第七十六話 不死(の仲間)と金運と、というようなもの


「うえー……全然勝てる気がしねえ……」


 お祭りの時にロイド兄ちゃんの強さは知っていた。冒険者ともひけを取らない強さであることも。

 それでも、実は3回勝負だと言い出した格好悪いロイド兄ちゃんがオオグレさんに勝つことはできなかった。


「ふうん、やるわね。ウルカちゃんの護衛として合格ってところね」

「ちぇ、まさかここまでとは思わなかったぜ。オレにも教えてくれよ」


 母さんが絶賛し、肩で息をしながらロイド兄ちゃんがオオグレさんに声をかける。

 するとオオグレさんは手のひらを前に出して首を振る。


【いや、手合わせには応じるでござるが、技は教えない方が良いでござろう。拙者の剣術は特殊ゆえ、ロイド殿はロイド殿の剣を覚えた方が】

「む……それもそうか。だけど体捌きとか足の使い方は参考にさせてもらうぜ」

【そのくらいなら大丈夫でござろう】


 と、すごくそれっぽい会話をしながら笑う。いつ死んだのかとなんでここに骨があったのかが気になるなあ。ゼオラみたいに実は凄かったりするんだろうか?


「ロイド兄ちゃんが勝てないなんてオオグレさんは凄いんだ? なにか強い魔物を倒したことがある、とか?」

【ふうむ、どうだったでござるかな……。ほら、もう頭の中身も無いでござるし】

「冗談にしても笑えないぞ」


 ギル兄ちゃんがジト目でオオグレさんを見ながら口を開く。死んでいて急に目覚めたのに割と明るいよね……。

 そこでずっと見守っていた父さんが手を叩いて言う。


「う、うむ、最初は驚いたが意思疎通ができるならまあいいだろう。この町は平和だから剣を振るうことは少ないかもしれないが、とりあえず今後は屋敷に住むことを許可しよう」

【ありがたき幸せ】

【あたしと違って離れられるのはでかいよな】

「ってゼオラが言ってる」


 その言葉に母さんが『姿がこれだから歩き回れないけど』と笑っていた。夜とかに遭遇したら恐怖だし、むしろ退治されそうな勢いだ。


 そんな感じで話は進み、僕はクリエイトの魔法でオオグレさんの小屋を屋敷から少し離れたところに作成することに。

 ロイド兄ちゃんはもう少し戦いたそうだったけど。


「さて、この辺でいいかな」

【あの隠れ家のようなものから小さくて構わないでござるよ】

「……誰も居なくなったから言うけど、僕は別の世界からやってきた存在なんだ。話を聞いていると、もしかしたらオオグレさんの故郷と似ているんだよね」

【は? 別世界……?】


 空洞になっている目の部分が大きく見開かれたような気がするほど間の抜けた声を出すオオグレさん。彼が僕と一緒にいるということであれば経緯を話すことが必要だと感じたから。

 まあオオグレさんが話せる相手は家族だけだし、口止めをしておけば問題ないだろう。


【はえー、そんなことがあるのでござるなあ。拙者やゼオラ殿はこんな姿なのに、死んだ後に別の人生を歩めるとはウルカ殿は凄いでござるな】

「たまたまだけどね。女神……だったのかわからないけどユキさんのおかげだし。というわけで、いくつか質問したんだけどいいかな?」

【なんでもこいでござる!】

【おう、胸を叩いた衝撃で肋骨が落ちたぞ】


 というわけで日本と東明照の国の相違をすり合わせてみることに。

 わかったことは江戸末期から明治初期くらいの世界観で、着物もあるし洋服もある。畳もあるし、障子なんかも。それとオオグレさんが使っていたものは刀に似た武器である明照剣というものらしい。

 反りがあるので刀に近いし納刀するための鞘もだいたい同じ。居合いというものは無いようで説明すると驚いていた。


【面白いでござるな……! では部屋を東明照風にお願いしたいでござる】

「オッケー」


 そこから材料を持って来てそれっぽい小屋が完成する。イ草がないから畳っぽいのしかできなかったけど、囲炉裏や布団はきちんとできた気がする。


【いい……実にいいでござる!】

【布団……要るのか? 囲炉裏、だっけ? お前って熱いとか寒いとか感じないだろ? あたしも触れるけど温度は分からないんだ】

【雰囲気でござるよ。復活して心細い拙者には必要でござる……】

【骨のくせに】

「あはは」


 ともあれ木でできた小屋に日本風の内装を施し満足の行く出来となった。ゲーミングチェアとかは似合わないけど、日本の物を作っておくにはいいかもしれない。

 

 それにしても――


「なんかアンデッド系ばかり集まってくるなあ……」

【まあヴァンパイアハーフだからってのもあるだろうな。ウルカの母親はアンデッド方面に力が強そうだし】

「なるほど……。いや、元々、この世界に来るときに死なない体が欲しくてリッチにしてくれって頼んだんだよ。そしたらお金持ちの能力だったんだ」

【リッチ……不死の王か。金持ちと間違いでここへ来たって感じもするが、そう言われるとあたし達みたいなのが集まっているのは少し名残があるんじゃないか?】


 ゼオラがやれやれと口をへの字にして言う。

 確かにお金持ちのリッチも不死の王であるリッチも今はありそうな気がする。中途半端ではあるけど。

 なぜなら僕自身は不死じゃないし、お金も自分で色々開発して増えたからね。

 

 かといってそうであるかどうかの確認はすでに出来ないしなるようになるかと思うしかない。

 割と魔力量はあるし不死の軍団を……


「いや、無理か。ステラとかアニーが怖がりそうだ」

【どうした?】

「いやなんでもないよ。あ、僕はまだ剣術を習ってないからオオグレさんの剣を教えてもらってもいいかな? フォルドも冒険者志望だし一緒に覚えるのもいいかも」

【ふむ。型がまだ無いなら構わぬでござるぞ。魔法使いではござらんのか?】

【両方使えた方が強いからいいんじゃねえか? あたしの方は魔力量の問題もあるし】

【左様か。であればシャドウゲイトなるものの修行をする合間にやってみるでござるか】

「やった」


 魔法もいいけど剣も使えるとカッコいい。転生者ってこういうのに憧れるものなのだ。


 ということで屋敷にまた不思議なお客さんが増えるのだった。


 ◆ ◇ ◆



「また変なのが増えたねママ……」

「ウルカちゃんはヴァンパイアハーフだし、私もヴァンパイアロード。もしかしたら自然と引き寄せられるのかもしれないわ。害がないから問題はないと思うけど」

「母さんがそう言うなら大丈夫か? それにしてもウルカばかり巻き込まれている気がするな」


 屋敷に戻ったガイアス家の四人がリビングでオオグレの話をしていた。危惧するべきことは害があるかどうか? しかしアンデッドを仕切ることができるクラウディアが問題ないと言ったためひとまずは安堵する。


「ま、おもしれえことは確かだ。あのスケルトン、マジで強いぞ。真面目にやりゃリンダさんと互角と見た」

「あれで手加減を?」

「ああ。ま、ウルカはこれからも色々起こしそうだし、護衛はいいと思ったぜ」

「ふむ、勉学もできるし将来はどうするかなあ……」

「まだ早いわよ! 可愛いウルカちゃんを手放すなんて嫌ですからね!」


 結局、家族バカ会議になっていかにウルカが凄いか、可愛いかという話で終わる。

 

 そして少しだけ月日が流れ――

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