第百十九話 そして今後のことを、というもの


「う、うわあ!? ば、化け物だ!?」

「警護団に報せろ! リンダさんは居るか!?」

「おーい、大丈夫だよー!」

「……なんだウルカ様か。驚かさないでくださいよー。みんな、またウルカ様だった。解散ー」


 解せぬ。

 とまあそういうわけで雪の残る街道をフレイムドラゴンゾンビに乗って自分の町へと戻って来た。

 

「とりあえず屋敷まで行くぞー」

「うん、ロイド兄ちゃんー。フレイムドラゴンさんはどうするかなあ」

【我はアンデッドになったせいか疲れ知らずになった。どこにでも行けるぞウルカ】

「心強いけど、しばらくはここで過ごすことになるし、寝床とかも決めないと」


「うおーすげえ!」

「ホネドラゴンー?」


 てくてくと町中を歩く僕達に子供が群がってくる。慎重に手綱を動かして屋敷まで誘導しているとゼオラが口を開く。

 

【フレイムドラゴンの巣ってどうなっているんだ?】

【む? 特別なことはないと思うぞ。縦穴の洞窟の途中で横に穴を掘って雨風をしのぐ程度のものだ】

「布団とかないんだ」

【鱗が固いからどこでも寝られるしな】


 もうその鱗はないんだけどね。

 そんなことを話しているとひときわ大きな声が聞こえてきた。


「ウールーカーくーんだー!!」

「おおーい!」

「あ、アニーとフォルドだ! ただいまー!!」

【よし、あたしが連れて来てやる】


 声の主は満面の笑みのアニーと目を見開いてフレイムドラゴンを見ているフォルドだった。すぐにゼオラが舌を出しながら降下し、両脇に抱えて連れてきてくれた。


「あああああん! ウルカくんだぁぁぁ!」

「わわ!?」


 こっちへ来た瞬間、アニーが僕の背中に張り付いて大泣きし始めた。困惑しているとフォルドが口をへの字にして言う。


「大変だったんだぜ? こいつ熱を出して寝てたろ? ゼリーだっけ? お前があれをお見舞いに持って行った後、なにも言わないで出て行ったからさ」

「おや!? 僕は親父さんに言ってたと思うけど……」

「マジで? じゃあアニーの親父さんが犯人か……」


 フォルドが言うには回復して屋敷に来たアニーがオオグレさんに事情を聞いてぐずっていたらしい。

 当日は大泣きし続け、ようやく泣き疲れて寝た彼女をパンダ獣人のトリーアさんがアニーを家へ連れて行ったそうだ。

 次の日からはフォルドもお手伝いが終わったから一緒にオオグレさんと訓練をしていたんだって。


「ずっとむくれていたけどな」

「ごめんよアニー。風邪を引いていたから会わなかったんだ」

「うぐぅ……。父ちゃん叩くからいい……」


 アニーはなにかに火が付いた。

 服は涙と鼻水でべしゃべしゃになったけど、それだけ嬉しかったと思えば心が温かくなるね。とりあえず落ち着いたところで僕の膝に移動するアニー。


「えへー」

【泣いた子がもう笑ったな】

「で、このホネはなんなんだよ?」

「えっと――」


 アニーが落ち着いたので今回の事情を説明する。最初は二人とも理解が難しかったようだけど、オオグレさんの時と同じと言うと納得した。


「じゃあウルカが復活させたのか」

【そうなるぞ。よろしくな小僧に娘】

「よろしくー! アニーだよ!」

「小僧じゃねえ、フォルドだ! でも、そうか……いつかウルカはこの町を出ていくんだな」

「え? ウルカくん、どこかへ行くの? いつ帰ってくるのー? アニーも行く!」

「うーん……」


 また大泣きされても困るし、アニーへは保留しておこうう。もう少し大きくなれば理解できると思う。これに関しては考えていることがあるので、その時に話すつもりだ。


「まあ、まだ先の話だよ」

「うんー?」

【ウルカは家に居るから大丈夫だよ】

「わかった! ししょー」


 とりあえず僕が居るということだけは分かったので笑顔で手を上げるアニー。フォルドはとりあえずという感じで僕達を見ていた。


 そんな感じでフレイムドラゴンと共に丘を登って屋敷へ到着。

 そのままバスレさんとウオルターさんは換気のため屋敷内へ向かい、僕達一家は庭で家族会議となる。


「シルヴァ! タイガ! ジェニファー!」

「わんわん♪」

「コケー!」

「にゃーん」

「ハリヤーもおかえりー!」


