第百二十三話 旅に出るというもの


【ウルカはこっちでいいのか?】

「そうだね。一応、主が乗っているというのを見せておきたいからさ。それによく知る人間はバスレさんとトーリアさんしか居ないし」


 ハリヤーからボルカノに乗り換えてそんな会話をする。

 少し不満げに鳴いていたけど、ジェニファーとタイガを背中に乗せることで納得してくれた。

 シルヴァは周辺を警戒しながら先頭を歩き、次にトーリアさんが御者をする馬車。その後ろにハリヤーが居てラースさんとベルナさんが脇を固め、最後尾にフレイムドラゴンゾンビのボルカノである。

 そんな布陣の中、自由に飛び回れるゼオラが口を開いた。


【寂しくなるけど、フォルドは立派になって、ステラとアニーは美人になることを期待しようぜ】


 僕の目の前で浮くゼオラがそんなことを言う。まあ、昨日までは賑やかだったし急に人が少なくなると寂しい気持ちはあるよね。


 そんな旅の始まりだけど、立つ鳥後を濁さずということで色々やってきた。

 まず、誰にも教えていない秘密基地二号は内装はそのままで、入り口と窓になる部分を全部塞いで外見だけは見た目通りに戻しておいた。

 せっかく作ったし壊すのはもったいない。


 秘密基地一号はトーリアさんが撤収してから入り口を塞いだ。フォルド達が使うかと思ったんだけど僕が居ないならここへ来ないから使わないのだそうだ。

 子供的なスキンシップだけど、アニーとステラの二人とイチャイチャしていたことのあるあの空間は思い出があるんだけどね。

 ま、帰ってから開けてもいいけど。


【アニーはおませさんだったからな】

「言うなって」


 幼児にはたまにあるらしいからそんなもんだ。ただ、ステラが昔、王都の時計塔で言っていた意味を聞くことはまだ出来ていない。

 彼女は『必ずウルカ君のところへ行く』とだけ口にしていた。


「……」

【どうした?】

「ん、いや。町は大丈夫かなって」

【あー。まあ、ギルバードが居るし、フォルド達もあたし達が教えたことでその辺の冒険者よりは強い。最悪の事態になれば母ちゃん達が居るし心配すんなって】


 ゼオラの言うことはもっともなんだけどね。

 以前、ファナちゃんの村にゴブリンが襲ってきたみたいなのがあって、救出が遅れたら危ないなと考えてしまう。


【そこはみんなを信じようぜ。冒険者にはよくあることだ】

「僕は違うよ!?」


 開拓者兼領主なので冒険者ではないからね?

 

 あ、そうそう。あの池の処遇についても考えた末、温泉施設としてのみ残すことに。掃除も大変だし解体しようかと言ったんだけど、脱衣所もあるし男女別のお風呂にしてあるためクライトさんが運営したいと申し出てくれた。


 魔石に魔力を込めればいつでも熱くなるのでそれは問題ない。掃除はと聞いたら、働き口があんまりないおばちゃん達を雇ってみるということを言っていた。

 で、お風呂は銅貨一枚で誰でも入れるようになっている。


【そういや脱衣所の『ろっかー』ってやつは良かったな】

「あれも別世界のものなんだけどね。なるべく貴重品は持ってきて欲しくないけど、一応鍵つきにしたし、悪くないと思う」


 儲かったら父さんとの取り決めで分配することを決定しているけど、おばちゃん達の給料でトントンじゃないかと思う。そもそも流行るかが問題だ。

 平民の家にお風呂が無いことが多いから絶対いけるとクライトさんは豪語していたけどね。

 という訳で池までの安全は超確保されている。見送りにはこれなかったけど、ギリアムさん達、自警団が頑張っているので往来は安心なのだ。


【ところで今から行く場所はどういうところなんだ?】

「僕はよく知らないんだけど――」


 と、ボルカノが首をこちらに向けて尋ねてきた。返事をしようとしたところで下に居たラースさんが説明を始める。


「今から暮らすことになる辺境は開拓が進まなかった土地なんだ。元々、国の人間が移住する計画があったけど魔物との戦いが主になって生活するどころじゃなかったそうだよ」

「で、そのまま放置となったわけよぅ。先代の王様の時みたいだけど、今の陛下も困っていたらしいわぁ」


 そのままベルナさんがのんびりした口調で追加補足をする。

 なるほど、多分だけど結果的に早まっただけで、いつか僕に依頼をしてくるつもりだったのかもしれないね。


【魔物か。我とオオグレが居ればなんの問題もなかろう】

「頼りにしているよ」

【……アニーは良かったのか? 勉学のレベルはかなり高い。むしろ低年齢相手なら先生としてやっていける】


 学校を作って仕事を与えれば良かったのではとボルカノは言う。その考えには及ばなかったけど、やっぱり同年代の友人を作るのはして欲しいと思う。


【ま、どうせすぐ結婚だろ? バスレも二十歳でウルカが眷属兼嫁にするし、アニーもステラも居る。羨ましいねえ】

「ゼオラは好きな人とか居なかったの?」

【え!? あ、あたしは……うーん、記憶がなあ……】

「居たんだねえ」

【わからねえって言ってんだろ!】


 むくれるゼオラはするりと僕の前から消えて馬車へ。バスレさんには相変わらず見えないんだけど逃げた。


「ま、そういうことだからクリエイトの力をアテにしているんだよ。悪いけどさ」

「大丈夫ですよ。ラースさんの転移魔法も借りたいですけどね」

「覚えてみるか? ウルカ君にならできそうだ」


 ラースさんが嬉しいことを言ってくれる。

 出来たらフォルド達とも定期的に会えるかもしれないし。


【む、先の方で煙が上がっているぞ?】

「火事かな……?」

【……いや、なんかキナ臭い気がするな。火事ならもっと煙が上がってもおかしくねえ】

「確かに。それじゃちょっと行ってみようか」


 僕はすかさずラースさん達に伝言を伝え、ボルカノから降りるとハリヤーに乗り換えて煙の場所を目指す。

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