第百話 王都へ行こうというもの
「やあ、久しぶりに王都へ行くなあ。折角だし商品の買い付けもしておこうかな」
「たまにはゆっくりしたらいいんじゃねえか親父?」
「だな。多分、陛下に拘束されて出られないと思うし」
「お兄ちゃん達の言う通りよ。それにしてもあったかいわねえ」
ということで僕達一家は予定通り王都へ向けて出発していた。
片道で一日半ほど費やすので、今日は途中の町で宿を取る工程となっている。
クライトさんとステラの馬車は僕達の前を移動していて、休憩の合間にステラが僕のところへやってくるような感じ。
路肩には雪が積もっていて、空気も張りつめたようで寒さも厳しい。
そんな中、ハリヤーを見て僕は口を開く。
「ハリヤー達は重くないかな?」
「三頭で引かせているから大丈夫だろ。なあ?」
ウオルターさんと一緒に御者台へ座っているロイド兄ちゃんが声をかけると『お仕事ですから』といった感じで鳴いていた。残り二頭は馬房からレンタルしてきた雄雌の兄妹馬らしい。その二頭も『問題なし』とばかりに軽やかに鳴く。
名前はドーマとダフネとのこと。
何故、三頭なのか?
それは、荷台を拡張して僕としては馬車の荷台を拡張してこたつを置いているから重量がかかってしまうためなのだ。
僕は止めたよ? それでも母さんが譲らなかった。寒いのが苦手というわけではないんだけどね……氷系の魔法が得意だし。
「こけー!」
「にゃー!」
「わんわん!」
そしてハリヤーの頭に乗って興奮気味のジェニファーとロイド兄ちゃんの膝でお座りをしているタイガが吠える。シルヴァは馬の護衛のため、ステラと僕達の馬車の間をてくてくと歩く。
「遠出は初めてだからみんな喜んでいるね」
「そうだな。それにシルヴァが居ればたいていの魔物は寄ってこれないから、あいつはいい仕事をしているよ」
出会った時より2.5倍くらいになったシルヴァはもう僕じゃ抱っこできない。最初はギリギリ抱っこできたんだけどね。
ともあれまだまだ子供とはいえフォレストウルフという魔物としての威厳はあるらしい。
「わおーん♪」
野生の面影はもうどこにもないけど。虫を追い回しながら前を走るシルヴァは可愛いけども。
そんなことを考えていると前を走る馬車の荷台からステラが出てきて黄色い布を振り回す。
「そろそろ休憩時間みたいですね。ちょうどお昼どきですしランチにしましょうか」
「さんせーい!」
「こけっこー♪」
町を出てから約六時間。二度目の休憩となった。
早速、僕の作った折り畳み式テーブルセットを用意して昼食が始まる。
「あの、ウルカ。帰ったらこれをザトゥさんに教えてやってくれるか? めちゃくちゃ売れるぞ……」
「え? 別にいいけど売れるかなあ」
「すげえな、貴族がまた殺到するんじゃねえか? 意匠を凝らしたらどこでもお茶会ができるとかよ」
「さすがウルカ君」
ステラがドヤ顔でロールパンにハムとチーズを挟んだものを口にする。荷台にこたつを置くなら作らなくても良かったんだけどね……。
簡単な丸テーブルとイスだけど、折り畳みはこの世界に無かったようなので父さんは目を輝かせていた。
ぶっちゃけ難しくないので考え付きそうなものだけど『使えればいい』からそこまで考えが至らないのかもしれない。
それはともかくスープやパン、サラダといった軽めのランチを食す僕達。
「こけーっこ」
「にゃふにゃふ……」
「わふ」
動物達も好物を与えられて満足げだ。
「バスレ、紅茶をお願い」
「はい、奥様」
「ありがとう。あなた達も食べなさいな」
母さんが紅茶を飲みながらウオルターさんとバスレさんに食事を摂るように指示していたので、僕もハリヤーに野菜を食べさせようと椅子から降りる。
