第百十二話 閃いたらすぐ実行するというもの


 こたつを奪われた母さんが燃え尽きてしまったものの、食事の時にはある程度復活していたのでそこは大人だなと思った。

 部屋でしばらく適当に過ごしていると兄ちゃんズが僕の部屋へやってきた。


「おう、あんまりウロウロするわけにもいかねえから遊びに来たぜ」

「夕食まで暇だしな」

「うんうん。そういえば父さん達とお城を見て回ったんだよね、どうだった?」

「いやあ、設備が充実しているから楽しいぞー。学院とはまた違って広いし、人も多いから練習になる」


 といった話をして盛り上がる。

 そういえば筋トレの道具とかを作ったら兄ちゃんズは嬉しいかもしれないなあ。鉄アレイとか雑誌の通販に掲載されている懸垂の道具にルームウォーキング……。

 こたつの料金を少し割り引いて素材をもらえたりしないかな?


 それはともかくお城を案内された兄ちゃんズの話を聞いてだいたいの構造が把握できた。

 訓練場は先ほどの件で聞いたけど、調理場は信頼されたコック以外は入れないほどガードが固いらしい。

 庭は僕達がお茶会をしていたところよりもさらに広く、使用人の屋敷も男女別で建っているとか。

 家から通えない騎士や魔法使いは寮に入り、結婚したら町に家を作ってもらえるといった福利厚生もあるとかなんとか。


「兄ちゃん達はここで仕事をしないの?」

「まあ……俺は父さんの手伝いだな。やっぱり跡継ぎは長男だろう」

「いいのか、ギル兄」

「魔法を使う荒事はギルドの依頼をたまに受ければいいだろう。お前はここに来るのか?」

「ああ。修行になるし、憧れはあったからな」


 ロイド兄ちゃんの担任が元・騎士という経歴の人らしく、その人に憧れているという。後はリンダさんや母さんのような『強者』になりたいとも。


「ロイド兄ちゃんならなれそうだけどねえ」

「ウルカはまだ将来を考えるには早いけど、やりたいこととかあるのか?」

「うーん、平和に暮らせればなんでもいいよー。ステラやアニーと結婚したりしてさ」

「……デオドラ様と結婚もできるんじゃないか?」

「いやいや。僕が王族って有り得ないよ!」


 ギル兄ちゃんがとんでもないことを言いだしたので笑いながら否定する。しかし兄ちゃんズは顔を見合わせて複雑な表情をしていた。

 

「兄貴が居るから嫁ぐ線もあるんだからな?」

「そう? でもこの生活は手放したくないと思うけどなあ……」

「「いや、どう考えても誰かと結婚するよりお前の方がいいって言うと思う」」


 僕の言葉に二人そろって手を前で振る。双子なので揃っていて面白い。

 そうかなあ……。


【あたしでも王様よりお前を選ぶぞ】


 くっくと笑うゼオラはさもおかしいといった様子だった。馬が合うし、ゼオラとは全然結婚出来ると思うけどね。


【……そういうとこだぞ、お前】


 と、よくわからないことをゼオラは真顔で言う。兄ちゃんズも『まあウルカにもいずれわかるか』と僕の頭を撫でながら笑いこの話は終わった。


 そして夕食。


「リンダさんは?」

「さっき帰って来たらしいんだけど、ワイバーンが出たって報告を受けたからまた出て行っちゃったよ」

「あ、そう」


 ギルドの人がそんな報告をしたとのことでクライトさんが困った顔でやれやれと首を振る。もはやわざとではなかろうかというくらいタイミングが悪い。

 楽しみにしていたけどこうなると段々面倒くさくなってくるなあ。


「ママは忙しい」

「そうだね……」

「ご飯を食べたら僕にクリエイトの魔法をもっと見せてくれ! 僕が王になったらウルカを側近にするんだ」

「ええー……!?」

「それ、いい……。兄さま冴えてる……」


 まあ大きくなったら気も変わるだろうと愛想笑いをしてその場を終わらせ、ルース様の部屋で楽しく過ごす……前に、僕はここで提案をする。


「あ、そうだ。すみません、ちょっと試したいことがあるんですけど素材を提供してもらうことはできますか?」

「む? 構わんが……。まさかなにか作るのか!?」

「あ、はい」


 すると国王様がガタッと椅子を揺らして僕に顔を向ける。とりあえず健康器具系を作ってロイド兄ちゃんや騎士さん達に使ってもらおうかなと伝えてみる。


「……見たいな。こたつの金額を減らしてくれるのか?」

「はい! あ、なので持って帰りますけどね」

「良かろう」

「楽しみですわね……!」


◆ ◇ ◆


 ――というわけで、先ほど考えた器具を作るために色々と用意してもらった。査定してくれる大臣と相場に詳しい父さんもいるのでこたつの値段と相殺していこうという話に。


「……なんか多くない?」

「気にしないでくれウルカ。みんな興味があるんだ」

「まあいいですけど」


 訓練場に集まったのは僕達だけじゃなく、暇な騎士やメイドさんといった人までいた。クリエイトの魔法でどういう風に道具ができるのか興味があるのだとか。

 失敗したところでそういうものだし、緊張するようなものでもないのでさっと鉄に手を置いて魔法を使う。


「よし、イメージ通り」

「なんだこれ?」

「これは腕を鍛える道具だよ。こうやって」


 流石に5kgをこの体では持てないので仕草だけで使い方を教える。するとロイド兄ちゃんが実演してくれた。


「へえ、確かに……こりゃ効くな。寝ながらでもできるからめちゃくちゃ便利じゃね?」

「ほう……これは重さを変えたらどんどん鍛えられそうだ」

「いいでしょ? それじゃ次はっと」


 次に作ったのは――

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