第百二十七話 依頼を受けるというもの


 ――フライラッド王国の辺境にある土地。


 土地の名前は特にないらしいんだけど、理由は『本気で開拓しないといけない』かららしい。自然があふれるいい場所で、僕達が町を作る場所付近には高い山が聳え立つ。

 その山があるおかげでここへ隣国からのちょっかいを受けることは無いそうだ。

 代わりに人の手が殆ど入っていないので魔物が多い。

 実際、近くなるにつれてシルヴァの警戒度は結構上がっているんだよね。ボルカノが居るから襲っては来ないみたいだけど。


 そんな旅路もそろそろ終わりが見えてきた十五日目。僕達は見晴らしのいい草原でキャンプの準備をしていた。

 

「やっぱり結構遠いね。半月は長いと思うよ」

「だから辺境なんだけどな。トーリアさん、今日は俺が食事当番だからゆっくりしててください」

「ありがとうございますラース様。……って、いいのかねえ毎度」


 パンダ獣人のトーリアさんが馬達に水をやっているところでラースさんが声をかける。バスレさんが乗る馬車の御者という仕事は変わらないけど、食事当番はローテーションでやっていた。


 見張りは眠らないで問題ないオオグレさんとボルカノ、そしてゼオラが居るので必要がない僕達は相当楽をしているとベルナさんが笑っていたよね。

 そんなわけでいつも通り見慣れた動きでキャンプの準備を進めていると、少し離れたところにある街道をぽっくりぽっくりとゆっくり移動する馬車が通りかかる。

 あんなにゆっくりで大丈夫かなと思っていると、不意に声をかけられた。


「おーい、あんた達そんなところで野営かね? 町はすぐそこにあるぞ」

「ありがとうございますー! でも、こいつがいるので町へは入れないんですよー」

【うむ。気遣いを感謝するぞ人間】

「おう!? でけぇ……」


 ボルカノが首を持ち上げて馬車のおじさんに語ると、驚愕した声が聞こえてきた。

 大きいし、ドラゴンだからそれは当然なんだけどね。

 そのまま立ち去る……かと思いきや、おじさんは馬車を動かしてこちらへ向かってきた。

 そこでラースさんが前に出ておじさんを制止する。


「すみませんがそこで止まってください。私はこちらの少年の護衛をしているラースと言います」

「同じくベルナですよぅ。ドラゴンさんが居るのにどうしてこちらへ?」


 おお、カッコいい。僕もさりげなくこういうことが出来るようになりたいものである。そんなことを考えていると、おじさんは両手を前に出して振りながら口を開く。


「いえいえ、怪しいものではありません。わしはこの先の町に住むボルドというものですじゃ。ぶしつけな質問で申し訳ないのですがその立派なドラゴンはどなたかテイムされているのでしょうか……?」

「えっと、僕ですけど、どうかしましたか?」

【なんだ? だいたいの人間はびびっちまうもんだがな】


 ゼオラが頭上で首を傾げていた。確かに寝ているだけでも巨大さがわかるボルカノにわざわざ近づいてくる理由は無いだろう。

 するとその理由を説明してくれた。


「わしはロッキンの町で役人をしておるのです。今は隣町の状況報告会議からの帰宅途中でしてな」

「そういうのあるんだ」

「依頼で倒した魔物の数なんかで危険かどうかの判断をしたりするんだよ。それと我々に接触してきた話がどう繋がるのでしょう?」


 僕に分りやすく例をあげてくれて納得する僕。そんな中、ラースさんは理由をさらに尋ねていく。


「ロッキンの町周辺。正確には辺境に近いところに強力な魔物が住み着いてしまい困っているところなのです。それを退治していただけないか、と」

「強力な魔物、ですかぁ? デッドリーベアさんみたいな?」

「いえ、それが――」


 と、渋い顔でボルドさんが俯く。そして少し沈黙した後、口を開いた。


「どうも、カトブレパスという魔物のようでして……。冒険者が退治しに行きましたが腕や足、はたまた全身を石に変えられてしまいました」

「おや!?」


 結構大変な魔物だ!? オークとかオーガみたいな集団が住み着いたのかと思ってたんだけど人を石にする魔物とはびっくりだ!


「また厄介なのが住み着いたなあ」

「そうなのです。こちらから仕掛けなければ大人しいのですが、すでに石に変えられてしまった者はカトブレパスの血を使った薬でなければもとに戻せないらしく……。生け捕りにする必要が出てきてしまいまして……」


 そこでドラゴンの出番ということらしい。

 ラースさん曰く、カトブレパスの瞳(単眼なんだって)から出る魔力の光線を浴びてしまうとその部分が石と化すとか。

 ただ、魔力なので抵抗力が強い人間や魔物は徐々に石化するか、そもそも通用しない。


「後はアンデッドにも効かないな。原理はよくわからないんだけど」

「なるほど……」

「ドラゴンなら石化はしないはずなので、どうか生け捕りにできないでしょうか? 報酬は当然払います」

「ボルカノ、どう?」


 僕は依頼されているボルカノへ声をかけてみる。実際にやるのは彼なので、嫌だと言えば考えなければならない。


【ふむ、我は構わんぞ。辺境にウルカにとって困る魔物がいるのは困るのでな】

「おお……! ボルカノ様!」

「よし。それじゃみんな。悪いけどカトブレパスを捕らえる依頼を受けよう。困っている人は助けないとね」

「わかったよ。領主様がそう言うならね」

「りょ、領主? で、では是非、町まで来てゆっくりしてください。現状もお見せしたいので――」


 ボイドさんがそう言って立ち上がり、僕達を町へ案内してくれるらしい。それならとキャンプの支度を止めてロッキンの町へ向かうことにした。

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