「パパ、私もウルカ君についていく」
「はいよっと」
「お、ハリヤーに餌やりか。オレも手伝うぜ」
クライトさんの膝から降りたステラが隣に並び、僕の手にあった野菜の入ったバッグをロイド兄ちゃんが持ってくれる。さりげない優しさだよね。
ちなみにギル兄ちゃんは食器を片付けてくれていたりする。
「<ミズデッポウ>」
「私も」
ステラと一緒に野菜を洗ってから馬達の顔へ近づけるとそっと口に入れて咀嚼。美味しそうに食べると次を要求してきた。
「焦って食うなよー」
「次の町まではどれくらいかかるの?」
「えっと、いまが13時くらいだっけ? なら後4時間か5時間くらいじゃなかったけかな」
「じゃあ陽が暮れてから到着になるかな」
「次はウルカ君の馬車に乗せてもらおう」
冬と同じで暗くなるのが早いんだよね、こっちも。ステラが今度はウチの馬車に乗ると言い、ロイド兄ちゃんが代わりにクライトさんのところへ行くかと意地悪そうに笑ったところで――
「ばうわう!! ばうわう!!」
「なんだ……?」
――シルヴァが大きく吠えながら僕のところまで駆けてきて守るように立つ。それを見たロイド兄ちゃんが腰の剣を抜いて周囲に視線を向ける。
「魔物?」
「多分な。こいつがなにかの気配に感づいたからお前のところに来たんだろうし」
【まあ平気だろ。そこまで強いのは出てこないと思うし】
空中に浮かんでいるゼオラも念のためにと警戒してくれているけど、母さんもいるし、クマや蛇系の比較的強力な魔物は冬眠するため出てこないかららしい。
後はゴブリンやオーク、オーガといった魔物や、空から強襲してくる鳥系が出るか? しかし空を見上げるゼオラにはその焦りはない。
すると――
「ギシャァァァ!」
「きゃあ!?」
「そっちか! ギル兄!」
「わかっている!」
街道横にある森から躍り出てきたのはゴブリンの集団だった! 狙いは若い女性なのかバスレさんのようだ。すぐにロイド兄ちゃんが駆け出し、ギル兄ちゃんが魔力を練る。
【だから大丈夫だって】
「いや、数が結構多い――」
「<デストロイサンダー>」
「「「ギィエァァァァ!?」」」
母さんの声が聞こえた瞬間、数十のゴブリンが一瞬で黒焦げになった!?
そんな母さんに目を向けると、テーブルでうとうとしながら指を上に向けてくるくると回していた。
「いい気持ちで寝れそうだったのに、うるさいわねえ」
「ええー……」
あっという間に片付いたのはありがたいけど、やる気を見せた兄ちゃんズはずっこけて尻もちをついていた。見れば父さんとクライトさんは椅子に座ったままお茶を飲んでいる。
「ママが居るのに攻撃を仕掛けてくるとは運が悪いゴブリンだねえ」
「ありがとうございます。クラウディア様」
「いいのよ、あいつらが悪いんだし。バスレを狙うなんて不届きな」
【だから言ったろ?】
「確かに……。いや、それもそうだけど」
村の時と違い冷静に魔法で蹴散らした母さんに僕は、
「カッコ良かった! 母さん凄い!」
ちょっと感動した。
眠そうな母さんの下へ行き、拍手をしながらカッコいいを連呼する。
「え? ママ、カッコよかった?」
「うん、一瞬でゴブリンを倒したの凄いよ!」
「うふふ、カッコよかった……ウルカちゃんが……! どこかゴブリンは居ないかしら!」
「過剰に倒す必要は無いよ!?」
という感じでなんだか新しい魔法を見せてもらった。詠唱無しであんな大技は素直に凄いよね。
【あたしもできるんだぞ】
「いつか見れたらいいねえ」
対抗意識を燃やすゼオラに呆れつつ、昼下がりの休憩は終わりをつげて僕達は再度出発をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます