第七十五話 凄腕骸骨剣士というもの
「変なスケルトンが出た?」
「うん。なんか学校で無くなったって言われていた標本らしいんだけど……」
「めちゃくちゃ動くんだよ!」
アニーがステラの頭にタオルを乗せてから興奮気味でオオグレさんの動きを真似する。フォルドも青い顔でこくこくと頷く。
僕達は早速屋敷に戻り、くつろいでいた母さんに報告。
「危険は無さそうだけど一度見ておこうかしら?」
「そうして欲しいかも。というかどういう処遇をするべきか悩むんだよね」
「アンデッド……なのかしら?」
一応、自分の骨だと言っているから標本ではなかったということになる。学校があれをどこから持って来たのかという疑問が出てくるけどそれは後回しでいい。
ステラをバスレさんに任せて今度は母さんを連れて再び池へと戻る。
旧秘密基地の扉を叩くとさっきみた骸骨が顔を覗かせてくる。
【おお、戻られたかウルカ殿! 拙者、暗いところが苦手だから心細いでござる】
「……これ?」
「うん」
扉から外へ出てくると、流れるはずのない額の汗を拭う仕草をしながら陽の下へ。この時点で色々とおかしいけど、アンデッドではなければそれこそ骨格標本ではないかな?
「で、あなたがオオグレというスケルトンなのね?」
【左様でござる美しい人。ウルカ殿のお姉さんでござるか?】
「母よ。口は上手いみたいだけど、結局どうしたいのかしら?」
【母!? 若い……。こほん。無論、この姿で普通に生活するのが無理なのは承知しております。しかし自害するにも方法は分からず、そもそも死ねるのかという……】
実はこの姿を池で見た時に絶望をしたようだ。しかし、魔物と戦ってもいったん体がバラバラになったとしても元に戻るとのこと。
「なるほどね。ちょっと特殊な個体かしら? 死なない不死身の兵隊……護衛……」
「母さん?」
「どこからお声が出てるのー?」
【よくわからんでござる】
「アニーは強いねえ」
母さんがなにやらぶつぶつ言っている中、アニーは後ろ頭を掻くオオグレさんの左手をぶらぶらさせながら興味深い質問を投げかけていた。もう怖くないんだろうなあ。
「よし。ではこうしましょう、ゼオラさんと同じくウルカちゃんの護衛に任命します。影に隠れたりとかできないのかしら?」
【むう……拙者、剣以外のことはからきしでござる】
「そっか。それじゃあ修業は必要ね。ウルカちゃん、お庭に隠れ家みたいなものを作れるかしら?」
「え? それはいいけど護衛にするの?」
僕が尋ねると母さんが微笑みながら頷く。
「ええ。ただ前に立ってガードしてくれるだけでも良かったんだけど、剣が使えるならなおのことね。後はシャドウゲイトを覚えてもらえれば影の中で潜むことも可能よ」
【かっこいいでござる! 是非に!】
どうやら闇の眷属だけにできる魔法があるらしい。ゼオラはゴーストなのでできないようだけどヴァンパイア達に伝わる秘術的な魔法みたいだ。
【では、拙者はいつか朽ちる……もしくは自分のことが分かるまでウルカ殿を守ると誓いますぞ。……その前に】
「その前に?」
【服を用意して欲しいでござる……!】
「ああ、そうだった! それじゃどういう服を――」
と、持って来た布で作るためデザインを聞いてみると時代劇の浪人みたいな服を頼まれた。
「これでいい? サイズは合っていると思うけど」
【素晴らしいでござる! では早速……】
「ホネホネ人間が服を着てるの変かも!」
「ドストレート!? アニー、こ、怖くねえの?」
「さっきはびっくりしたけど、オオグレさんはいい骨だよー?」
【嬉しいでござる】
フォルドの言葉に首を傾げる。それは性格か硬さか? はたまたカルシウムたっぷりなのか? それはわからないけどアニーはオオグレさんを気に入ったらしい。
【まあこれからよろしくなオオグレ】
【よろしくお願いするでござるゼオラ殿。それにしてもなぜ拙者は復活したのやら……】
【あたしもよくわからねえんだよな。ま、気楽にやっていこうぜ。ウルカは面白いし周りもいい奴らが多いからな。とりあえず今日は修行も終わりだ】
「えー、もっとやりたかったな」
フォルドが口を尖らせるけどステラも屋敷に置いてきたままなのでおやつでも食べて休憩になった。
帰り道、ふと気になったことをオオグレさんへ尋ねる僕。
「そういえば剣以外のことはって言ってたけど、剣士なの?」
【うむ、拙者が東方の剣士である『武雷』だったを覚えているので間違いないでござる】
「ぶらい?」
【剣を使う者をそういうのでござる。……しかし武器は手元にないので証明はできないでござるが】
「こっちの剣で良ければロイド兄ちゃんの剣があるけど」
【やってみるでござるかー】
「ござるー!」
カラカラと笑うオオグレさんとアニー。武雷って侍みたいなものなのかな?
そんな感じでオオグレさんの処遇はウチに住み込み、僕の護衛をするための魔法を覚えてもらうことで決まった。それまで屋敷から出ないようにと言いつけしている。
さすがに骸骨がウロウロするのは問題があるか。
そしてアニーとフォルド、ステラを送った後、入れ替わりに兄ちゃんズが帰ってくると――
「こ、こいつ、生物学室のじゃ……!?」
「お、おお……動いている……」
「私、最初見た時に気絶しましたよ」
「ごめんよバスレさん」
【いやあ、はっはっは! がっこうというところにはもう戻りたくないでござる!】
やはりというか驚きを隠せなかった。
しかし冷静に考えると内臓もないし脳も無い。声帯もないのによく動いているよね……。アニーが興味を持つのは分かる気もする。
「で、剣士なんだって? こんだけ動いて喋ってたら怖くねえし、アンデッドとの戦いを想定していっちょ手合わせしてくれねえか?」
【構わんでござる。……が、ブランクがあるのでお眼鏡にかなうか】
「いいってやろうぜ!」
そんな中、剣士と聞いてロイド兄ちゃんが嬉々としてそんなことを言い出し庭で模擬戦となった。
お祭りの戦いでロイド兄ちゃんの強さはだいたい分かっている。さて、オオグレさんはどうだ?
「行くぜ」
【参る!】
始まった瞬間、ロイド兄ちゃんが踏み込み、縦の斬撃がオオグレさんの左肩を狙う。
それを見切ったオオグレさんは少し体を逸らすだけで回避すると、右手に持っていた剣をすくい上げるようにロイド兄ちゃんの顎へと振る。
「うお……!?」
【いい身体能力でござる!】
「つーかあの一撃を避けるのかよ……! へっ、おもしれえ!」
お互いの初撃はヒットなし。そこでロイド兄ちゃんに火が付いたのか一気に攻めたてにいく。
【よっ、ほっ! ほほう、ロイド殿は筋が良い】
「ありがとよ!」
【しかし、まだ力任せでござるな。……そこ!】
鋭い斬撃を繰り出すロイド兄ちゃんに防戦一方かと思われたオオグレさんだが、一声上げたと同時に剣を弾く。
「なに!?」
【腕の力だけで振り回しておるから軸がぶれるともろいのでござるよ。ハァ!】
「ぐあ!?」
「おお!」
「ロイドが負けたか……!? まさか!?」
【一本、というところでござるかな】
そう言いながら剣を腰に差そうとするオオグレさん。あの動作……もしかして刀もあるのかな……?
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