第百二十二話 旅立つ時はいっぱい詰めてというもの
「あれ!? ラースさんにベルナさん? どうしたんだウチに来て?」
「あ、知っているんだ」
「ああ。この国で母さん以外にリンダさんとも戦える人間の一人だからな。オレも相手してもらったけど全然歯が立たなかったぜ」
と、寝ぼけた眼をばっちり開けて二人の説明をしてくれるロイド兄ちゃん。
どうやらフライラッド王国でも指折りの実力者のようだ。だけど城に仕える騎士ではなく、冒険者に近い立ち位置らしい。
「リンダさんには勝てないけどね。あの人は化け物だよ」
「ママは強い」
「あら、娘さん? 可愛いわぁ」
いつもの無表情でラースさんの言葉に頷くステラ。その仕草を見てベルナさんが抱きかかえていた。
というか……
「他に城からの人は居ないんですか?」
「わたし達は護衛も兼ねてこっちに来たのよぅ。他の人はみんな先に辺境へ向かっているわぁ」
「あ、そういうことか」
護衛が二人というのも凄い。よほど信頼できる強さを誇るのだろう。オオグレさんとどっちが強いかやって欲しい気もする。
【いい天気でござるな! 出発びよりでござるよ】
「……! 出たな魔物!」
【いきなりの洗礼!?】
「ラースさん速っ!?」
「止めた……!?」
僕があらぬことを考えているとカラカラと笑いながら登場したオオグレさんにラースさんが斬りかかった。
瞬時に間合いを詰めるが、オオグレさんは剣にかけた手を抑えてラースさんが抜けないようにしていた。
ふむ、やはりオオグレさんの強さは半端ではない。実は僕の予想としてオオグレさんはリンダさんと同レベルじゃないかと考えている。
この五年、四人で修行していたけど打ち合いの際はまるで隙が無かったからね。
「ラースさん、そのスケルトンは僕の眷属なんだ。攻撃はしないでくださいね」
「眷属……。そういえばフレイムドラゴンの骨を復活させたから今回の依頼に繋がったと聞いたな。なるほどアンデッドを使役するんだな」
「ヴァンパイアハーフだけど、どちらかと言えばリッチみたいねぇ」
「お金持ちは確かにそうだな」
ベルナさんの言葉にフォルドが頭の後ろで手を組んで笑う。だけど困った顔で笑いながら彼女は言う。
「そっちじゃなくて不死の王のリッチよ。触れただけで使役できるなんてネクロマンサーでも無理だからねぇ」
「ウルカ君はすごいんだよー」
「うんうん」
「わあ」
僕とベルナさんの前に割って入ったアニーが口を尖らせていた。ベルナさんは特に嫌な顔などせずにアニーを抱っこして頬ずりをしていた。
「ま、ちょっとクセがある弟だけど頼むよラースさん」
「分かったよロイド。君ももっと強くなれるから、騎士達の中で揉まれるといい」
「へへ、頑張りますよ」
「その間、俺がウルカとここを繋ぐ行商を考えている。その時はよろしくお願いします」
「うん」
ギル兄ちゃんは僕の住む土地とここを行商人を使って行き来できるようにするらしい。冒険者兼商家の息子なのでその辺のツテはあるらしい
とりあえずこれで準備は整ったかな?
