第百二十話 闇落ちアニーというもの
【いよいよか】
「そうだね。準備は整えたし、不安は無いよ」
昨日は僕の誕生日で、盛大にお祝いをしてもらった。
ロイド兄ちゃんも王都から戻って来ていて、泣きながら僕を抱きしめていた。
そんな楽しかった昨日から一転、僕は旅をするための準備を進めていた。
【ま、あたしやオオグレも居るし、安全面は問題ない】
「うん。バスレさんとトーリアさんもついて来てくれるし、シルヴァ達も一緒だから寂しくないかな」
「うぉふ♪」
この五年でシルヴァも大きくなり、兄ちゃんズが乗っても力強い足取りで走ることができるようになった。
そんな向かう先のメンバーは、僕、バスレさん、トーリアさん、オオグレさん、シルヴァ、タイガ、ジェニファー、ハリヤー。それと発端であるボルカノが確定。
それとお城から派遣される人が二人、同行することになる。
【ステラ達はどうするんだ?】
「今年から学校もあるし、不毛な地へ連れて行くわけにはいかないんだよね」
【勉強は詰込みだけど、三人ともかなり出来るようになったし、今更学校に通う必要はなさそうだけどな】
とはいえ、一番多感な時期で友達ができる学校には通って欲しいと考えている。僕の前世は体が弱かったから中学以降は学校を楽しめていないのでそれを奪うのも良くない。
ちなみに三人とも一人っ子……じゃなかった、アニーのところは弟ができたんだっけ。でもほぼ一人っ子のような家庭というのもあってついてきたいというのは断り続けている。
「どうだウルカ」
「あ、ギル兄ちゃん。うん、昨日みんなが手伝ってくれたから最終チェックだけだよ」
「そうか。……そうか」
「泣かないでよギル兄ちゃん。死ぬわけじゃないし」
「そうは言っても、まだ小さいお前を送り出すのがどれだけ辛いか……。できるならば代わってやりたいくらいなんだぞ。俺もロイドも」
二十歳になる双子はすっかり大人の体つきになり、顔も凛々しい。父さんもそこそこイケメンで母さんが美人だからいい感じに成長したと思う。
そんな兄ちゃんズも弟離れはなかなかできないようで、ギル兄ちゃんは僕を高く抱え上げて涙をながしていた。
「見送りは?」
「フォルド達が来るはずだけど……。あ、来た」
ちょうど目線が高くなっていたから坂を登ってくる三人が見えた。というか三人だけじゃなく、クライトさんやフォルドとアニーのお父さんも居るし、家具屋のザトゥさんも?
「来たぞー!」
「お見送り」
「……」
「わんわん!」
ギル兄ちゃんに降ろしてもらい、手を振るフォルドにダブルピースをするステラに応える。こちらも大きくなったと感じるね。ちなみにフォルドの方が僕より少し背が高いのだ。
シルヴァが駆け寄ってぐるぐる回るけど、一番元気なアニーが親指の爪を噛みながら下を向いていた。
「どうしたんだいアニー?」
「……だもん」
「ん?」
「ウルカくん、どこかへ行っちゃうの嫌だもん……。わたしも一緒に行くの……」
よく見ればすでに目は涙でいっぱいで小さく震えていた。そこへ親父さんがアニーの頭に手を置いて口を開く。
「ダメだって言うのに聞かないんだよ。危ないんだぞ辺境」
「大丈夫だもん。ボルカノがなんとかするって言ってくれた……」
「一体何を話したんだよ」
ボルカノとアニーは仲良しである。
僕はそう思いながら少し遠目で眠るボルカノを見る。
現在、彼は骨だけではなく博物館から回収した皮と鱗を纏っている。それをやったのがなんとアニーだ。
パズルに近いパッチワークのような感じだったんだけど、僕達四人の中で一番早く。正確にくっつけていったのである。
「かっこいいー!」
【おお、素晴らしいぞ娘!】
「アニーだよ!」
と、ボルカノも絶賛していたくらいには凄いことをした。
のだけど――
「……行くもん……このまま……ついていくもん……」
「しっかりしろアニー!?」
ちょっと前までの元気はどこへ行ったのやら。瞳に輝きが無く、なんかぶつぶつ言っている。
まあこうなったのは五年前に風邪で倒れていたアニーになにも言わず出て行ったのがまずかったらしい。目を離すと居なくなるかも……という思いがこういう行動になっているようだ。
もうちょっと成長すれば分別もつくだろうけど、九歳ではまだ無理そうである。
あの頃から僕にべったりなので、離れると言われれば言われるほど意固地になっているのかも……?
「アニー、大きくなったら会いに来てよ。学校を卒業したら成人になるし、それからでもいいだろ?」
「ダメなの」
「お、ウルカの言葉でも聞かねえんだな……」
「いつもなら頷くのに。アニー、私と一緒に待とう?」
「ううううう……」
フォルドとステラが『ほう』と興味深げにそんなことを言う。
さらにステラは自分も我慢しているとお姉さんらしい発言をすると、流石に嫌だとは言わなかった。
「ちょっと遠いけど遊びに来るのは構わないしさ」
「……我慢したら……大きくなったらステラちゃんとわたしをお嫁さんにしてくれる?」
「え? ま、まあ、それまで僕を好きならいいよ。僕は二人とも好きだしね」
「うー……」
僕の言葉を聞いてアニーは前かぎゅっと抱き着いてきた。連れて行きたいけど、こればかりは親御さんの心配の方が上なので泣かれても置いて行くほかない。
ひとしきり抱き着いてきた後、アニーは鼻提灯を浮かべるボルカノの鼻先に立った。
「ボルカノ! 空飛んで迎えに来てね!」
【おう!? ……アニーではないか。すまん、まだ空は飛べない。我の魔力結晶がまだ蓄えられておらんのだ】
「なんとかするって言ったのにー!」
アニーが八つ当たりでボルカノの鼻をばしばしと叩き出した。フレイムドラゴン相手に強い。
【おう!? おう!? ここから出ればやりようはある。期待しろ】
「……わかった」
自分もリンダさんと戦いたいだろうに優しいんだよねボルカノ。ちなみに大人には厳しい。
さて、こっちはOKそうだ。そう思っていると、他の人たちが話しかけてくる。
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