第九十七話 報告で色々知るというもの
「陛下、ご報告にあがりました」
「うむ、ご苦労。してあの町……いや、ウルカは新しいものを作っているか?」
――ここはワイゲル王国の王都。その城の謁見の間。
そこで国王フレデリックは諜報員からの報告を受けるため玉座に座っていた。隣には王妃エリナの姿もある。
「は……。あの祭り以降、目立った動きは無かったのですが厳寒の月に入ってから少し新作がありました」
「ほう……!」
「それは楽しみですわね、どんなものがあったのでしょうか?」
フレデリックとエリナは歓喜の表情を見せて少し玉座から腰を浮かす。その様子にまあまあと苦笑しながら報告を続ける諜報員。
「まずは『こたつ』というものです。これは比較的低いテーブルに布団をかけ、中に火の魔石を入れて温める道具のようです」
「ふむ? 暖炉ではいかんのか?」
「ええ、父親であるロドリス様が興奮気味に話しておられたのですが、曰く『あれはまずい。気持ち良すぎて出られなくなってしまう』と」
「寒い時期に布団から出られなくなるのと同じなのかしら?」
「布団に火の魔石が入っていたら確かに出られないかもしれん……。ううむ、見てみたい。販売はしておらんのか?」
フレデリックが尋ねると、残念そうに首を振りながら口を開く。
「はい。厳寒の月に入って少ししてから『シュウマー』と知り合いになったようなのですが、その獣人に貸し与えているものと自宅に備えているものだけですね」
「それは残念ですわ」
「ファイアリザードの魔石を使うようなので貴重と思えば仕方ありません。続けます。さらにその獣人が依頼を受ける際に手袋を作ったのですが、魔石を織り込んでおり冒険者達が絶賛。つけさせて貰たのですが、指が通常の手袋より暖かいのに稼働に余裕があるという代物でした」
この時期は冒険者も寒さで討伐依頼をしたがらないものだがそれは武器を満足に振れないからである。それが解消されれば増えやすいとされる厳寒の月の魔物を駆除できるのではと、フレデリックは顎に手を当てて肩眉を上げる。
「……高いか?」
「はい。全部で10人が手に入れたのですが、ファイアリザードの魔石を持ってきてくれたからと破格の金貨二枚。フレイムスピナーの布を使っているので受注と素材を考えると最低でも金貨5枚」
「だろうなあ」
配るには高いかと思いつつ、いずれ考えるべきかと胸中で結論づけてからフレデリックは口を開く。
「他には?」
「後は例の池が暑い時期にプールというものに変わり、今では温泉施設になっていますね。身内のみしか入れていないので中はどうか分かりませんが、満足気に出てくるのでいいものなのでしょう」
「むう……風呂か、彼の作ったものならいいものだろうな」
「間違いありませんわね。それにしても、ウルカ君はとてつもない能力を持っていますわ。デオドラもあの動物のぬいぐるみを肌身離さず持っていますもの」
デオドラがウルカにもらったぬいぐるみを大事にしているのはフレデリックも知るところで、可愛い娘が部屋から出てぬいぐるみを見せに来るようになったことに喜んでいた。
「やはり王都へ呼び寄せるべきか?」
「どうでしょうか。近所の子供たちとの仲が深いですし、特にギルドマスターの娘さんと引き離した場合、リンダ殿が黙ってはいないかと。クラウディア様も小さい子を手放すとは思えません」
「やめとこう」
口にして『あ、こりゃ無理だな』と判断して即座に却下。
せめて子離れする年齢になるまでは無理だろう、兄のどちらかを引き入れておけばその可能性もあるか。そう考えていたところで、
「そうですわ、折角ですし彼らを王都に招いてはどうかしら? わたくしは先日のお祭りの件で急に訪問したことをお詫びしたいと思っておりましたの」
「お、おう」
あっさりと迎え入れる算段をつけるエリナにフレデリックは目を見開いて焦る。確かにこの前のお礼と言えば来てくれるかと。
「ではそのように手配いたしましょう。ギルドマスターのクライト殿は?」
「リンダさんが来てくれれば楽しいですし、お呼びしましょう」
「承知いたしました。ご家族でということで招待いたします。名目はいかがいたしましょう?」
「ま、お礼でいいんじゃないか? ゲーミングチェアを使っているところを見せてやりたい」
「デオドラにも会ってもらいたいですからね」
「かしこまりました」
諜報員の男はお辞儀をして一歩下がるとそのまま踵を返して謁見の間を出ていく。その姿を見送った後、エリナが口を開いた。
「忙しくなりますわね。ペット達も連れてきてもらえればデオドラも喜ぶし、いいことですわ」
「そうだな。……ルースにもいい影響があるといいがな」
「……」
兄、ルースのせいで怖がり引きこもりになったことに気づいた国王夫妻は息子を叱責。それから彼女を遠ざけて生活をさせている。
が、このままでは国を継ぐには危うい存在になってしまうのではというのもある。
ウルカという存在に会えばなにかが変わるかもしれない。そういう期待も少し考えている夫妻であった。
そして程なくして一家に通達が届くことになる――
◆ ◇ ◆
「王都へ、ですか?」
「ええ。陛下と王妃様がぜひに、と。先日急に訪れた際にもきちんとおもてなしをしていただいたことのお礼だそうです」
「なるほど……妻と話してからでいいでしょうか?」
「もちろんです」
諜報員の男は笑顔でロドリオに語り掛ける。
すでにギルドへは回っており、クライトは了承していることを告げた。
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