第百一話 王都へ到着するというもの


「またお越しください……!! 絶対に!!」

「ありがとうー」


 というわけで中継地点の町での一泊を終えた僕達は王都へ向けて再度出発。早朝だというのに色々な人が諸手を上げて見送ってくれた。


「めちゃくちゃ感謝されたな」

「そりゃゴブリンに困ってたらしいし、あれくらいはな」


 兄ちゃんズが荷台の後ろで手を振りながらそんな話をする。実はあのゴブリン達の仲間らしき集団が周辺に住み着いて町の人が困っていたらしい。

 冒険者に依頼はかけていたものの、この寒さでは動きが鈍るため駆逐とまではいかなかったそう。

 なので母さんの攻撃で少し静かになり、町近くで襲ってきた集団もやはり母さんにあっさり始末され、町の人たちは大いに喜んだ、というわけ。

 一応ギルドにゴブリン討伐の証である長い耳を削いで持ち込んだ。


「母さんの魔法で俺達はなんにもしていないんだけど、豪華な食事は美味かったな」

「んー」

「またこたつに入ってる……」

「ウルカちゃんおいでー」


 寝そべって僕に手を伸ばす母さんの手を掴んでぶんぶんと上下に振ってあげた。楽しそうだ。すると御者台近くに座っていたバスレさんが口を開く。


「……ウルカ様の回復魔法のせいもあるかもしれませんね」

「ええ? ちょっとした怪我を治しただけだよ」

「血が止まるだけでもありがたいからね。ありがたいと思ったんだよ」

「それにしても回復魔法まで使えるとは……ウチの弟は万能すぎるだろ」

「その割には驚いてなかったよね」

【『まあウルカだし』で終わる話だからなあ】


 ゼオラが頭の上で笑いながら呟き、暖かい目をする家族の代弁をしてくれた。もとはといえばゼオラが教えてくれたので彼女が言うのは大変遺憾であるけども。


「ま、いいか」


 便利であることに違いは無いし。

 そんな一幕があった中でジェニファーとタイガ、シルヴァも大活躍したんだけど、もう終わったことなので割愛する。


「こけー!?」

「にゃー!?」

「ばうわう!?」

【はいはい、落ち着けおまえらー】


 そしてそこからさらに約半日進み、ついに王都へと到着した。遠くから見えていた背の高い建物はどうやら高台にあったお城のようで、あそこに先日僕達の町へ訪れていた国王様達がいるようだ。

 キレイに整備された町の外壁はシンプルながらも強固に見え、高さは大型の巨人でもないと乗り越えられないくらいあった。


「見張り台も数か所あるね。周辺は開かれた草原だし敵が来たらすぐわかるって感じ」

「ほう、ウルカはそういうのも分かるのか? 森もあるから空からでないと攻めにくいのが自慢だと言っていたよ。実際、何百年も戦争は起きていないし」


 父さんが僕の頭を撫でながらそう口にする。ほいほい出てきたあたりもうちょっと雑なのかと思ったけど普段はそんなこともないそうだ。

 そういえばちゃんと報酬を用意していたし、悪い王様みたいに強奪したりはしなかったか。


「止まれ!」

「お」

「行って良し!」

「ええ……?」

 

 城門にてコントみたいな流れで中へと通された。父さんに尋ねてみると、馬車の側面についている家紋とウオルターさんの顔パスらしい。

 よく物語である荷物検査などをされると思ってワクワクしていたらこれである。

 いや、貴族の特権みたいなものだから楽でいいんだけど『こういうものなんだなー』感もあって……。


 で、町の中だけどもちろんウチの町とは規模が違って、通りだけでも広すぎるくらい広い。馬車は4台並んでも余裕があり、石畳は舗装されていてあまり馬車ががたつかない。

 兄ちゃんズは何度か来たことあるのであそこになにがあるとかそういうのを窓から僕に教えてくれる。


 道行く人も馬車も多いので、町のように僕達が目立って歓迎されるということもなくスムーズに城まで進んでいく。

 丘に差し掛かったところで門が一つ。ここも二、三話をしてからほぼスルー。さらに上って城の入り口のところでもう一つ柵があった。


「ガイアス家の皆さまがいらっしゃったぞー」

「おおー!」

【歓迎されているな。それにしてもセキュリティは万全だぜこいつは】

「ここからみると城壁も厚さがあるから掘って侵入も難しいだろうしね」


 荷台から見える景色はなかなか悪くないと、ゼオラと二人で笑い合う。そのまま馬車は専用の停車場へと置かれてハリヤー達は馬房へと連れて行かれる。


「ごめんよハリヤー。また後で行くよ」

「わんわん」


 シルヴァやジェニファーは中へ入ってもオッケーだとされているけど馬はさすがにダメらしいや。『ゆっくりさせていただきます』とばかりに小さく鳴いてからお城の飼育員と一緒にどこかへ消える。


「それではこちらへ。謁見の間へご案内いたします」

「行きましょうか」

「ウルカ君、いこう」

「うん」


 ステラと手を繋いで城内へ入っていくと騎士とメイドさんがずらりと通路に並び頭を下げた状態で待機していた。

 父さんと母さんが先頭を歩き、その後ろに兄ちゃんズ。さらに後ろを僕達と動物。最後にクライトさんとお付きの人が後を追う形だ。


【いい城だな。お姫様と結婚したらウルカの物だぞ】

「(やめてよ、デオドラ様と僕じゃ釣り合わないって)」

「どうしたの?」

「いやなんでも……」


 ステラとアニーも居るしねとは言わないでおこう。

 それはともかくしばらく歩いていくと大きな扉が見えてきた。謁見の間というやつだろう。


「ガイアス家、並びにギルドマスターのクライト様がいらっしゃいました」

「うむ、通してくれ」


 あ、国王様の声だ。

 その声が聞こえた瞬間、重たそうな両扉がゆっくりと開く――

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