第百十七話 いつか来る追放!? というもの


「これは……」

「本気か……!?」

「まあ」


 到着した騎士が驚愕した声を上げ、母さんが珍しく目を丸くしていた。頬に手を当ててフレイムドラゴンを見上げる母さんへ声をかける。


「あ、母さん! ごめん、大変なことになったよ……」

「ウルカちゃんはまだ小さいから制御が難しいのかしらね? オオグレさんの時もそうだけど触っただけで蘇ったんでしょう?」

「うん」

「みたいだぜ」


 不安げな僕の後ろに兄ちゃんズが立ち、支えてくれる。心強い。

 母さんの様子がいつもと違うのは、今回はオオグレさんの時と違ってフレイムドラゴンの剥製は国の財産だからだろう。

 処遇についてどうなるのか、それが一番の焦点だ。学校の骨格標本くらいなら貴族でもある父さん母さんでなんとかできるけど――


「ど、どうしますかグリーズ騎士団長」

「どうするも……報告するしかない。ウルカ君の仕業、ということでいいかい?」

「はい」

「なら、申し訳ないけど重要参考人として一緒に来てくれるかな」

「重要参考……って、ウルカが罪人みたいな……」

「ギルバード」


 ギル兄ちゃんが冷や汗をかきながら詰め寄るが、母さんがそれを制した。これもまた珍しく真剣な顔だ。

 

【おい、我を置いて話を進めるな】

「少し大人しくしていてね……? あなたが悪いわけではないけど、ちょっと人間こっちの事情があるから、帰ってくるまで動かないでね」

【……!? わ、分かった】

「「「……!!?」」」


 瞬間、周囲の温度が五度は下がったと錯覚するほど冷たくなった。僕を含むその場に居た全員が戦慄する。

 母さんが首だけをぐるりとフレイムドラゴンに向けてそう言うと、赤い目に怯んだ彼が大人しく従う。

 そのまま僕達はグリーズさんと一緒に城へ逆戻り。博物館は一時閉鎖となり、観覧者は外に出されて代わりに騎士が常駐。


「ウルカちゃん……」

「くぅーん……」

「こけー……」


 シルヴァの背に乗ったデオドラ様が心配そうに僕の袖を掴む。


◆ ◇ ◆


 そして緊急の謁見が始まると、国王様とエリナ様が難しい顔で僕達家族へ目を向けていた。


「……フレイムドラゴンを復活させたのか。ううむ……それは……」

「まずいですわね」

「ご、ごめんなさい……」

「いや、まさかこんなことになろうとは。アンデッドといえどフレイムドラゴンほどの大物を子供が復活させられるとは思わなかったからな。しかし、どうしたものか」

「なにか問題が?」


 ギル兄ちゃんが尋ねると国王様は小さく頷いてから口を開く。

 そもそも脅威を振りまいていたフレイムドラゴンをなんとかリンダさんが退治したのにそれがアンデッド化して復活したのがまずいという。

 

 何故なら物理的に殺すのが難しいからだ。


 生物なら首を落とせば殺せる。

 だけどアンデッド、特に骨になってしまった魔力を媒介して動く『物体』は中々殺せないからだ。

 例えばオオグレさんを動けなくするなら頭蓋を全て粉々にするくらいは必要で、彼のような達人に対しそこまでできるのはリンダさんクラスじゃないと難しい。


 ではフレイムドラゴンは?

 あれだけの巨体の頭蓋を破壊するのは相当厳しい。クライトさんが言うにはリンダさんといえど殺す箇所が限定的であそこまでの魔物を倒すのは大変なのだそうだ。


「ウルカの言うことは聞きそうか?」

「それは、多分。僕の眷属として復活したみたいなので。……あの、僕の町へ連れて行くのは……」

「難しいな」


 国王様が即答する。

 理由は簡単、理性的ではないそんな脅威を放置するわけには、いかないからだ。

 母さんがもし人型でなければ討伐対象になったかもしれない。そういう脅威なのだ。


「あの、意思疎通はできます……!」

「しかしそれはウルカだけだろう?」

「う……」

【……ま、今回は諦めるしかねえな】

「師匠……?」


 ゼオラが深刻な顔で国王様を見つめ、ステラがそんな彼女を見上げる。まるでこの後で国王様が何を言うか分かっているようだ。


「これ以外ないか。ウルカティヌス・バーン・ガイアス。貴殿とフレイムドラゴンゾンビを国の辺境へ追放する」

「「な!?」」

「……」


 国王様が口にした言葉……それは僕の辺境送りという話だった。兄ちゃんズは驚き、両親は苦い顔をしている。これはあり得ると思っていたようだ。

 そこで母さんが手を上げて発言の機会を得る。


「陛下のご決断はもっともだと思います。重要な文化財を予期せぬとは言え復活させてしまい申し訳ございません。……しかしウルカちゃんはまだ五歳。フレイムドラゴンゾンビは私がしっかり押さえておきますので、息子がそれなりに歳を取るまで保留にはできませんか?」

「むう……。それだと示しがつかん」

「じゃ、じゃあオレ達も一緒に行けば――」


 ロイド兄ちゃんが口を挟むと、エリナ様が首を振って言う。


「家族はいけませんの。単独での放逐が処罰になるのですわ」

「くっ……」


 家族まとめてというのはよろしくないらしい。そして父さんが言う通り、僕が送られる場所は不毛の地だそうだ。

 しかし、一応、僕は貴族なのでその場所の領主とするとのこと。

 さらに領土としての広さはあるのでフレイムドラゴンゾンビが存在していても問題ないレベルで人も居ないらしい。


「し、しかしやはり五歳の子を一人で放逐は……」

「お父様……ウルカちゃん、可哀想……わざとじゃない……」

「む、むう……」


 デオドラ様いわれてタジタジになる国王様。もちろん彼も好きでこんなことを言っているわけではないのは分かっている。だからこそ辛いのだ。


「……ならば――」


 そして国王様が提案したこととは――

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