第九十八話 町の外へ出かけるというもの


「な、なんだって……!?」

「それは本当か親父……!」

「まだなにも言って無いぞ!?」


 重要な話がある、ということで父さんに家族全員がリビングに集まっていた。僕とロイド兄ちゃんがノリ良く先に口を開いたところで場に張りつめていた空気が緩和した気がする。ちなみにギル兄ちゃんは一歩遅れていたので言えなかった。


「それでパパ、お話というのはなにかしら?」

「いや、これがまた驚きなんだけど陛下からお呼び出しを受けたんだよ。前に陛下と王妃様が来ただろう? あの時、急な訪問に対応してくれたお礼をしたいと」

「田舎貴族の俺達に? ……ウルカのクリエイトが狙いか……?」

「ギル兄ちゃん、怖い顔になっているよ。それはあると思うけど、国王様達がそれ目当てならもっと早く呼んでいるんじゃない?」


 ギル兄ちゃんが僕を利用とするなら許せんとばかりに口をへの字にする。だけど、あの二人はいい人そうだったし、お礼は本当にお礼なんだと思う。


「で、家族全員で行くかということになっているんだが、断ってもいいそうだ」

「それは恐れ多いなあ。まあ母さんも行くなら問題はないんじゃないか?」

「町の外に行くのは久しぶりだし、私は問題ないわ」


 母さんの言葉にそれならと行くことを承諾。そしてどうやらステラ達も招待されているそうで、


「リンダさんも来るの?」

「ああ、クライトが言うには先に王都で待っているらしいぞ」

「そういや会ったことないんだっけか」

「うん」

「あの人がウルカを見たら気に入るだろうな。強さが無いとステラちゃんと付き合うのは骨が折れるかもしれないけど」


 母さんと同レベルの強さを誇るので、結婚相手はやっぱり強い人を選ぶのだろうか? 今後どうなるかわからないけど幼馴染というのは人生において確保しておいた方が無難なので強くなっておくのに越したことはって感じかな。


「全員問題ないということでいいかな? ではそのように返事をするぞ」

「ええ」


 ということで思惑はどうあれ、ご厚意は受けておくべきだということで僕達一家は満場一致で賛成となった。


「なにかお土産を作って行こうかな? デオドラ様にも久しぶりに会うし」

「オレは騎士の人と模擬戦がやりてえな。親父、頼めたりしないかな?」

「田舎の貴族が生意気な! みたいな話にならないか? 頼むのはいいけど」

「やめとけロイド。その内、騎士団に入るなら面倒ごとが増えるぞ」


 決定すればあとは旅行の算段になるので楽しい会話が続く。真面目な話、外へはファナちゃんが居る村にしか行ったことがないので僕は凄く楽しみである。

 往復と宿泊を兼ねてだいたい7泊8日を予定しているんだけど、惜しむらくはフォルドとアニーとはしばらく会えないことだ。


【オオグレは置いて行くか?】

「目立ちすぎるからねえ。シャドウゲイトの魔法が使えればいいんだけど」

「オオグレさん? そうね、もう少し時間がかかるわね」

「なら二人の相手はオオグレさんとトーリアさんに任せようかな?」


 骸骨は連れて歩けないよとゼオラに返す。というか僕が居ない間遊びには来させないかもとは思う。

 慌ただしいけど明後日には出発なので、今日遊びに来たら声をかけておくかな。


「とりあえずオオグレさんに伝えてくるよ」

「ウオルターとバスレも連れて行くから留守はよろしくと言っておいてね」

「はーい」

 

◆ ◇ ◆


「というわけでしばらく留守にするんだ、屋敷の守りはよろしく頼むよ」

【おいてけぼり……!】

【嫌なこと言うな。お前、その姿で出歩けねえだろ? 村でも騒ぎになってたんだし】

【ぎゃふん】

「ぎゃふんっていう人……いや、骸骨は初めて見たよ。シャドウゲイトの魔法はまだダメなのかい」

【……】

【あ、そっぽを向いた。こいつダメダメだな】


 あからさまに首を曲げるオオグレさんの頭を掴んで言うゼオラ。彼女が教えてあげればとも思うけど、シャドウゲイトの魔法は闇の眷属的な属性が無いと使えないそうだ。

 今のゼオラなら幽霊なので使えるかもしれないけど、そもそも実体がないので毎度使っているようなものだから理論が分からないと母さんは言っていたっけ。


【仕方ない、動物達と待っているでござる……】

「え、全員連れて行くよ」

【うおおおおおん……!! 寂しいでござるよウルカ殿ぉぉぉ】

「トリーアさんところへ行けばいいじゃないか。お風呂にでも入ってさ」


 僕がそういうと肩を落としてから軽く頷き、お茶を口へ。畳がびしゃびしゃになったのを見届けてから外へと向かう。


「ちゃんと掃除しておいてよ」

【世知辛い……】


 さて、次はフォルド達だけど遊びに来るからいいや……そう思っていたんだけど、お昼を過ぎてもやってこなかった。

 それならとバスレさん連れて町へ繰り出すことに。


「こんにちはー」

「いらっしゃ……ああ、ウルカ様じゃないですか! 今日はどうしたんですかい?」

「フォルドに話があったんですけど遊びに来なかったからどうしたのかなって」

「あー、申し訳ねえ。今日はウチの母ちゃんと一緒に村へ行っているんでさあ」


 どうやらファナちゃんの村へ出向いているらしい。遊びに、というよりは元々、商売の用事があったようで串焼きを届けに行っているのだとか。


「明日は僕が忙しいからなあ。おじさん、明後日から7日僕達は王都に行くんですよ。だから遊びに来ても誰も……いや、オオグレさんしか居ないことを言っておいてもらっていいですか?」

「もちろん! 王都デビューか、そのまま帰してもらえないんじゃないですか?」

「あはは、さすがに母さんが許さないと思うよ」


 おじさんの言葉にそう返すと真顔で『確かに』と冷や汗をかいていた。そういう状況を見たことがあるのだろうか?


「それじゃフォルドによろしく言っておいてください。次はアニーのところへ行きます」

「あ、アニーちゃんのとこは止めておいた方がいい。風邪を引いて寝込んでいるそうだよ」

「にゃー!?」

「え!? お見舞いにいかないと……!」

「移ったら大変だからダメだって大将が言い聞かせているから行かない方がいいですな」


 むう、あの元気なアニーが風邪とは驚いた。ならおじさんにお見舞い品を渡して帰ろうかな。


「なにがいいかな?」

「フルーツなどどうでしょう? 食事はなかなか喉を通らないかもしれませんし」

「あ、いいね。ふむ……バスレさん、海藻って町に売ってるかな」

「海の物はあまり仕入れられませんからねえ。旦那様のお店ならあるかもしれませんが」

「やはり信頼になるのは父さんの店か」


 僕はアニーのお見舞いに持って行くものとお土産について思いついたのでバスレさんと一緒に店へと向かうことにした。

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