 アニーとフォルドは早速ペットたちに突撃してもみくちゃになった。ハリヤーはじゃれることができないのでアニーに頬を寄せた後、僕の隣へ座り込む。

 全員が円を描くように椅子に座ると、父さんが腕組みをしながら口を開く。


「さて、これからが大変だな」

「うう……ウルカちゃん……」

「とはいえ、成人してからでもいいなら大丈夫だろう?」

「だな。援助があるわけだし、人間だけ揃えていけば死ぬことはねえはずだ」

「誰が行くか、だが……」


 早速今後の話をする父さんと兄ちゃんズ。母さんはおいおいと泣いており、こういう時はあまり役に立たないんだなあと苦笑する。

 母さんは僕を膝に置いたまま離そうとしない。大変なことになった……。


「ごめんね、僕がフレイムドラゴンに触ったばかりに面倒なことに巻き込まれて」

「気にしなくていいのよウルカちゃんは! そんなの誰にも予測できないもの。ね?」

「そうだぞ」

【我は感謝しているが】

「そりゃそうだろうな。また動けるようになったわけだしなお前は」


 ロイド兄ちゃんが苦笑しながら寝そべっている骨を軽く叩く。

 とりあえず心配だろうけど、僕の提案をみんなに話すことにしようか。


「例えばバスレさんやウオルターさんが良ければついてきてもらう感じかな。ここから馬車で五日くらいの距離だし、母さんは飛んで数時間くらいで来れそう。僕が住むところにオオグレさんはアンデッドで眷属だから連れていけるし、ゼオラもついてくるよ」

「確かに……」

「ペットも居るし、例えばトリーアさんみたいな旅人を連れて行くとかはアリなんじゃないかな?」

「……! そうね、それは良い考えだわ……! ウルカちゃんの国を作るのよ!!」


 それは違うと思う。

 けど、まあ、その領地に僕しか居ないならそういうものかもしれないけど。



「で、国王様は成人してからでもいいと言っていたけど、僕は十歳になったらそこへ向かうつもり」

「ウルカちゃん!? なぜ? どうして? ママと一緒に居たくないの!?」

「また母さんの目が!? いや、開拓が進めば開放が早くなると思うんだ。だから早めに向こうへ行ってまたこっちへ戻れるようにしたいなって」


 領主交代はそんなに難しくない。むしろ権力が増えるからやりたい人間の方が多いはずだし、早ければ早い方がいいという考えだ。


「母さんが壊れるから俺はあまり賛成しないが……」

「十歳だし……」

「その分、人を多く国王様に頼めばいいかも?」

「……それは私が掛け合おう」


 父さんが『ウルカが決めたことなら』と了承してくれた。兄ちゃんズは複雑な顔をしていたけど、卒業後はそれぞれやりたいことへ向かうことになった。

 五年あるから適当に過ごす訳にもいかないしね。


 ――そこから僕達は先を見据えての行動を開始。


 クリエイトで汎用性のある道具をいくつか作ってお金を稼ぐことを主にして他は勉強を頑張った。


 そうそう、兄ちゃんズはあの日から程なくして学校を卒業。

 ギル兄ちゃんは父さんの跡継ぎと冒険者の二足わらじの毎日となる。

 ロイド兄ちゃんは国王様の勧めもあり、騎士団へ編入し、この町から居なくなった。僕の罪を軽くするため活躍すると笑っていたけど無理はしないで欲しいものだ。


 父さんは相変わらずお店の運営にいそしむ。母さんはなにかを考えているようだけどそれを教えてはくれなかった。


 クライトさんやステラとは変わらずの付き合いをし、フォルドとアニーも同様。だけど、僕が勉強を主にやり始めたことで三人とも同様の授業をすることに。

 おかげで同じ年ごろの子供より【各段に】賢くて強い子となる。

 学校へ通いだしてもきっと安心だ。


 フレイムドラゴンはリンダさんとの再戦に燃えていたが、結局それが叶うことはなかった。

 同じ骨同士ということと、達人ということもあってオオグレさんとはすこぶる仲がいい。大きくて頑丈なので僕達の訓練相手にもなってくれている。

 言葉遣いが尊大な割に優しいドラゴンである。名前がないと不便だというので主人である僕が『ボルカノ』とつけたよ。


 そんな生活を続けて早五年。


 いよいよ十回目の誕生日を迎える僕――

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