第百十三話 親の心、子は知……っているというもの


「これは……部屋でトレーニングできるな……! 欲しいっ!」

「いや、これは運動不足の私達にこそ相応しい!!」


「とんでもないことになったな」

「うん」


 父さんが僕の肩に手を置いて黄昏る。目の前の光景は王様や騎士、兄ちゃん達も混ざって健康器具を我先にと使おうとしているからだ。

 

 とりあえず腹筋のできるベンチシフト、懸垂をするためのぶら下がり健康機、そして魔石を使ったルームランナーの三つ。


 腹筋と懸垂なんてどこでもできそうだけど、そこは現代のスペックを反映させているので使いやすい構造になっている。

 下は座るところがあって腕を曲げて負荷をかける名前がよく分からない装置もついているため一台で3度くらいお得なものだ。


 最後は一番人気のルームランナー。

 これはこたつのように魔石が回転するギミックとスイッチを作り、割とそれっぽい形を実現。

 スピード調節も即興ながらつけてみたのだけどこれは国王様が絶賛していた。


「面白そう……」

「デオドラ様にはあれは難しいかな? クッションを応用したこういうのはどうだろう」

「凄い……!」

「こけっこ♪」

「これ、欲しい」


 女の子であるデオドラ様にはバランスボールっぽいものを作ってみた。これは殆ど遊び道具だけど、ステラとデオドラ様、ジェニファーが楽しそうにポンポン跳ねていた。


「陛下、そろそろ交代のお時間です」

「ぬう……」


「これ、永遠に走らせる拷問器具としてもつかえねえ?」

「あ、いいかも」


「十回一セットとかの方がいいですかねえ」

「いや、時間を計って三十秒で何回出来るか、の方が――」


 恐ろしいことを考える騎士も居る中、概ね好評なフィットネス。特に兄ちゃんズと騎士さん達が考えるトレーニング法みたいな考察が面白いや。


 ちなみに何故、精巧な感じで出来ているのかと言うと、僕は体が弱かったので元気になったら鍛えるんだとカタログを見て過ごしていたことがあるからなのだ。

 一回死んでそれができるようになったのは皮肉だけど、元気なのはいいことである。


「どう、ロイド兄ちゃん。思い付きで作ったけど家にあったら使うでしょ」

「おお、もちろんだぜウルカ! お前の作ったものはどれも最高だな。この剣で活躍するのが楽しみだぜ」

「「「おお……!」」


 ロイド兄ちゃんがダマスカス鋼の剣を少しだけ抜くと、その輝きにその場に居た全員が感嘆の声をあげる。

 

「素晴らしい……」

「弟君が作った? ヤバすぎない……」

「工房の親父に見せたら嫉妬すんぞ」


 などと周囲がどよめき始めたところでルームランナーから降りた国王様が口を開く。


「ふう……。静まれ皆の者。とりあえずデモンストレーションは終わりだ、各自仕事に戻ってくれ」


 その一言で『ええー!?』と不満の声が上がったが、騎士団長さん達が率先してその場を離れたので渋々、訓練場から人が居なくなった。


「……さて、ウルカよ」

「今回は売りませんけど……なんでしょうか」

「ぬう……!?」


 やっぱり売って欲しいという話だったっぽい。兄ちゃんズのトレーニング器具だし、お金は払っているから持って帰りたい。


 と、思っていると――


「まあまあ、ウルカ。流石にこれだけのものを持って帰るのは大変だよ? ハリヤー達も力強いけど、特にあの懸垂をするのは大きすぎる。ここは城へ置いていけないかな?」

「う、うーん」


 悩む僕。

 作ること自体は魔法を使うのでそんなに難しくないんだけど、材料がある内にと思っていたからだ。


「いいことを言う! よ、よし、ウルカよ! 代わりに欲しいものがあったら言ってくれ。買取でもいいし他のものでもいいぞ」

「ええ、そうよ。なんでもいいわ」

「え? ……うーん、それならこの材料を一式もらっていいですか? そしたら家で作り直すので」

「「ああ、うん……」」

「?」


 父さんと国王様とエリナ様に勧められて考えたけど、確かにハリヤー達が引くときに重くなる(というかバランスが悪くなる)のは避けたい。

 それなら必要な材料を貰えばいいかなと思った。


 ……のだけど、どうもがっかりしているのはなんでだろうね?


 とりあえず交渉成立。

 こたつやら健康器具は贈与され、僕の手元には大金と素材が残った。

 

 ちょっと町も見てみたいなあ?


 ◆ ◇ ◆


 ――王族の家族会議


「……むう。ウルカはデオドラを貰わなかったな……」

「なんでもいいと言ったのに……」

「そんなことを考えていたの!? 父上、母上。ウルカはまだ五歳だよ? 確かに僕よりなんか色々わかってる感あるけどさ。でも恋愛にはまだまだじゃない?」

「そ、そうかな……?」

「そうだよ。そりゃあ僕だって彼が弟になるなら嬉しいけど、まだ早いよ」


 ガイアス家の面々が町へ遊びに行くと言って出て行ったので、フレデリック王達は家族で話し合いをしていた。

 あの場でデオドラを娶る、もしくは婿入りになることを口にしないかと思っていた夫婦の目論見は簡単に崩れ去った。

 そしてお互い理解ある親子に戻ったルースが呆れたように笑っていた。


「しかしあれほどの逸材。手に入れておかねば……」

「ですわよね」

「それはもうちょっと後でもいいんじゃないかな。ロイド兄がここに興味を持っているからまず働いてもらえば? そこからウルカを呼ぶ。デオドラと結婚させる、で。まあ女の子の影がすでにあるウルカだからどういうかは分からないけどさ」


 ルースの尤もない剣に眉を顰める国王夫妻。

 とりあえず今は静観するかとため息を吐く。願わくば今、一緒に出掛けているデオドラがウルカの心をゲットできれば……。そんな打算を考えるのであった。

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