第百二十六話 意外……でもないお話というもの


 母さんと僕を主に崇拝(?)するバスレさん。

 彼女は僕に血を吸われてヴァンパイアになることを良しとしている。けど、どうしてそこまでするのか僕には不思議で仕方がなかったりする。


 この十年間、面白く過ごせていたのは間違いなく彼女のおかげだ。いい機会なのでバスレさんの過去を聞いてみようと声をかけてみた。


「母さんに恩があるみたいだけど、なにがあったのさ。……言いたくないこと?」

「そうですね……」

「ああ!? 思い出したくないならいいよ」


 ふと視線を落とすバスレさんに慌てて駆け寄る僕。しかし彼女は微笑みながら僕に言う。


「いえ、恥ずかしいだけですから」

「恥ずかしい……?」

「はい。あれは私が四つか五つくらいでしょうか――」


 そういって僕の作った土の椅子に腰かける。僕も正面に椅子を作ってから聞く態勢になった。


 そして語られるバスレさんの過去――


「そのころの私はいわゆる普通の平民で、割と普通な村に身を寄せていました。両親は居ましたが、両方クズの見本市みたいな人間で母親は浮気、父親は稼ぎをギャンブルと酒に費やしていました」

「……」


 それは……恥ずかしい。

 前世も今世も僕の両親はまともだったので、そういう人達を見たことが無い。それこそ巨大掲示板や創作で見聞きするくらいだ。

 異世界の物語だと変な親は多いけど、ウチの町はそういう人は居なかった。知らないだけかもしれないけど。


 それはいいとして。


 バスレさんは小さいままネグレクト気味に育てられ、その日の食い扶持も厳しい日々だったそう。

 四歳の彼女は働くこともできない。が、父親も母親もほとんどお金を残さないので常に空腹だった。

 そんな時、バスレさんはお店の商品を万引きしてしまった。

 両親がクズだと言うことを知っているからお店の人も叩いたりはしなかったんだけど、警護団へ引き渡されることに。


「……その時、ウルカ様を身ごもっていた奥様と旦那様が通りかかったのです。事情を聞いた奥様はすぐに両親をべこべこにして私を引き取ることを承諾させました。どうせ母親は私に興味がありませんでしたしね」

「お父さんは?」

「父は意外でしたね。私を手放さないと奥様に突っかかっていました。……けど、生活能力が無いのでやせ細った私を見て泣いて手放しましたよ」


 酒とギャンブルはやっていたけど、娘は可愛かったらしい。だけど、お金は無いし家庭を省みなかった後悔をしたそうな。


「まあ、そこは母親がしっかり育てているだろうと思っていたのがそうじゃなかったという後悔かな。結局自分も遊んでいたわけだし、泣けばいいよ」

「ふふ、そうですね。結局両親は離婚して、私はガイアス家へ。父親とはたまに外で顔を合わせますよ。まっとうな冒険者になっていましたが、そろそろ引退かもしれませんね」


 父親の方が愛情深かったらしく、酒は程々、ギャンブルはしなくなり、稼ぎを持ってくることもあるのだとか。

 だけどお金は拒否して話だけ聞く間柄なんだって。けど、父親のところへ戻ることは無かった。


「ウルカ様のお世話をしなければなりませんからね。しかし、伴侶も居ませんしそろそろ引き取ってもいいと思っていますけどね」

「ふうん、恨んではいないんだ?」

「当時はそうでしたけど、今の父はまともですからね。母親は同情できる部分もありますが、父の娘なので嫌悪感しかないらしいので会っていません」


 一応、バスレさんはちゃんとお父さんの子らしい。

 母親はまともだったんだけど、お父さんが家を空けることが多くなり我慢に限界がきた結果の浮気だったようだ。


「そんなわけでここまで育ったのは奥様のおかげ。父親に引き取られたとしてもこうはならなかったでしょうね。娼館にでも行っていたかもしれませんね」

「それは困るから良かったよ。母さんのファインプレーだ」

「はい。ですから、私を眷属にしてくださいね? ずっとお仕えしますから」

「うわ」


 僕を抱っこして優しい目で見てくる。

 その内、子供も欲しいと言っているけどどうなんだろう?


「母さんがヴァンパイアロードは子供が作りにくいと言っていたけどどうなんだろう? 僕はハーフだからいけるかもとは言っていたけど、お互いヴァンパイアは難しそうな……」

「そうですね。ですが、私はこのままだとどんどん老いてしまいます。可愛くも美人でもないですがこの年齢である程度、見た目を維持できるのでいいかと。ダメならそれでも仕方ありません。妻としてではなくて構いません。どうか、私の血を……」


 ふむ。

 バスレさんはそういう過去があったから僕を選んだのかな? やっぱりお金は人を狂わせると同時に、生きていくのに必要だ。

 僕は自分で言うのもなんだけどお金はある。嫁候補もいるけど、それは構わないらしい。貴族だから妾はいても、と。


 十歳の子供に言うことではないと思うけど、今までの言動から理解はできると判断されたらしい。


「バスレさんがそれでいいなら、僕は希望に沿うよ。まずは向こうに着いて、生活基盤を整えてからね」

「はい。よろしくお願いします」

「ふひ……!?」


 バスレさんが僕の口の端を広げて牙の確認をする。前はよく唇を噛んでいたけど、今は伸びきったのでそんなこともなくなっている。

 

 とりあえず……彼女が本気だということが分かったけど、大丈夫かなあ。

 みんな僕に執着しすぎじゃないかな?

 いや、正直モテているのは悪い気しないんだけどさ。ユキさん、変な能力つけていないよね……? RichとLichを間違えるくらいだし……。


 そんなバスレさんの過去を聞いて複雑な心境になる僕であった。

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