士達は合流する予定だけど、専門職の人は中々難しいもんね。
すると三人は顔を見合わせてから頷いた。
「ここから辺境までは三日ほど。解決していただけたら口利きをすると約束しましょう」
「オッケーです。では作戦から考えましょうか」
ラースさんはにやりと笑って握手をした。いいなあ、カッコいいや。
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