第九十六話 みんなでゆっくり疲れを癒すというもの


「立派なものができたわね! さすがはお兄ちゃん達とウルカちゃんだわ」


 程なくして母さんを呼びに行き、僕達の作った温泉へと案内した。僕を抱っこしながら開口一番に褒めてくれる。

 僕だけじゃなくてちゃんと兄ちゃんズを褒めるのは母さんのいいところだ。

 ゼオラいわく、一族の頂点なのであまり差別はしないものらしい。


「こちらで服を脱ぐのですね? さ、ウルカ様こちらへ」

「いやいやいや、僕は男湯に行くからね?」

【あたしはいいのかよ】

「ゼオラは壁をすり抜けてアニーの方に行けばいいじゃない」

「えー、ウルカ君こっちじゃないのー」


 アニーが僕の手を握って残念そうに口を開く。僕は困った顔のまま頭を撫でてあげると目を細めて微笑む。


「僕は男の子だからこっちなんだ。アニーは女の子だからバスレさんと母さんと一緒に行こうね」

「はぁい」

「アニーちゃん、おばさんと一緒に入りましょうね」

「うん!」


 聞き分けはいいんだよね。年相応の我儘はあるけど。

 

「母さん、自分をおばさんと言ったな……!?」

「驚くなロイド、母さんは子供に優しいからな」

「普通のおじさんとかが言ったら半殺しだよね」


 僕達三兄弟は女湯に入っていくのを見送りながら母さんについて語る。

 まあおばさんと呼ばれるような見た目ではないから半殺しの目に遭う人は居ないと思いたい。バスレさんのお姉さんでも通用するもんなあ。


【ウルカ殿、ウルカ殿。拙者たちも入ろうでござる】

「ああ、うん。骨なのに入るんだ」

【当然……! 風呂は……いいものだ、でござる!!】


 そう言って僕の手を引っ張るので、はいはいと中へ入る僕達。心なしかオオグレさん頬は赤い気がする。興奮気味か。


「お、センプウキ。寒いのにあんのか?」

「お風呂上りは暑いからね。髪を乾かすのに使ったりとか」

「なるほどな。だが、普通の風呂だとそこまでしないだろ」

「ふっふっふ、分かってないねギル兄ちゃん……。温泉は一筋縄ではいかないんだよ」

「む?」


 入った方が話が早いのでさっさと服を脱いでギル兄ちゃんの背中を押して浴場へ。


「おおー。自分たちで作ってた時はあんまり考えてなかったけど、こうやってみるとすげえな」

【うほほ!】


 なんということでしょう。

 夏にはプールだったあの空間が、今では立派な露天風呂に早変わりしたではありませんか……!

 土壁を固めただけのプールは湯舟へと変わり、座って入れる高さにまで上げて湯舟の中はヒノキ風呂へ! ……とはいかなかったけどね。ヒノキがどれか判別がつかないので仕方ないのだ。あるのかな?


 まあそんな感じでタオルを手に、造った手桶で身体を流してからお湯へ浸かる。


【はあ……】

「ふいー……」

「へえ……」

「ほう……」


 ちゃぷん、と静かな浴場に感嘆の声が響く。

 確かな温度がこの温泉を作るときに疲れた体を癒してくれるのが分かる。

 

「いい湯だ……この木の香りがいい感じに脳を刺激するな」

「いいでしょ? ゆっくり浸かるのが温泉なんだよね。火山の天然温泉なら肌に良かったり、疲労回復、ケガに効いたりとか効能があるんだけどこれはファイアリザードの魔石で温めただけだから雰囲気だけだけど」


 ギル兄ちゃんがタオルを目に置いて縁に頭を乗せてポツリと呟く。いつもは烏の行水レベルで早く出てくるのにこれだけのんびりしているのは珍しい。


「こりゃいいな……外の寒さが逆に心地いいし、なにより――」

【月を見ながら湯舟に浸かるのも悪くなかろう】

「だな」


 ロイド兄ちゃんとオオグレさんが空を見上げながらそんなことを言う。確かにキレイな月が見えた。

 オオグレさんはど真ん中に胡坐をかいて鎮座し、頭の上にあるタオルで顔を拭く。


 そんなまったりしている中、隣から大きな声が聞こえてきた。


「わー、ぬくいプールだ!」

「アニーちゃん、走ったら危ないですよ」

「ふふ、これはいいわね。って、今、ウルカちゃん天然温泉なら肌がきれいになるって言わなかったー?」


 聞こえていたのか……! さすがはヴァンパイアロード。


「うん、そうだよー! 温泉のお湯はちょっと違うんだよね」

「昔、入ったことがあるけどそんな効果があったなんてね。この池の水もどこか山と繋がっていないかしら」

「地質で変わるからなにかしらあってもおかしくないと思うけどね」

「よく知ってんなあお前……」

「本で読んだからねー……ふあ、いい湯だ」


 蕩けるロイド兄ちゃんに適当な返事をしつつ顔をうずめる。これはいい感じだ……。後で父さんとかステラにフォルド……ああ、クライトさんを呼んでもいいかもしれないな。リンダさんとか居たら連れてきて欲しいもんである。


 そんなことを考えているとオオグレさんが湯船から上がり椅子に座る。


【どれ、体を洗うでござるかな】

「あ、オオグレさん、背中流すよ」

【おお、これはかたじけない】


 石鹸を使いタオルで骨を磨くと……


「汚っ!? オオグレさんめちゃくちゃ汚れているよ!」

【なんと? ……おおっ!?】

「うわあ、タオルが真っ黒だな。よし、稽古のお礼だいっちょぴかぴかにしてやろうぜ!」

「だな」

【あ、ちょ、そんないっぺんに! うははははは! くすぐったいでござる!】

「ええー……感覚もあるの……?」


 この骨は一体どうなっているのか。

 いや、ほんと不思議なんだよね。ゼオラよりもおかしな感じで動いているし。


 そして僕と兄ちゃんズで磨きに磨いてあげると、真っ白な骨になった。


「今度はキレイすぎる」

「うん、まあいいんじゃない汚いより」

【体が軽くなったでござる……!!】

【あたしも入りてえなあ】


 ゼオラが顔だけにゅっと壁からだして不服そうに口を尖らせていた。こればかりはねえ。


「こけー……」

「お、どうしたジェニファー? アニーと一緒じゃなかったのか?」


 ジェニファーは桶の中に身を隠すように入ると、その瞬間アニーの声が聞こえてくる。


「シルヴァとタイガ、洗ってあげる!」

「わふわふ!?」

「にゃーん!?」

「ああ、ダメよそんなに乱暴に洗ったら」


 ああ、逃げてきたのかと僕は苦笑する。

 とりあえずシルヴァ達には悪いけど、今日はお風呂を堪能させてもらうか。風呂上がりのミルクを飲ませてやるから我慢してくれよ?

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