第百三十五話 モフモフブレパスはどうする? というもの
「ふあ……。とりあえず、血はもう大丈夫だったかな?」
【ラース殿も戻って来なかったから恐らくは】
【そんじゃ町に戻るか?】
「そうだね、じゃ家を壊していくよー」
「こっけー!」
僕は荷物を取り出してからクリエイトでちゃっちゃっと元の洞穴へと戻していく。
魔力の消費はさほど高く無いので鼻歌交じりだ。
「ふんふふーん♪」
「クルクルルル~ン♪」
「わふわふわふふ~ん♪」
なんだかカトブレパスもご機嫌だ。
ただ、野生のカトブレパスなので、この後のことを考えると少し寂しい。
ひと通り作業が終わった後、僕はみんなに言う。
「それじゃあ町へ戻るよ。カトブレパスとはここでお別れかな? ケガも治ったし今なら元居た場所に帰れるんじゃないかな?」
「クル!? クルルルル……」
「うわあ!?」
ガーン! といった目になったカトブレパスは僕に頭をこすり付けてきた。で、顔を舐めまわされてしまう。
「ス、ストップ! 僕達と離れたくないのかい?」
「クル! クルルルル!」
そうらしい。
さてどうしたものかと思っていると、珍しくタイガが僕の足元に来た。
「にゃー」
「クルル」
「連れて行けって?」
「ふにゃん」
相変わらずのんびりした鳴き声を出すタイガはカトブレパスの前足に自分の前足を置いた後、僕の靴のつま先に前足を置いて一声。
「いいのかなあ? 結構特殊な魔物っぽいけど」
【ヴァンパイアハーフならこういうのも飼っているんじゃねえか? ペット達もいるし、大人しいから大丈夫だろ】
「まあ辺境は寂しい土地みたいだしいいか」
「クルルルル♪」
僕がカトブレパスの背中に手を当てる。ハリヤーよりは小さいけど、背中のモフにギリギリ触れるくらいの高さがある。
するとカトブレパスはしゃがみこみ、背中に乗れと示唆してきた。
「いいの?」
「クル!」
「なら遠慮なく……」
僕が乗ると嬉しそうに鳴いてから立ち上がった。中々力強いけど、魔物にしてはそこまで強くなさそうな感じがする。
「カトブレパスって好戦的じゃないのかな?」
【そうだなあ。縄張りを荒らしたりしなかったらそうだと思うぞ。肉食じゃないし】
「攻撃されたら反撃する感じかな」
「クルル」
それならまあ大丈夫かも? 旅の間は僕達が見ていればいいしね。
「よし、それじゃ今日からお前も仲間だ! 行くぞー!」
「クルー♪」
【では拙者はシルヴァに乗せてもらうとするでござる】
「わふ」
フードをすっぽりかぶったオオグレさんがシルヴァの背中に乗る。僕がジェニファー、オオグレさんがタイガを懐へ入れると程なくして町へと出発した。
【そういや名前はどうするんだ?】
「あ、そうか。ずっとカトブレパスって言うわけにもいかないよね。うーむむ」
ゼオラに言われて確かに名前があった方がいいかと腕組みをし、考える。
カトブレパスの後頭部を見ていると、
「クル?」
「ふむ」
僕の視線に気づいたのか単眼を向けて来た。目を瞑り、笑っているようで可愛い。
しかし、可愛いだけではもったいないと、僕は知識を探り当ててから口を開く。
「よし、今日からお前の名前はフォルテだ!」
「クル? クルルルル♪」
【へえ『強く』って意味か。なんか優しそうな奴だし、いいかもしれないな】
「でしょ? きっと辺境の地は大変だからね。みんなで強くことにあたらないといけないと思うって意味でもつけたよ。うわ!? そんなに跳ねるなって!?」
「こけっこー♪」
名前がついたことが嬉しいのか、文字通り飛んで喜んでいた。段々と人間以外の仲間が増えていくなあと思いつつ跳ねるフォルテの背を撫でた。モフモフだ。
そして――
「自分たちで戻って来たのか。もうすぐ迎えに行くつもりだったんだけどな」
「行き違いにならなくて良かったよ」
――町に戻り、門でラースさんを呼んでから中へ入る。苦笑するラースさんと話していると、バスレさんが口を開く。
「それでこの生き物がカトブレパス、ですか?」
「クルル♪」
「そうそう。こいつも連れて行くことにしたからよろしくね! 名前はフォルテだよ」
「やっぱりこうなったか。まあ、あの冒険者達も金をもらったし不満はないだろうさ」
フォルテを狙っていた人達は石化解除の薬をもらうとすぐに旅立ったそうだ。石にされたのはそれこそフォルテの住処付近らしい。まあ報酬は適当に分けてもらいたいものだ。
そんな僕達も出発しないといけないのだけど、その前にと町長さんが自分のところへ来て欲しいという伝言をもらったので向かうことになった。
「待ちわびておりましたぞウルカ様」
「戻って来たか! いやあ、ありがとうな!」
「ひぃ!? 髭が痛い!?」
通された部屋に入るなりギルドマスターのマトリクさんに抱っこされて頬ずりをされた。クマみたいな人だと思っていたけど髭も硬い。
「おお、すまんすまん。で、ラース殿から聞いたと思うがカトブレパスにやられた人間の治療は終わった。薬液を頭からかけるだけだから手間は無かったな」
「あ、そういう感じなんだ」
飲ませるのは無理だと思っていたけど頭から一気にやるものらしい。ともあれ町の人達も一安心となった。
「それであのカトブレパスなのですが、今後は大丈夫でしょうか? やはり採集をするには森に行かなければならないので」
「だから町長、刺激しなけりゃ大丈夫だって。ウチのギルドでも注意喚起をするからな」
「ああ、そのことですか。大丈夫ですよ」
僕が笑顔で頷くと、町長のモダンさんも笑顔で手を合わせていた。
「カトブレパスは名前をつけて僕達と一緒に辺境へ行きますから」
「え、つ、連れて行くんですか!? 魔物を?」
「はい! 大人しいし、好物が果実なので人を襲わないみたいですから。元の居場所に帰るように言ったんですけど嫌だって」
「そ、そうですか……。そういえば大きな狼も一緒に居ましたな……」
「はっはっは! やるなウルカ様! ウチの冒険者よりも胆力があるんじゃねえか? なら、この件は解決だな」
「う、うむ! 本当にありがとうございました……!」
モダンさんが深々と頭を下げてくれた。乗り掛かった舟だし、平和に終わって良かったよね。
で、僕達は今後の話をして再度旅へ出ることになる――
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