第百十六話 ドラゴンゾンビというもの


【この体を通る魔力……小僧、お前が我を蘇らせたのか?】

「しゃ、喋った……!?」

【どうやらこいつもオオグレと同じで、ウルカの能力で蘇ったらしいな】


 ぐるりを首を曲げたフレイムドラゴンの目が僕を捉えていた。ゼオラの話だとオオグレさんを触ったのと同じような状況という。


【小僧、もう一度聞くぞ。お前が蘇らせたのか?】

「た、多分……そうだと思う。前にもスケルトンを蘇らせたことがあるし」

【ふむ……】

【あたしが見えるか?】

【む、空飛ぶ女だと?】


 見えているらしい。

 これはかなりまずいのではと思っていると、背後が騒がしくなっていることに気づく。


「ど、どういうことだ……!? 動いている!? き、騎士団へ連絡を!」

「デオドラ様を連れて移動するぞロイド!」

「ああ! ウルカ、行くぞ!」

「い、いや。これ……僕のせいかも……」

「「なんだと!?」」


 兄ちゃんズとクライトさんが避難を始めようとしていたので、僕がこのフレイムドラゴンを復活させたかもしれないことを口にする。


「オオグレと同じ、ということか……?」

「多分……」

「喋れるのかな?」


 ステラが首を傾げていると、フレイムドラゴンがぬっと首を下げて口を開く。


【喋れるぞ。我は誇り高きドラゴンだぞ?】

「喋った!」

「おお……。僕以外にも聞こえている……」

「これもウルカの力か。すげえな……」

【この小僧はウルカというのか。お前はどういう能力を持っているのだ?】

「えっと――」


 僕は不思議な顔をしているフレイムドラゴンに耳打ちをし、アンデッドを使役する力があることを伝える。


【なるほど……ということは我はやはり死んでしまったのだな】

「まあ、剥製だしね」

【うむ。しかし目覚めたのであればこれもなにかの運命。今一度かの戦士と戦って今度こそ勝つのだ……!!】


 フレイムドラゴンは勇ましく首をもたげて立ち上がると空を飛ぼうと羽を動かす。


「ちょ、ちょっと待って! 出入り口から出ないと!」

【否! そこから出られるわけなかろう! 蘇らせてくれた礼は必ずする! 我は行くぞ!】

「あ!」


 そして羽を動かして浮いた直後、体を覆っていた鱗や皮がずるりと剥けてフレイムドラゴンは骨だけになった。


【なにぃぃぃぃぃ!?】

「そりゃまあ、骨に被せる形で鱗などを乗せて剥製にしているからそうなるだろうね」


 クライトさんが苦笑しながら天井付近まで飛んで行ったフレイムドラゴンへそう告げる。


【なんと中途半端な……!! 小僧、お前が復活させたんだからなんとかするのだ】

「そう言われても困るよ。というか剥製が動くのはまずいよね」

「確かに……」

「とりあえず君をどうするか決まるまで大人しくしてもらえるかい? ゼオラ、フレイムドラゴンの背中に連れて行ってよ」

【お、いいぜ】


 僕はゼオラに頼んで背中に乗せてもらう様に頼むと、ふわりと浮いて首のあたりに座る。


「ウルカちゃん……大丈夫……? 大きい……怖い……」

「ほら、デオドラ様もびっくりしているから動かないで」

【なに馬鹿な。我は誰にも縛られぬ……!! ……ん、あれ!?】

「どうしたのさ」


 フレイムドラゴンは暴れようとしたけど、硬直したように急に動きが鈍くなった。


【う、動けん……。ウルカと言ったか。もしかすると我はお前の部下になっている……?】

「あ、そうか。眷属になっている可能性はあるかも。これでもヴァンパイアロードの息子でヴァンパイアハーフなんだ、オオグレさんもそうっぽいしアンデッドは僕が触ると強制だったり?」

【なんだと……!? ま、まあ、子供の魔力くらいなんとでも……】

【ウルカ、ちょっとこいつを拘束するイメージを持ってみろ】

「ん?」


 ゼオラに言われて魔力の手綱をイメージして引っ張ってみる。すると、僕の手の動きに合わせて首が動いた。


【おう!? 体が勝手に!?】

【てことはやっぱ眷属だよお前】

【なんと……】


 物凄く驚愕した声を上げるフレイムドラゴン。どうやら僕のさじ加減でどうにでも出来るような感じっぽい。


「というか行くアテ、あるの?」

【無論、我を倒したあの女戦士と再び戦うのだ】

「すぐ狩られそうだけど……」

【このような姿になっても我はドラゴンぞ? おいそれとその辺の人間に負けぬ】

「えい」

【あああああああああ首は止めるのだ!?】


 まあそれはともかく、こんなのを飛び立たせるわけにもいかないか。僕は一つ、大人しくさせるための話をすることにした。


「えっと、確かフレイムドラゴンを倒したのはリンダさんだっけー?」

「そうだよー」


 下に居るクライトさんへ尋ねると大きな声で返って来た。


「えっと、君を倒したその人って足下に居る小さい女の子と今、そうだよって言ってくれた人の家族なんだ。だから待っていたほうが会える確率は高いと思う」

【なに、そうなのか? ……男はあまり強そうじゃないな】

「リンダさんが強すぎるんだよ。僕は会ったことないけど」

【ふむ。闇雲に探すよりはその方がいいか……。ではよろしく頼むぞウルカよ】

「まあ、ここから動けるかどうかは交渉しないとだけどねえ」


 流石にそれは許してもらえないかな? そんなことを考えていると、しばらくして騎士と母さんがやってくるのだった。

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