第百二十一話 お城の人というもの
「元気でやるんだぜウルカ様」
そう言って僕の肩に手を置くのは家具職人のザトゥさんだ。ゲーミングチェア以来、この人は父さんの願いを色々叶えてくれたスペシャリストである。
ゲーミングチェア以外だと折り畳み式の脚立やロッキングチェア、揺れるベビーベッドにサイドテーブルなどなど、どちらかといえば実用的でこちらにはない家具を作ってもらっていた。
おかげでお互いお金が貯まったものである。貴族も普通に受注してくるくらいモノがいいからね。
「ザトゥさんもお元気で。父さんの無茶はたまに突っ返してもいいと思いますよ」
「くっくっく、馬鹿いっちゃいけねえ。弟子も増えたし工房もでかくなった。まだまだこれからよ」
「頼もしいです」
「気を付けるんだよ」
おかみさんも僕を抱っこしてくれ涙を流す。この人もあと一歩遅かったら強盗に殺されていたかもしれないと思えばあの選択は間違ってなかったと思う。
「大丈夫ですよ、仲間もいっぱいいますし」
「まさかこんな大掛かりな依頼を受けるとは思わなかったけどな……」
「あ、トーリアさん」
ザトゥさんの奥さんに話していると、パンダ獣人のトーリアさんもやってきた。
彼は旅立つつもりだったようだけど、両親が今日を見越して護衛として雇われて欲しいと言い、結局五年間あの秘密基地をずっと使い続けて暮らしていた。
ちなみに月給制だったりする。
「ま、アテの無い旅をするだけだったし給料をもらえたのは助かったけどな。向こうについて、ある程度ウルカの生活基盤ができたらまた旅立つけど」
「うん。トーリアさんの都合で問題ないよ」
僕が頷くと、馬車の準備をするとこの場を後にするトーリアさん。
続けて、踊り子でフォルドの彼女となったファナちゃんやゴブリンに襲われた村の人たちからも言葉をかけてもらい、少しずつ寂しくなっていく。
「また会いましょうね!」
「学校、頑張れよフォルド」
「もちろんだぜ! 師匠達に格好悪いとこを見せられないからな。ウルカオリジナル魔法もいくつかあるし、連中の度肝を抜いてやるぜ」
「なにと戦っているんだ……。ま、フォルドとステラなら大丈夫だと思うけどさ。リンダさんは?」
「ごめんよ。南に出たヴェノムバイパーの討伐に行ってしまったんだ」
「うん、だいたい分かってた」
クライトさんが苦笑し、僕も諦めたように笑う。まさかこの五年で一度も会えないとは思わなかったけどね。イコール、ボルカノも戦うことが出来ていないというわけ。
そんな感じでお見送りの人達とわいわいやっていると、丘の下から馬に乗った人が現れた。男女二人で、僕の知らない人達だ。
「こんにちは。ここがガイアス家で合っているかな?」
「わたし達、フライラッド王国から派遣されてきた者ですぅ。辺境へ同行するよう仰せつかってきましたぁ」
「あなた達がそうなのですね。俺とそれほど歳が変わらないような……」
どうやらお城の関係者のようだ。
ギル兄ちゃんが先だって挨拶をして握手を交わす。一人は金髪で優しそうな青年で、もう一人はゆるふわ系なピンクの髪をした女性である。
その二人が馬から降りて自己紹介を始める。
「俺の名前はラース。フライラッド王国の魔法剣士だ。一応、貴族でアーヴィング家という家名もあります」
「わたしはぁ、ベルナと申しますぅ。同じくフライラッド王国の魔法使いですねぇ」
歳は二人とも二十二歳で婚約者らしい。可愛い顔立ちで胸も大きい。羨ましい。そんなことを考えているとラースさんが周囲をみながら口を開く。
「それでウルカ君は?」
「はい! 僕です。初めまして、ウルカティウスと言います。ラースさんは騎士なんですか?」
「初めまして。うーん、俺はどちらかと言えば遊撃隊というかそんな感じでね、城に仕えてはいるけど常駐はしていないんだ」
「ラース君は転移魔法が使えるから報告もしやすいんだよねぇ」
「……すごいな」
ギル兄ちゃんが眉をぴくりと動かして呟く。転移魔法はかなり修行をしないと使いこなせないとゼオラに聞いたことがある。それをこの年で使えるとは侮れない人だ。
ちなみに家は兄が継いでいて自由なんだそう。
【兄ちゃんは言わずもがで、こっちの嬢ちゃんもかなり強い魔力を感じるな。ここまで強い人間が必要なのか? それとも……?】
「ゼオラ?」
【いや、なんでもない】
僕の頭上で怪訝な顔をするゼオラはとりあえず放置して、お二人と握手を交わす。
「転移魔法は難しいと聞いています! 僕のせいで余計な任務をすることになってしまい、すみません」
「いや、いいよ。というかむしろこの任務につきたい人間はたくさんいたんだ」
「おや!?」
辺境のなにもないところに募集がたくさん……? おかしいなと思っていると、ベルナさんが口を開く。
「えっとねぇ。ウルカ君は『クリエイト』の魔法を使えるでしょう? で、こたつとかゲーミングチェアみたいな新しい道具を創造していたわよねぇ。だから生活にあまり苦労しないだろうっていうのと、新しい道具を間近で見られるから、だってぇ」
「あー」
確かに向こうの状況によっては田畑を耕し、屋敷も建て直さないといけないかもしれないんだよね。その代わりいいものを作ろうと思っていたから騎士達のワクテカは当たっていたかもしれない。
「ただ、辺境は魔物も多いから戦力的に俺とベルナなんだ。これでもリンダさんクラスはあるよ」
「その内、結婚式をあげますぅ」
「色々と強い」
二人きりになりたかったというのもありそうなので、優しそうなラースさんとゆるふわなベルナさんはしたたかなのかもしれない。
そこへ今起きてきたらしいロイド兄ちゃんがやってくる。
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