第百十一話 代償は大きいというもの


「頼む、クラウディア殿……! こたつを売ってくれ!」

「うーん……」


 ひととおりこたつを堪能した国王様たちは、そうなるだろうなと思っていたことを口にする。

 そう、こたつを売ってほしいというお願いだ。


「わたくしからもお願いしますわ」

「ぼ、僕からも!!」

「お願い……します……」


 当然というか一家全員が懇願してこたつを売ってくれと言ってきた。こうなるであろうは分かっていたのでこたつは秘密にしておこうと話し合っていたんだよね。

 それを母さんが親バカを発揮して口にし、この状況である。

 一番力があるのも母さんだから王族は母さんに詰め寄っている。


「母さん、これはもう売るしかないよ」

「でもウルカちゃん。そうしたらママのこたつが無くなってしまうわ……」

「まあ、母さんのせいだし仕方ないかも」

「ううう……」


 後、母さんだけのこたつではない。

 素材さえあえば作れるし、一組ぐらいプレゼントしてもいいと思う。


「というわけで僕達が持ってきたこたつは皆さんにお売りしますね!」

「おお……。ウルカ……!」

「ありがとう……!」


 国王様とデオドラ様が特に大喜び。

 がっくりと項垂れる母さんの両脇を兄ちゃんズが抱えていた。父さんはこうなるのが分かっていたので苦笑していた。


「一応、価格設定がついていまして、金貨二十枚になります」

「結構高いんだな……」

「ファイアリザードの魔石を使っているし、布団もテーブルもいい素材を使っているんだ」


 金貨二十枚くらい余裕と言いそうなルース様だったけど、そこは意外とシビアだった。値段の高さに目を見開いて汗を流す。


「分かった。では帰る前に支払うとしよう。使い方を教えてくれるか?」

「はい」


 そこから僕がこたつについてのレクチャーを行い、魔力の込め方をルース様とデオドラ様へ伝授。魔力を出す練習という意味もあり、これも勉強である。


「ん……、難しい……」

「多分こうだよデオドラ。……違うのか……」

「大きすぎず小さすぎず。魔力の操作をするにはちょうどいいんだよね」

「オレは苦手なんだよなあ。ギル兄が得意だよな」

「ふっふっふ、これでも学院で魔法学科首席だからな」


 国王様とエリナ様はさすがというか魔力操作はそれなりにできるらしい。それでも城仕えの魔法使いにやってもらうとのこと。

 一度魔力を通すとこたつの熱は持続できるから、魔法使いさんにやってもらうと練習にならないんだけどね。


「さて、それでは夕食まで一度ゆっくり部屋でくつろいでくれるか?」

「お言葉に甘えさせていただきます。旅の疲れもありますので」

「そうですわね。では解散いたしましょう」

「うう、ええ……」


 嗚咽にも似た声を上げる母さんを引きずって僕達は部屋へ案内された。一家揃って……ということはなく、家のように一人一部屋を与えられた。

 あ、父さんと母さんは同じ部屋だったけど。


「ふう、着いたそうそう大変だったなあ」

【お疲れさんだったなウルカ】

「うん。でもルース様が立ち直って良かったよ。にしてもよく親が悪いって分かったね」

【あー、なんでだろうな。あたしにもよく分からないんだけど、そう思ったんだ】

「ふうん?」

【ま、田舎者だとか平民が、とかいうヤツは貴族に多いんだが王子はちょっとニュアンスが違ったような気がしたんだよな】


 ゼオラが言うにはエリナ様に『叱られる』ことで自分に目を向かせていたのではないかとのこと。

 勉強は出来そうだったのと、平和そうな国王様達をみてそう感じたんだそうだ。


「僕は前世も今も家族には恵まれているから、最初は分からなかったなあ」

【ウルカの家だと母親が悪い奴で兄ちゃん達を虐げて、お前だけが溺愛されているって感じだな】


 それは嫌だな。

 特に自分の子供を差別するような母さんだったらこっちから嫌いになりそうだ。

 

【ま、ウルカの母ちゃんはこたつが無くなるだけで死んだような顔になるからっそれは絶対にないよな。兄ちゃん達も母ちゃんに対して強いし】

「ははは、母さんは人に偉そうな態度を取らないからねえ」


 親ばかではあるけど、自分がヴァンパイアロードだとかそういうのは相手が威圧してきたときなどにしかしない。

 リンダさんと戦った後、父さんが庇って助けたわけだけど、本当にいい方向に進んだんだなと思う。


「どちらにせよ、家族みんなが仲良くなるのはいいことだよね。こたつを囲むと距離が近いから話もしやすいし売って良かったのかも」

【だな。ま、材料はあるしパンダのところにもあるから大丈夫だろ】

「ゼオラもパンダなんだ……」


 パンダと言えばトリーアさんだけど、そういえばアニーとフォルドは元気にしているかな? なにも言わないで出てきちゃったけど。


◆ ◇ ◆


「へへー。今日は一人で来ちゃった! ウルカくーん、遊ぼう!」


 風邪の治ったアニーが元気にウルカの屋敷までやってきていた。最後にゼリーを貰って食べたところ翌日には熱が引き、次の日には動き回れるくらいに回復。

 母親に安静にしておけと言われたので黙って家に居たが、アニーは完全に動けるようになったので早く遊びたいとここまで来たのだ。


「……あれ? ウールーカーくーん!」


 しかし、大声で呼んでも返事は無く、よく見ればシルヴァやタイガといった動物の姿も見えない。厩舎にもハリヤーがおらず、窓も閉まっている。


「居ないのー……?」


 誰も居ないことに不安を覚えたアニーはオオグレの小屋へ。すると――


【おお、アニーではござらんか。風邪は治ったのでござるな、良かった】

「ござるーが居たー!!」

【うごふ!? アニーは小さいけどさすがに全力の突撃は強いでござるよ……!?】

「ウルカくん居ないのー……。どこ行っちゃったのー? もしかして攫われちゃった……?」


 一瞬で涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたアニーがオオグレに抱き着いてそんなことを言う。

 オオグレは着物が汚れるのも気にせず、諭すように返した。


【大丈夫でござる。ウルカ殿達はちょっと王都まで出かけているのでもう少ししたら帰ってくるでござるよ】

「おでかけー? アニーも行きたかったの……」

【風邪を引いているし、王様のところだからさすがに無理でござるよ。おみやげを期待して待とうでござる】

「うー……。あああああああん!!!」

【うおお!? な、泣かないで欲しいでござる!?】


 今は居ないということに寂しさを感じたアニーは火がついたように泣き始める。オオグレがびっくりして声を上げた。


「オオグレさん、遊びに来た……おお!? アニーか? どうした」

「パンダ―!!!」

「ぐわあ!?」


 お互い一人だということでオオグレのところに遊びに来たトリーア。話し相手としてくるのだが、今日はアニーが居ることに驚いていた。

 そんなアニーはトリーアを発見すると今度は彼に突撃。


「あああああああん!」

「いやあ、まいったな……」

【はっはっは。みんな早く帰ってきて欲しいでござるなあ。ステラ殿も居ないし】


 泣きじゃくるアニーをあやしながら二人は肩を竦めるのだった。

 そしてステラだけ一緒に行っていることを知ったアニーは頬を膨らませて不機嫌になったとさ――

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