第七十三話 身近なところに潜伏しているというもの
ゼオラの魔法修行が始まって早四日が経過した。
最初は地味な落ち葉集めを嫌がっていたが、僕が競争を提案するとフォルドはやる気になった。子供はこういうのが分かりやすくていい。
「わおーん」
「これは楽でいいですね」
おかげで庭はいつもキレイになり、大きい石なども魔法で転がして芝生を整備することで動物達ものびのびと走り回っていた。
今日は風魔法の応用をするということでゼオラ先生の前に並んでいた。
【なかなかいい感じになってきたぞ。それで家のお手伝いもすること】
「「「はーい」」」
【で、次は指先から出している魔法を手のひらから出してみろ。例えば……フォルドは冒険者志望だったな】
「は、はい!」
【地味な魔法だと思ったかもしれないが、意外と冒険者でも使い道はあるんだ。ウルカ、ちょっと】
ゼオラに呼ばれて近づくと耳打ちをされてかくかくしかじかされた。なるほどと僕は感心して、フォルド達の前で実践をすることに。
「多分、これを使っている人もいると思うけど慣れると色々できるようになるかもね」
「そうなのか? やってみてくれよ!」
フォルドの目が輝き拳を握る。
純粋だなと思いながら、僕は駆け出す体勢を取ってから左手を後ろに突き出す。直後、
「おお……!」
「さって動いたのー」
風が僕の身体を勢いよく前へ進ませ、一足で5メートルほど離れていたハリヤーの下へ到着。
見る状況によっては瞬間移動したようにも見えるかもしれない。
「凄いわ。さすがは私のウルカ君」
「ステラちゃんだけのじゃないよー」
「んなことより、なるほどな! 風を使えば走るより速く動けるってことか」
【ってことだ。逆に相手へ向けて放てば、殺傷せずに追い返すことができる。対人間でも魔物でも使える技術だぞ】
「さっしょう?」
【斬ったり刺したり殺したりしないでってことだ】
「……! う、うん」
なぜこれを使うのか? というのと、相手を傷つけるのが冒険者だから覚悟するんだという知識を同時に入れ込んでいくゼオラ。
五歳の子供にとも思うが、むしろこのくらいからそれが分かっていれば『攻撃する』ということがどういうことを招くのかが分かると思ったのだろう。
魔法を覚えることで増長し乱暴者にならないようにという気遣いかな?
「分かってる。自分から叩いたりしないよ! よーし、俺も!」
と、フォルドが気合いを入れて魔法を使うも五十センチくらいしか移動できなかった。
「こけーっこっこ!」
「笑うんじゃねえジェニファー! お、おかしいな……」
【わっはっは! ウルカは種族もあるしクリエイトを散々使っているから魔力量は比べ物にならないぞ。だけど落ち葉集めをしていなかったらその距離も動かせなかった。四日でそれだけできればフォルドは十分だ】
「そ、そうなのか? くっそー! すぐ追いついてやる!」
子供の扱いが上手いなあ。
ステラとアニーは遊びの延長だと思っているのでそこまで重く考えていないようで、
「ちょっと動いた!」
「あら、フォルドより魔力が高いみたい」
とマイペースでやっていた。
なんとなくアニーは遊び感覚でやらせた方が伸びる気がするので僕はジェニファーを呼んで
「こけ!? ……こけー♪」
「あ、いいなー! アニーもやっていい?」
持ち上げたジェニファーを
その様子が気に入ったようでアニーがやりたいと手を上げて僕のところへ走って来た。
「よーし、いくよジェニファー!」
「こけ!」
「あ」
ステラが一言呟いた瞬間、ジェニファーは空高く舞い上がった! あれ、アニーって意外と凄いな!?
「危ない!」
【いや、大丈夫だ。見ろ】
ゼオラが指さすと、ジェニファーは風に乗って滑空しきれいな着地を決めていた。なるほど、ニワトリと言えど羽はあるからかと感心する。
「こけー……」
「ごめんね、飛ばしすぎちゃった」
「こけ」
『ふうー……』と雌鶏のくせに男前なため息を吐くジェニファーは怒ったりしていないようだ。
「うおお、少し伸びたぁぁぁ!」
「シルヴァ、涼しい?」
「うおふ」
【あっはっは、いいぞー。とにかく一つの魔法に慣れることが大事だからな】
「必殺ジェニファーアタック!」
「こけー!」
それぞれ思い思いの方法で魔法を使いお腹が空くまでそれを続けた。バスレさんが羨ましそうに見ていたけど僕が教えてもいいかも?
そして昼食をウチで食べてから僕達は池へと向かう。
昼からは普通に遊ぶ……のではなくて、どうも算術などの勉強の時間をするらしい。
「学校に行き出してからでもいいんじゃないの?」
【算術は魔法を使うのにあると便利だからな。簡単なものでも知っているのと知らないのとでは差がある。それにフォルドが女の子にいいところを見せられるのは力だけじゃない】
「ああ、そうね。賢いのは女の子から見てかっこいいかも」
「マジか……! 師匠、やろうぜ!」
「あはは、やる気があるのはいいね。ん?」
やっぱりその子のこと好きなんだなと思いつつ僕とステラが苦笑していると、シルヴァとタイガ、ジェニファーが旧秘密基地の入り口前を見つめて唸っていた。
さらに珍しくハリヤーもなにやら警戒の姿勢を見せている……気がする。
「どうしたんだい?」
「こけ! こけっここけー」
「わんわんわん!」
「にゃあ」
「全然分からないよ……」
しかしシルヴァが中に居たことがあるし、もしかしたらまたなにか居る……?
僕は動物達をかき分けて扉に手をかける。
「わお!? わんわん……!」
「うわあ!? 服を引っ張るなってシルヴァ。その慌て方……中になにか居るんだな?」
「またシルヴァみたいなのがいるかなー?」
アニーが首を傾げるがそれは分からないと返して僕は扉を開ける。
差し込む光が階段を照らし、その奥……僕が階段を一歩降りると同時にゼオラがすぐに背後についてくれた。なにかしらの気配を感じたらしい。
そして――
「……人影? そこに誰かいるのかい?」
【……む、この気配、そなたはあの時の……!!】
「……!?」
男の声。
だけどなんとなく反響音のような声だなと思っていると、奥に座って居た人影がゆっくりと立ち上がり僕達の下へ歩いてきた。
段々と姿が見えてきた瞬間、僕は思わず大きな声を上げた。
「うわあああああ!?」
「どうしたのー? わああああああああ!?」
「うえええええ!?」
「……きゅう」
【な!? どうしたでござるか!?】
それもそのはず……出てきた姿は……まごうこと無き完全な『骨格標本』だったからだ……!?
え、なんで動いて喋っているのさ!?
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