第百十四話 町へ行こうというもの
「僕達だけで良かったのかな?」
「母さんはこたつが奪われて意気消沈しているし、父さんは陛下と商談をするみたいだからな。……俺としてはデオドラ様が居て大丈夫なのかと……」
「まあまあ。ギルドマスターである俺もいるし、陰で騎士達も見ているはずだよ」
というわけで僕達は町へ繰り出していた。
ギル兄ちゃんの言う通り、母さんは部屋へ引きこもり父さんは商談へ。なんでも王都にある大手商会が是非会いたいとのことだったからだ。
で、ルース様はその商談へ勉強のため参加。デオドラ様は本人の希望で僕達についてきたのだ。
「大丈夫。ウルカくんと両脇で手を繋いでいる」
「ま、なにかあればシルヴァに乗って逃げて貰えばいいか」
「うぉふうぉふ!」
「ふふ、シルヴァ……もう怖くない、よ?」
ふわふわしているデオドラ様は機敏な動きはできないため、しっかり手を繋いでいる。なんだか僕とステラが護衛しているような感じだ。
【ま、王都の町中で襲ってくる馬鹿はあんまり居ないから大丈夫だと思うがな】
とはゼオラの弁。
マンガや小説みたいにごろつきや冒険者が因縁をつけてくるようなことは無いという。
確かに町中、それも昼間から因縁をつけてくるような人間は居ないか。酔っ払いならともかくと変に納得してしまった。
そんな感じのお散歩タイムだけど、やはり僕の住む町とは違って人も多く、店もたくさんある。
「いらっしゃい! 食い物ならウチで買っていかないか!」
「珍しい異国のアクセサリーがあるよー!」
「賑やかだなあ。露店の数も全然違うねえ」
「王都はこの国の中心だからね。物流もお金もたくさん集まるからさ」
周囲を見渡しながら歩いているとクライトさんが説明してくれた。道が広くて全部回るにはどれくらいかかるのだろう。
「何度か来ているけど、この雰囲気はやっぱたまらねえな。おっちゃん、リンゴをくれ。剝いたやつな」
「毎度! 貴族の方ですか? こんな露店で買ってくれるとはありがたいことです」
「ウチは大仰な家じゃないから気にしなくていいって。ほら、ジェニファー、タイガ、シルヴァ。リンゴ食べるか」
「こけー!」
「わふ」
「にゃーん」
そこでロイド兄ちゃんが露店でリンゴを買い、動物達に分けていた。特にジェニファーは果物が好きなので興奮気味である。
「そこの可愛いお嬢さん、髪飾りなんてどうだい?」
「あ、あ、大丈夫……です……」
「そうかい? 気が向いたら寄っておくれよ」
そんな中、今度はデオドラ様が声をかけられていた。今まで引きこもっていたから彼女を王女だと認識している人は居ないようだ。
「……人がいっぱい……ちょっとだけ怖い……」
「あ、ちょっとだけなんだ。お祭りで初めて会った時は泣いて嫌がっていたもんね」
「むう……。ウルカちゃん意地悪……」
頬を膨らませてぽこぽこと肩を叩いてくるデオドラ様。まったく痛くない。ただ、あまり怖がらなくなったのはいいことだと思う。
「なにか王都らしい名所みたいなところは無いのかな?」
「名所か……。俺達もゆっくり見回ったことが無いんだよな。あの時計塔とかどうだ?」
「あ、いいね」
「後はリンダが倒したフレイムドラゴンの剥製がある博物館とかあるよ」
「凄い!?」
まあ急ぐ旅でも無いしということで、時計塔から行くことに。
「大きい」
「ステラの言う通りだね。上に行ったら景色が良さそうだ」
「昔は登れたんだけど、ちょっと老朽化が進んでいて入れないらしい」
「確かに古いもんなこの塔」
「にゃー」
【お、そうだ】
ロイド兄ちゃんがタイガを頭に乗せてそういうと、僕の背中に居たゼオラがいいことを思いついたとばかりに声を上げる。
そして、
【あたしが抱えてやるよ。ステラとウルカだけだけどよ】
「うわあ」
「きゃ」
「あ、あ……ウルカちゃんが……!」
「大丈夫だよー」
両脇に僕とステラを抱えたゼオラがゆっくり空へ上がっていく。視界が広がり王都の一部を眼下に見下ろせるところまでやってきた。
【ちょうど座れるところがあるな。少しだけ眺めてみるか】
「ああ、風が気持ちいいね」
「うん」
下では小さくなった兄ちゃんズやシルヴァを掴んでいるデオドラ様が手を振っていた。前を向くと城壁の向こうに大きな山が見える。
「……平和だな」
「そうね。こうしているとあの時みたい」
「あの時? ……え?」
不思議なことを言うので彼女の方を向くと、ステラが珍しく無表情ではなく、にっこりとした表情で僕を見ていた。
その顔に、なぜか見覚えがあるような――
「もう少し大きくなったら、話してあげる」
【なんだそりゃ? 今じゃダメなのか?】
「うん。まだ。大きくならないとダメ。それか思い出すか――」
「よく分からないけど……」
ステラがまた元の無表情に戻った。一瞬、なにかを思い出しかけたのはなんだったのだろう?
「おおーい! そろそろ降りてこいー!」
「なんか人が集まって来た。移動しよう。デオドラ様が目を回している」
「わんわん!」
「あ、やば。ゼオラ、戻ろう」
【へーい。次は兄ちゃんズを連れて行こうと思ったんだけどなあ】
いたずらっぽく笑いながらゼオラが再び僕を抱えて地上へと向かう。段々地面が近づいて来たあたりで、
「おお、やっぱり空を飛んでいるぞ!」
「神の遣いか!」
「いや、空飛ぶ魔法じゃないのかい?」
「子供は飛べないだろ! 特別な子かもしれん!」
「おや!?」
なんか凄い騒ぎになっていた!?
「シルヴァ、デオドラ様を乗せておいて。兄ちゃん達、走ろう! ゼオラはこのまま僕達を抱えて飛んでいこう」
【あっははは! いいぜー! それ!】
「わんわん!」
「こけー!」
「ああ、普通の子供ですからご安心を! おいおい、俺を置いて行かないでくれよ」
町の人たちに説明をしながら僕達はその場を離れ、次の目的地へ。
いやあ、目立っちゃったな……。
まあ、これくらいなら大丈夫だろう。もう目立つ真似はしないと思いながら先を急ぐのだった。
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