第七十四話 異国の骸骨というもの


「うわああ!?」

「やー!!」

「……」

【ま、待って欲しいでござる! どうして逃げるでござるか!?】

「なんで追ってくるんだよ……!」


 旧秘密基地を脱出して池のある広場へと戻る僕達。ステラが意識を失ったので一旦落ち着いてもう一度行こうと思ったら骸骨が追いかけてきた!


「がうううう!」

「こけー!」

「ふしゃぁぁぁ!」

【ほほう、これは愛らしい動物達でござるな! ……ぎゃぁぁぁぁ!?】

【ストップだウルカ。あいつらがやってくれたぞ】

「え?」


 僕達を庇うように後をついて来ていたハリヤーの陰から覗くと、骸骨はシルヴァに足を噛まれて転び、タイガとジェニファーがその上に乗っかっていた。


【せ、拙者は怪しいものではござらん! 何卒弁解のチャンスを……!!】

「ふうむ」


 どうみても怪しさ大爆発なんだけど……。

 しかしゼオラと一緒で言葉は通じそうだなあ。必死だし話くらいは聞いてあげようか。


「フォルド、アニー。ステラをお願い」

「え!? お、お前なにをするつもりだ?」

「ホネホネ人間は怖いのー」

「大丈夫だよ、多分。ゼオラも居るし」

【任せとけって】


 そういってゼオラが二人の頭に手を置いてにこっと笑い、フォルドが息を飲む中、僕は骸骨へ向かって声をかけながら歩き出す。


「僕の名前はウルカティヌス。みんなはウルカと呼んでいるよ。あなたは何者なのかな?」

【おお、話を聞いてくれるか! かたじけない。拙者、名をアカシ・オオグレと申す者。この地ではないところから来た】


 あれ? 随分日本人ぽい名前の骸骨だ。


「ん? もしかして地元だとオオグレ・アカシだったりする?」

【そうでござる。ウルカ殿は東明照の国を知っておるのか? 小さいのに】

「小さいは余計だけど、本で見た気がする」


 というのは嘘でカマをかけてみただけだけど。

 でも『そういう地域がある』のは間違いないようだ。とりあえず身元が少しわかったので状況をもうちょっと聞いてみよう。


「それでオオグレさんは骨格標本に憑りついた幽霊かな?」

【幽霊ではござらん。この体は拙者のものなのでどちらかと言えばゾンビでござるか?】

「知らないけど……。でも学校に立ってたじゃない? あの時、僕達は間違いなくオオグレさんを見たよ」

【それでござる。拙者、あの時に何者かから触られてびびっと来たのでござる。意識が覚醒したといった感じですな。そこで動けることに気付いたのでござるよ】


 となると、あの時いたずらでゼオラが触ったからそうなったのか? 僕も触ったっけ?


【あたしのせいか】

【これは美人な方でござるな……! 誰が触ったかわからぬが、魔力の跡を辿って来た結果ここまでなんとかこれたでござるよ】


 なんでも森の中を彷徨っていたそうだ。学校までそんなに遠くないんだけど迷子だったらしい。方向音痴か。


「方向音痴か……」

【ちが……違うでござる! ちょっと目的地がわからなくなっただけでござるもの】

「それを方向音痴というんだって。それにしてもどうするかなあ」

【仲間にいれてやればいいんじゃないか?】

「流石に骸骨は……。あの世にはいかないの?」


 僕がそう尋ねると、オオグレさんは倒れこんだまま首を振る。どうしてこうなったのかがそもそも分からないらしい。

 どうして死んだのか? いつ? どこで? ……覚えているのは名前と国くらいなものだそうだ。


【無理を承知でお願いしたい。そこの寝床でも構わぬので置いてもらえないだろうか? いつか拙者のことが分かれば土へ還れると思うのでござるよ】

「学校で立ってたら?」

【嫌でござる……!】


 身動き取れないのが苦痛だし暇だという。それに自分のことを探しにいけないとのこと。我儘な……と思うけど、まあ言いたいことはわかる。


「とりあえず僕だけじゃ決められないから両親にも聞いてみるよ。その間、そこを使っていいよ。僕が作った基地だし」

【かたじけない……!! かたじけないついでにお願いがあるのでござるが……】

「ん?」

【そろそろこの動物たちをとってくださらぬか……? 犬に至っては拙者の足に涎をべとべとにつけているでござる。あ、それとなにか服を……】


 我儘だった。

 シルヴァは骨をしゃぶるのが気に入ったのかうっとりとした顔で甘噛みしている。 

 危害を加えることは無さそうなので動物達をこちらに呼び寄せる。


「服は布が必要だから屋敷に戻ってくるよ。それまで基地の中で待っていて」

【承知したでござる】

「くぅ~ん……」

「骨はまた買ってやるからいくぞシルヴァ」


 名残惜しそうなシルヴァの背中にジェニファーとタイガを置いてフォルドのところへ戻る。


「お、お前ホントすげえな……」

「まあゼオラも居るし、最悪フォルド達に助けを呼んでもらう予定だったから」

「そ、そうか! へへ、なんかあったら俺に任せろよ親友!」

「急にどうしたんだい? それじゃ一旦屋敷へ戻ろうか。母さんを呼んでこないとね。ステラも休ませたいし」


 そう言って僕達は屋敷へと戻ることにする。

 それにしても東明照の国か……小説みたいに味噌、醤油があるかな?

 米はあるんだけど、日本の調味料は独特だからね。もしあるなら新しい料理にチャレンジしてもいいかもしれない。


 そして母さんに話をする。

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