第百十五話 博物館に行こうというもの


「もう来ていないな?」

「ああ、大丈夫だぜ、ギル兄」


 あの後、なぜか町の人が追いかけてきたけど、兄ちゃんズが追い払ってくれたので今はようやく静かになった。みんな暇なのだろうか?


 そんなこんなで次の目的地はフレイムドラゴンの剝製があるという博物館へやってきた。


「広いね」

「色々あるからね。大昔の食器とか、他の国のものとかね。こっちだよ」

「オレも初めて見るから楽しみだな」

「誰でも入れるんですか?」

「一応、料金は払うんだけどね。ほら、俺達は来賓だからさ」


 そう言ってクライトさんがパスカードのようなものを係員さんに見せていた。当の係員さんはカードとデオドラ様を見てちょっと震えていた。

 

「それほど人は多くないんですね」

「ま、資料室みたいなものだからね。王都の人間はそれほど来ないと思うよ? デートスポットには使われているみたいだけど」

「後は他国からの旅行者とかか」


 兄ちゃんズが古い剣や防具を見ながらそんなことをクライトさんと話していた。楽しそうな三人を横目に、僕とステラ、デオドラ様は三人で手を繋いで見学をする。


「色々ある。フォルドとか好きそう」

「そうだね。この変な化石とか」

「……ふふ、足がいっぱい……気持ち悪いけど面白い……」

「ううー……」

「大丈夫だよシルヴァ。ほら、兄ちゃん達に置いて行かれるよ」


 展示数はたくさんあって、見どころも多い。今は居ない魔物の絵など、興味深いものも。


【へえ、こいつもう居ねえのか。そこそこ強いやつだったんだけどな】

「わふ」

【そうそう、お前のルーツかもしれねえな】


 ゼオラが興味深そうに巨大な狼の絵が描かれたところでそんなことを言う。絵を描いた人の腕もいいんだろうけど、ものすごくカッコいい銀色の狼だ。


【フェンリル、か】

「?」

「くぅん?」


 含みのある言い方をするなあ。思い入れがあるのだろうか? 戦ったことがありそうだけど。


「……ジェニファーに、似てる」

「こけー!」

「ちょっと怖くない?」

「なにを見ているの?」


 ステラと、ジェニファーを抱っこしたデオドラ様がなにかを見て楽しそうにしているので近づいてみると――


【おお、コカトリスだ。こいつ結構強いんだよな】

「ジェニファーはこんなにカラフルじゃないけど、こうだったら心強いよね」

「なんか目で相手を石にするみたい」

「こーけー……」

「あはは! ジェニファーにそんな目力はないよ。次、行こう」


 そして――


「でけえ……!」

「これは、さすがドラゴンと言ったところか……」

「うわあ……」

「にゃーん」


 メインのホールに行ったその時、目の前に赤い鱗をした、それこそ巨大なドラゴンの剥製が現れた。

 ドラゴンはよくゲームとかで見るけど、実物を目にするとこんなのどうやって倒すんだって感じの生物だと思う。


「こいつはステラを生む五年前くらいにリンダが倒した個体なんだ」

「……どうして、倒したの? 可哀想……」

「そうですね、デオドラ様。でも、山で大暴れしていて近隣の町や村に被害が及びそうだったんですよ」


 だから倒さざるを得なかったらしい。

 生態系とか気になるけど、意思疎通ができたらその原因を取り除けたりしたのではとも思う。


「触ってみますか? 骨や鱗はそのまま使っておりますよ」

「え、いいのか!? 触る触る!!」

「あ、僕も!」

「……大きい、怖い……」

「こけー」

「私達はここで待つ。ウルカくんだけ行ってきて」


 ドラゴンはやっぱり駄目らしく、デオドラ様は触れないということで僕と兄ちゃんズのみ触ることに。


「おおー……」


 真下に来ると本当に大きい。爪だけで僕の胴体くらいあるからちょっと動いただけで吹き飛ばされそうだ。


「硬い鱗だ。魔法を弾くと聞いているがマジっぽいな」

「リンダさんは剣で首を落としたんだろ? とんでもねえな」

「そりゃ俺も思うよ」

「旦那さんがそれでいいんですか……?」

「鱗は……すげえ、なんか熱がある」

「死んでもまだ魔力が残っているみたいで鱗はまだ熱いんだってさ」


 クライトさんや兄ちゃんズが触る中、僕は手が届かないので見ているだけ。

 それにしてもまだ生きているみたいな造形は迫力があるなあ。

 そういえばあの池に居た蛇も大きかったっけ。そんなことを考えていると、ロイド兄ちゃんが肩車をしてくれた。


「ほら、ウルカも触ってみろよ。すげえぞ」

「ありがとうロイド兄ちゃん! では……」


 僕は恐る恐る鱗に触れる。すると兄ちゃんズが言っていた通り熱を帯びていて、本当にまだ生きているみたいだった。


「ごつごつしている」

「ドラゴンにも色々いるけど、このフレイムドラゴンの鱗は炎の攻撃を緩和する防具なんかを作れるらしいぜ」

「へえ、クリエイトで作ってみたいな」

「まあこれを持っていくわけにはいかねえけどな」

「そうだね」


 と、二人で笑っていると――


【う、うーん……なんだ? 我は一体……?】

「え? 今の声、誰?」

「どうしたウルカ?」

「いや、なんか凄くカッコいいお兄さんみたいな声がしたんだけど……あの人でも無い……」

【どこだここは? 我は冒険者と戦っていたような】


 また聞こえた。どこからだ? そう思っていると、ステラが指を差しながら口を開く。


「ウルカくん、上。頭、動いている」

「え?」

【ん?】


 その瞬間、僕とフレイムドラゴンの目が、合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る