第百二話 謁見の間にてというもの


 ――重い扉が完全に開いたその時、漫画やアニメのいわゆる異世界もので見るような謁見の間が目の前に広がる。

 体育館とまではいかないけどそれなりに広く、入り口から奥に伸びている赤い絨毯の向こうには3段ほどの緩やかな階段と国王様と王妃様の玉座があった。

 僕達が中ほどまで歩いていき、背後の扉が閉じると国王様達が口を開く。


「皆の者、久しぶりだな。元気にしておったか?」

「はい。病気やケガもなく過ごしております。お気遣い痛み入ります」


 父さんが代表して胸に手を当てて頭を下げながら言う。いつもよりキリっとした父さんがなかなかカッコいい。


「遠いところよく来てくれましたわ。クラウディア様、今度はこちらがおもてなしさせていただきますわね」

「ふふ、ありがとうございますエリナ様」


 母さんも村でゴブリンを倒した時とは違い、貴族らしいふるまいをしていた。元々ヴァンパイアロードの王ということだからこういうのは得意なのかもしれない。


「ギルドマスター・クライトの活躍もリンダともども聞いているぞ。いつも助かっている.」

「ありがたきお言葉」


 クライトさんもラフな格好じゃなくて正装だし、ステラもおめかししていてとても可愛い。

 

「ギルバートにロイドは何度かここへ来ているな」

「ハッ、覚えていてください光栄であります!」

「先日は町に起こしいただきありがとうございました」

「ウルカは言わずもがな、娘が世話になったようだ」

「恐れ多いです」

「楽にしてよいぞ」


 僕達も頭を下げて一通り挨拶が終わり、国王様の言葉に全員が顔を上げて普段通りのリラックスした状態になる。

 そこで会話の繋ぎにと母さんが口を開く。


「本日お招きいただいたお礼にと、我がガイアス家から献上品がございます」

「……!」

「……!」


 母さんが『献上』と言ったあたりでガタッと国王夫妻が腰を上げる。見れば近くに居た騎士も少し身を乗り出しているような感じだ。


「さ、ウルカちゃん」

「はい。それではこちらになります」


 一歩前へ出てから木箱を前へ出す。

 すると大臣とか宰相っぽい人が柔らかい笑顔をこちらに向けながら受け取ってくれ、国王様へ渡してくれた。


「開けて良いか……!」

「え、ええ」

「早く開けてくださいまし……!」

「陛下、私が開けますから!?」


 そんなに焦らなくてもいいのにと苦笑しながら眺めていると、安全のため騎士の一人が木箱の蓋が取り、中身を手にする。


「これは……ガラスの瓶か」

「あら、キレイですわね。ウルカちゃん、これはなんですの? 随分と冷たいもののようですが」

「そちらはお菓子になります。ゼリーというもので、果物の果汁と海で採れる草を混ぜ合わせたものになります」

「ほう……」


 コンビニなどで売られているくらいのガラスの瓶。

 それに詰められたオレンジのゼリーを持ち上げて興味深いとばかりに目を細める国王様。すると王妃様がすぐに食したいと同梱していたスプーンを手にはやる。


「毒見役よ、前に」

「ハッ」

「はい」


 先ほどの大臣っぽい人が手を叩くと横に並ぶ人達の中から男女が一歩前へ出てきて頭を下げる。


「すまんが早く頼むぞ」

「では失礼して。なんだかスライムみたいですね。……!!」

「これは……!!」


 二人が一口食べると目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。すると――


「あ!? お主ら一口だけだと言ったろうが!」

「ちょ、あなた達!?」

「い、いえ、このざらっとした舌触りがなんなのか確認せねばと……!」

「よく確認できました。こちらは桃のぜりぃというやつです」

「あああああ!? 半分以下に!?」


 毒見役の二口目はごっそりと口に入れたため、ガラスの瓶はあっというまになくなっていた……。処刑とかされない? 大丈夫?


「問題ありません。どうぞ」

「問題おおありだろうが!? あーあ……。しかし、毒見役が2度口にするとは興味深い。今回は不問にしてやろう。……では私も」

「はむ」


 ゼリーを口にした瞬間、二人は立ち上がり満面の笑みで次を口に運ぶ。

 今回、国王様達は4人家族なので都合8個用意した。

 

「冷たくて美味いな……。寒い季節なのに果物が食べられるような感じもいい」

「惜しむらくはオレンジと桃が無くなってしまったことでしょうか……」


 今、食べられてしまったからなあ。

 でもこんなこともあろうかと、僕はもう一つ箱を取り出して口を開く。


「もうひと箱ありますよ!」

「ウルカ、偉い! 勲章をやるぞ!」

「それはちょっと……」


 気に入ってもらえて良かったけど、そんな大層なものじゃないので受け取れないと丁重に断った。

 後でデオドラ様と食べて欲しいものだ。

 そんなことを考えていると、国王様が一つ食べきったところで笑う。


「はっはっは、相変わらず驚かせてくれるな。美味かった、後でゆっくり残りを食べさせていただこう。今回呼んだのは前のお礼とお詫びだったが、これは最を尽くさねばならんな。では面通しはこれで一旦終了だ。部屋を用意してあるからまずはゆっくりしてくれ」


 ありがとうございますとお礼を述べてから僕達は謁見の間を後にする。母さんは後で王妃達とお茶をするらしい。


「あ、そういえばリンダさんは!? 先に来て居ると思ったのに」

「リンダは討伐に行っているんじゃないかな? 王都に来れば彼女は引っ張りだこだからねえ」

「忙しいんだね……」

「ママは平和のために頑張っている」

「うーん」

「ウルカ君、難しい顔」


 僕が言うのもなんだけどリンダさんって働き過ぎじゃないかなあ。いや、会えないことが不満じゃないんだよ? だけどいっつも依頼を受けているんだけど過労するんじゃなかろうか。


「過労死って言葉もあるくらいだからちゃんと休んで欲しいもんだなって」

「ははは、リンダはちゃんと休んでいるよ? 七日中二日は」

「そうなんだ?」


 週休二日なのか。それにしては見ない気がするなあ。


「部屋に行くぞーウルカ」

「はーい。それじゃステラ、また後でね。デオドラ様も会うかな?」


 ……そういえばあの性悪な兄はいるんだろうか……?

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