「そういえば母さんが出てこないね」
「昨日も大泣きしていたからなあ。呼んでくるぜ。バスレもまだみてえだしな」
「ありがとうロイド兄ちゃん! というかマリーナさんとはどうなったのさ。ちゃんと会った?」
「うぐ……。い、行ってくる」
「マリーナお姉ちゃん?」
「うん」
ステラが首を傾げて尋ねてくる。
マリーナさんとはなんだかんだ卒業前に彼女から告白して付き合っていたはず。で、その内王都へ行くからと今は離れているんだよね。
「……ギル兄ちゃんはリカさんと付き合わなかったし、期待しているんだけどね」
「うぐ」
「ダメージがでかいな」
フォルドがギル兄ちゃんの背中を撫でながら苦笑していた。こっちはお互い意識していたような節はあったんだけど、お互い奥手で告白しない間に、リカさんが別の男に告白された、という感じ。
「ま、ギル兄ちゃんならいい人が見つかるよ」
「そうあって欲しいものだ」
「まだ若いから大丈夫だよ」
ラースさんにそう言われて肩を竦めるギル兄ちゃん。そんな話をしているとロイド兄ちゃんが母さん達を引っ張って来た。
「うう……行ってしまう……」
「ギルバードは家に居るからいいじゃないか。パパも寂しいけど……」
「奥様、ウルカ様は命に代えてもお守りします」
「頼んだわよ……。そろそろウルカも吸血できるようになるはずだから、二十歳くらいで眷属になればその美貌のまま長生きできるわよ。子をバンバン産んで」
「はい」
母さんはまだ壊れているようだ。
とりあえず安心させるため僕は正面から母さんに抱き着く。
「大丈夫。母さんも遊びに来れるし、ギル兄ちゃんもなにか考えがあるみたいだしね。僕もちょっと思いついたことがあるから向こうの状況次第でそれを作るよ」
「ウルカちゃん……ママはいつでも見守っていますからね……!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
ヴァンパイアロードの本気が僕を締め上げた。まあ、今日くらいはいいと思う。
「パパもその内、一度お邪魔するよ。辺境へ移住する人達に挨拶もしたいしな。元気でやってくれよ」
「うん! 大丈夫、こいつらもいるしね」
「わん!」
「にゃー!」
「こけー!」
いつもの三匹に加えて『我々が守ります』とばかりにハリヤーが鳴いた。たまにしか鳴かないハリヤーらしいや。
「それじゃフォルド、ステラ、アニー。行ってくるよ」
「絶対行くね」
「俺もだ。金を稼いで乗合馬車を使ってでもな」
「……」
「アニー」
決めたことだけどやっぱりまだ心が追い付いていない。だから僕はアニーを抱きしめてから言う。
「絶対にまた会えるからね。僕はこっちになかなか帰れないと思うけど、戻ってくるよ。僕の代わりに母さんに会って欲しいな。多分、寂しいだろうから」
「うう……。うん……待ってる。じゃない、アニーも遊びに行くの……」
「うんうん」
【今は大人になるまで待つんだ、アニー】
【そうでござる。今は学び舎で力をつける時期なのでござる】
「ししょー……」
アニーはゼオラとオオグレさんにそう言われて小さく頷いて僕から離れた。
そしていつものようににっこり笑って、
「ウルカくん、行ってらっしゃい! アニー我慢するの! ……寂しいけど。ボルカノもなんとかするって言ってるし!」
【う、うむ……】
歯切れが悪いな。それはアニーも分かったのかまた鼻の頭をべしべしと叩いていた。
「ウルカ様、行けますよ」
「ありがとうトーリアさん。ってハリヤーは?」
「そいつはウルカ様を乗せるためだけみたいだけなので他に用意しましたよ?」
「おや!?」
そっぽを向くハリヤー。どうやら本当にそうらしい。
「やれやれ……。どうなることやら」
「それでは行きましょうかウルカ様」
「うん。バスレさんは馬車でね」
【よし、行くか】
ボルカノが立ち上がって歩き出し、僕はジェニファーとタイガを抱えてハリヤーへまたがるとシルヴァが前に立ってくれる。
「またな!」
「絶対会う」
「いってらっしゃぁぁぁい!」
「ウルカちゃん、体には気を付けるのよ……!!」
「必ず行くからな」
「オレも陛下に頼んで遠征させてもらうぜ!!」
振り返るとそんな言葉をみんながかけてくれる。もう少し我慢しても良かったかな? 成人である十六歳まで。
……だけどこういうのは早い方がいい。恐らくだけど、辺境は過酷で困っている人が多いんじゃないかなと思う。
であれば早く開拓するべきだと思う。
「秘密基地、中途半端になっちゃったなあ」
【もう一つの方か。はは、まあまた帰ってからいじればいいだろ。ほら、手を振ってやろうぜ】
「そうだね。……またねみんな! 絶対会おう!」
そして僕達は新しい土地へ向かう――
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