第百二十五話 のんびり旅路をするというもの
そんなこんなで旅を続けて早くも五日が経過していた。
ボルカノが一緒なので町へは寄らず、基本的に野営をして先を急いでいる。
女性が二人居るのでラースさんやトリーアさんと一緒に街で休んでもいいと言ったのだけど、特に問題が無いということでそのままだ。
「さて、今日の寝床を作ろうかな。久しぶりにお風呂も入りたいから作ろうかな」
「さすがですウルカ様」
「お風呂入れるのぉ? いいわねぇ♪」
「こけー!」
女性陣はやはりお風呂が入れるのは嬉しいようだ。ジェニファーも雌鶏だからかどことなく歓喜の声に聞こえる。
「それにしても豪華だな……。俺も貴族だけど食料や雑貨の量が違いすぎる」
「まあボルカノに荷物をいくら持たせても余裕があるからね。父さんが張り切っちゃったせいもあるけど」
【ふふん、我の力なら当然のことだ】
近くで寝そべっているボルカノが鼻を鳴らしながら自慢げに言う。実際、馬車でこれだけの荷物を持って行こうと思ったら五台じゃ足りないかもしれない。
なのでドヤ顔をするには十分なことである。
「ラースさんは鞄二つだけなんですね」
「大掛かりなものは先遣隊に持って行ってもらっているから、当面の着替えや調理器具だけだよ。後は着替えとかかな」
「なるほど。ベルナさんも軽装だからなんでかなって思ってたんですよ」
「十歳にしてはよく見ているなあ。昔からそういう子だったとデオドラ様から聞いてい吐いたけど」
「お知り合いなんですね」
五年間、修行の日々だったので王都に行くことは無く、デオドラ様やルース様と顔を合わせたのはあれっきりだ。ロイド兄ちゃんの話だと、ルース様も十八歳になって王族らしく立派になったのだとか。
デオドラ様はまだ引っ込み思案ではあるものの、パーティーに出席できるようになったりしたとのこと。背も伸びたぞと笑っていた。
僕に会いたいらしいけど国王様が止めているらしい。結婚相手に考えられていた僕は辺境行きになったので候補から外れたそうだ。そこは安心したかもしれない。
【周辺に魔物の気配はござらん。拙者は食事の必要がないので防衛を承る】
「助かるよオオグレさん」
そこへシルヴァと共に周辺の調査へ出ていたオオグレさんが戻ってくる。
彼の腰には刀と同じような反りのある剣がある。
僕の腕ではあまり再現できなかったけど旅に出る前にオオグレさんの武器を一つ作っておいたのだ。
ロングソードと呼ばれる騎士剣ではしっくりこないと言っていたので、鞘と一緒にプレゼントした。
量産型ゲーミングチェアの使用料で少し稼げていたからロイド兄ちゃん達と同じアダマント鉱石で出来ているので切れ味はバツグン。オオグレさんも(見た目じゃわからないけど)ニッコリだったよ。
【今日は風呂を作るでござるか?】
「うん。そろそろバスレさん達も食べて寝るだけだと疲れることだしね。昨日の草原と違って今日は近くに森があったのも大きい」
【うむ。男風呂も作って欲しいでござる。ではゆくぞシルヴァ!】
「うおふ!」
さりげなく要求を口にして去っていくオオグレさん。僕が答えていた様子を見てラースさんが口を開く。
「……動くスケルトンで意思疎通ができる、か。そしてあの身のこなし。さぞ生前も強かったに違いない。アンデッドを倒す方法は割と難しいから、いい護衛を連れていると思う」
「そうですか?」
「うん。頭を粉々にするか骨ごと消滅させるくらいしか思い浮かばない。あ、それと敬語じゃなくていいよ。俺を兄だと思って普通に接してくれ。ベルナに対してもそれでいいよ」
「わかりました! いえ、わかったよ! というかやっぱりオオグレさんは強いんだなあ」
アンデッドもゾンビやグールといった腐乱死体系は肉についた脂で、火をつけると骨が溶けやすいみたいだけど、骨だけになるとそれが難しくなるそうだ。
とりあえずラースさんが気安い方が楽だと言いながら僕の頭を撫でる。とりあえず今から寝床とお風呂を作るため作業に入る。
「それじゃ俺もベルナを手伝ってくる」
「オッケー」
早速気安い返事をするとラースさんは目を細めながら、片手をあげて猫のタイガと遊んでいるベルナさんの下へ行った。
「さて、日が暮れる前にちゃっちゃと作っちゃおうかな」
僕はもう慣れたクリエイトを使って土を盛り上げ、家屋を作る。男女別で、トイレも完備している豪華版だ。ちなみに男の方が多いから男性用は結構大きく作るのである。
「次はお風呂だな。ちょっと簡単だけど、壁と屋根付きを作ろう」
首を鳴らして次の作業に取り掛かろうしたところで背後に気配を感じた。振り返るとメイド服じゃないバスレさんが立っていた。
「あれ? どうしたのバスレさん」
「私のお仕事はベルナさんに取られてしまったのでウルカ様のお世話をしに」
「あはは。屋敷じゃないからゆっくりしていていいのに」
「そうはいきません! 私はずっとウルカ様についていくと決めたので。……とはいえ、私にできることはあまりないのですが……」
そういって苦笑するバスレさん。
実際、ウオルターさんでも良かったわけだけど、ここは母さんとバスレさんが鼻息を荒くしてついてきてくれた。
でも、家事のレベルは高いし料理も美味しいのでそれだけで十分なんだけどね。
「開拓は大変ですからね。その程度しかできないのが悔しいですよ。……だから」
「だから?」
「早く20歳になってウルカ様に眷属にしてもらうのが楽しみです」
「あれ、本気なの!?」
「はい。色々と考えましたが、奥様に助けられなければ今、ここには居なかったのですから。双子のお兄様方にももちろん感謝していますが、生まれた時から一緒だったウルカ様と一緒に居たいと――」
と、そこで僕は気になることを聞いてみることにした。
「そういえばバスレさんって母さんに助けられたって前に言っていたけど、なにがあったの?」
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