第百二十四話 普通の人間だというもの
「なんだと思う?」
【盗賊か火を吐く魔物か……どっちにしてもロクなものじゃないな】
「旅に出てまだ一日経ってないのに困るなあ」
とはいえ、見過ごして通過できるほど冷たく生きていけない僕はハリヤーを走らせる。シルヴァ、それとラースさんがついて来てくれている。
「わおわおーん!」
「どうしたんだいシルヴァ? ……ん、あれは」
「なるほど、原因はこれか」
横に並ぶラースさんが納得したように口を開く。
それもそうだろう。発煙している場所に到着した僕達の目の前には、恐らく生木を使って焚火をしようとした人間がいたからだ。
「げーほげほげほ!?」
「ぐあああ! 目が、目がぁぁぁぁ!?」
「くそ、全然火がつかないな……! 枝を追加だ!」
「はい、そこまで<ミズデッポウ>」
「「「ああああああああ!?」」」
「へえ」
僕の指先から出た水圧の強い水が焚火にヒットして鎮火させる。大声で叫ぶ三人をよそに僕が声をかけた。
「それ、生木を使ったでしょ。枯れ木じゃないと今みたいに煙が出て大変なことになるんだよ」
「ああ? ガキが生意気言ってんじゃねえぞ!」
「この子は貴族で、俺もそうだけどそんな言い方していいのかい?」
「よく見れば気品のあるおぼっちゃまですね!!」
権力に弱いタイプか。分かりやすくていいけど。
「とりあえずその辺の木を集めて……っと」
「わふわふ」
僕とシルヴァで適当に集めた枝を彼等の作った焚火に置くと火の魔法で燃やしてあげた。
「これでいいと思うよ。火事みたいに見えるから煙は気を付けて」
「お、おお……サンキュー。って、よく見えましたねえ坊ちゃん」
「ああ、ドラゴンの背中に乗っていたから高いところに視線があったんだ。それにしてもどうしてこんなところに?」
「ドラゴン……? まあ、いいや。かくかくしかじかだ」
「ふむ」
彼等は冒険者で魔法を使えない人達らしい。
まだ若く、旅を始めたばかりとのことで全員二十代前半である。生木を焚火に使うあたり本当に駆け出しのようだけど?
「ラースさんや僕の兄ちゃん達と同じくらいだね」
「そうなのか。ガキ……じゃなくて坊ちゃん、ありがとよ。どこへ行くんだ?」
「僕達は辺境に向かっているんだ。そこを開拓しにちょっとね」
「へ、辺境ってあそこか? マジか、なんもない土地だぜ? 子供が行くってのか」
冒険者の一人が僕を見て訝しむ。するとそこでラースさんが真面目な顔で口を開いた。
「陛下からの使命だからやれないとは言えないだろう」
「ああ、もしかしてあんたがメイン?」
「ううん、僕だよ。一応、こういう魔法があるからね」
そう言ってその辺の土を使って適当な家をクリエイトで作り、寝床を用意した。
すると冒険者達は目を丸くして立ち尽くす。
「って感じで開拓には最適な魔法なんだよ」
「す、すげえ……家が一瞬でできただと……」
「テントいらねえぞ……屋根もしっかりしている……」
「賢者かなにかなのかあの坊ちゃん」
【ま、びっくりするだろうな。あたしも使えるんだけどさ】
ゼオラがドヤ顔でそんなことを口にしていた。まあ山火事や魔物が暴れているわけではないと分かったのでみんなのところへ戻るとしようか。
「それじゃ、気を付けてね」
「あ、ああ……」
「これ使っていいのか?」
「いいよー。放置していたらその内崩れるようにしているからずっとは使えないけど」
そういう『期間限定』みたいな作り方も少し覚えたので、そのまま動物や魔物の巣にされるようなことはないだろう。
ポカンとする彼等を置いて、僕はハリヤーを駆ってその場を後にする。
「良かったですね、何事も無くて」
「だな。それにしてもクリエイトは見事だった。それとミズデッポウってなんだい?」
「あれは僕が考えた魔法なんです。指をこうやって撃ちだして標的に当てるだけ。あ、でも水圧や速度を変えると――」
僕は移動中に少し太めの木の枝へ凝縮した水を発射する。すると鋭利な刃物で斬ったようにスパッと枝が落ちた。
「こんな感じで威力をあげることもできるんです。細く穿つって感じで」
「……へえ」
「おや?」
なんだかラースさんの顔が引きつっていたような気がするけど……。でも、転移魔法なんて使えるんだからこれくらいでは驚かないと思うし、気のせいだよね。
「あ、戻ってきたわぁ」
「わふわふ!」
「こけー!」
そんな話をしていると森からまた街道へ。僕は経緯を説明し、再び辺境へ向かって旅を続けるのだった。
◆ ◇ ◆
「「「……」」」
ウルカとラースが去った後、焚火を見つめながら先ほど起きた光景を思い返していた。
「あんな子供がすげえ魔法を……」
「俺達は簡単な魔法も使えねえのに……」
彼等は平民で、魔法適正がなかったわけではなく教えてもらえなかったタイプの人間である。
「人のことを言っても始まらねえだろ。俺達は冒険者で名を上げるんだって決めたろ」
「でもよ……。こんなことでいいのかって思うんだ」
「あのガキ、いや坊ちゃんの傍に居た立派な狼を見たか? 俺はアレに勝てる気がしねえよ。でも使役しているんだぜ?」
「あーもう、なにが言いてえんだ!」
リーダー格の男が頭を掻きながら二人に怒鳴りつけた。すると神妙な顔で――
「あの坊ちゃんについていって開拓を手伝ったらいいんじゃないかって思ってよ」
「ああ。兄ちゃんも立派な服を着ていたし、多分強いぜ。頼み込んだら剣術や魔法を教えてくれるかも」
「おい、俺達にゃ金はねえぞ」
「開拓って言ってたろ? 家畜とか畑を貴族が出来るとは思えねえ。そこで役に立つんだよ」
「俺達はそれが嫌で村を出てきたんだろうがよ……」
「でも、このままだといつか魔物にやられて野垂れ死にだ。まだオレ達は若い。少しくらい遠回りしてもいいって」
そう熱弁されてリーダー格の男は目を瞑る。親と喧嘩してまで出てきた自分が畑仕事をやるのかと。
しかし、確かに剣もギルドで認められるギリギリの線。
自分はともかく、ついてきてくれた二人が死んでしまうのは、恐ろしいと脳裏をよぎる。
「……くそ。辺境だって言ってたな――」
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