第七十二話 魔法の修行と消えた骨格標本というもの
「いやあ、申し訳ねえウルカ様。ウチのバカ息子が無理言ったみたいで」
「面倒を見てもらっている上に我儘を言ったみたいで本当にすまない」
「ステラちゃんが魔法を覚えるのは賛成だからお願いしたい」
と、翌日の朝に早速フォルド達の親御さんが屋敷を訪ねてきていた。
リビングに通した早々、申し訳ないとフォルドとアニーの親父さんが僕と母さんに頭を下げ、ステラのお父さんであるクライトさんはドヤ顔でお願いしますとのこと。
「私は構わないけれど、ゼオラさんはいいのかしら?」
【問題ないぜ】
母さんが明後日の方向に声をかけると、筆談でゼオラが対応する。
さらにゼオラが文字を走らせ、三人の親へ確認を取る内容を記載した。
【教えはするが、危ない魔法はナシだ。それと魔法を覚えたということを認識すること。で、間違ったことをしていたら叱るべき時はきちんと叱ってくれ】
「むう……なるほど……」
「ゴーストなのにしっかりしているな」
【契約書だ。ちゃんと読んでからサインしてくれ】
「……はは、確かにこれなら抑止力はあるね」
「ん?」
クライトさんがざっと目を通して笑うので僕とステラが覗き込むと、『やくそくをやぶったばあい』のところに今度は本当に僕をどこかへ連れて行くと書かれていた。
「お、俺は大丈夫だ!」
「アニーも! ウルカ君は渡さないもん……」
この前のことを思い出してアニーはちょっと泣きそうだ。ステラは冷静に大丈夫と頷いていた。
【なら契約成立だ。今日から師匠と呼べ!】
「ししょー!」
「お師匠様……!!」
「なんも聞こえねえけどこれで良かったのかいウルカ様?」
「あはは……ま、まあ、飽きたら辞めるんじゃないかなと思うしゼオラは信用できるから様子見しましょう。とりあえず今日から師匠ということで喜んでるみたい」
「すまないな、本当に」
アニーの親父さんがそういうと母さんが大きくなったら貰うからと笑っていた。なにをとは言わなかったけど。
そんな調子で店の準備をするため親御さんたちは屋敷を後にし、僕達だけが残された。
「私も覚えたかった……」
「バスレは見えないから仕方ないわよね。ゼオラさん、よろしくお願いね」
【あたしはこっちだ】
「まあ母さんも見えていないからさ」
相変わらず明後日の方向に声をかける母さんとバスレさんはさておき、魔法訓練は屋敷の庭でのみ行うという制約がついた。
で、覚える魔法は攻撃以外の魔法で火はダメ。10歳になったら解禁されるとのことだけどそれまでに飽きる可能性の方が高いかも?
【よし、それじゃ早速やっていくかー】
「はーい!」
「なにからするの?」
【まずは風魔法からだな。ミズデッポウを使えるから魔力がどういうものかはわかるな?】
「うん!」
保育園の先生と言われても納得するなあと苦笑する僕。
ゼオラって美人だし見た目はバスレさんより少し上くらいだから、『ああ、こういう先生が居そう』だと思う。
で、四人でゼオラを前に風魔法から取得することに。
【それじゃ今度は水じゃなく指先から風を出すように念じて見るんだ】
「指から風はでないよー?」
【それを出すのが魔法使いなんだよアニー。口でふーって息をするだろ? それを指でやってみるんだ】
「わかったっ!」
「ふーって感じか」
【<
「あ、こうね」
言われた通りにやってみると僕は難なく発動させることができた。ステラも発動してそよ風が木々を揺らしていた。
「うーん、ミズデッポウの方が簡単だったな」
「出たかもー!」
【ミズデッポウは目に見えて分かりやすいからな。風は目に見えないし、意識することが大事なんだ】
「いしき?」
【風、絶対、出てるって思うんだ】
「なぜ片言」
と思ったが、やる気に満ちたアニーがバスレさんのスカートを揺らすくらいは出せるようになっていた。
フォルドもコツを掴んでお互いを涼ませるという和やかムードに。するとゼオラが腰に手を当ててから口を開く。
【よし、次はその魔法で落ち葉を集めてくるんだ】
「えー? なんでそんなことをするんだよ」
【口答えはダメだぞフォルド。もう教えないぞ?】
「わ、わかった……」
【わかりました、だ】
「わかりました……!!」
おう、厳しい。昔もこういうことがあったのかもしれない。
庭掃除を兼ねた魔法の訓練ということで、フォルドも大人しく従うことに決めたようだ。
「焼き芋が食べたくなるなあ」
「やきいも?」
「こうやって枯れ葉を集めて焚火をするんだ。その中で芋を焼くと美味しくできるんだよ」
「へえ、美味そうだな」
「ただ、その美味しい芋があるかどうかだから今度探してみよう」
「「「やったぁ」」」
【働いた後の酒は美味いんだよなあ。よし、そろそろ魔力を回復させるため休憩だー】
落ち葉を集めながら喜ぶ三人。そろそろ休憩をしようとゼオラが声をかけてきたその時、道の向こうからロイド兄ちゃんとマリーナさんが走ってくるのが見えた。
「あれ? 学校は?」
「おう、ちょっと用があって戻って来た。とは言ってもお前達を通してしかわからねえんだが……」
「?」
僕達が顔を見合わせて首を傾げているとマリーナさんが言う。
「あのね、お祭りの日に学校へ行ったじゃない? あの時、生物学室の骸骨を見たと思うんだけどあれってゼオラってゴーストが動かしたんだよね?」
【おう。そうだぞ】
「そうだって言ってる。なにかあったの?」
「まあ、簡単に言えばあの骸骨が無くなったらしいんだよ」
「え。でも、あれってゼオラが脅かしただけでアンデッドじゃなかったけど……」
【だなあ。あたしも他の気配はしなかったぞ】
僕とゼオラの見解を伝えるとロイド兄ちゃんは、
「ま、そうだよな。今は兄貴とリカが先生と話をしていてな。学校が始まってからすでに無かったらしく、最後に見たのはオレ達だろうってことで聞き込みをされたってわけ」
「ま、わたし達は持ち出していないから先生は信じてくれているんだけど気持ち悪くてね」
ふうむ、そんなことがあったのか。
とりあえずゼオラがちょっと動かした程度であることを告げると二人はまた学校へ戻って行った。
骨格標本が勝手に動くというのは日本じゃ都市伝説レベルであるけどねえ。
こっちは純粋にアンデッドとして動く可能性がある。けど、あれは模型じゃなかったっけ……?
「魔法やろうウルカくんー」
「ああ、はいはい」
なんとなく後ろ髪を引かれつつも僕は魔法修行へ戻るのだった――
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