第七十一話 ゼオラ先生だというようなもの


 季節は変わり秋と言うべき『紅涼の月』になった。

 兄ちゃんズは夏休みを終えて登校が開始され、昼は少しの残暑を残し、夜はかなり涼しく感じる。

 

 で、今日はプールの水をそろそろ抜かないといけないかなと思い池までやってきていた。


「ありがとうバスレさん。まだハリヤーに一人で乗れないからなあ」

「いいのですよ。ハリヤーもお散歩したいでしょうし」


 近場だけどハリヤーに構ってやるため兄ちゃんズを学校に送った後は連れ出している。

 まあ原因はシルヴァを含む動物達のせいで、どうもいつも僕と一緒に居るのを自慢したのかちょっと暴れた。

 庭にいる時は放し飼いにするようにしているんだけど、ジェニファーとタイガのように屋敷には入れないのできっとそのあたりだろうとゼオラは言う。


【大人になってから受け継げばいいんじゃないか? お前、お金は持っているし代わりの馬を買えば馬車には困らないだろ】

「そうだね。なんか気に入ってくれているし、いつか僕の馬にするよ」


 ゼオラとの会話が聞こえていたのか『きっとですよ?』と言った感じでハリヤーが鳴いた。程なくして池へ到着すると、ちょうどフォルド達もやってきた。


「おおーい!」

「あ、ウルカだ! 遊びに来たぜー!」

「ゼオラちゃんも居るのー」

【おう、ここだぜ】

「こんにちは」


 ハリヤーから降りた僕はすぐにステラとアニーに手を引かれる。いつものメンバーが揃ったけどまずはクリエイトでプールの水を抜くことから始めることにした。


「ちょっと待っててね」

「はーい!」

「おお、相変わらずすげぇな……」

「ゼオラさんが教えたの?」

【そうだぜ。だけど、使えるヤツはほんの一握りの中の一握りの中の一握りだからウルカ自身が凄いんだ】


 ステラの質問にしゃがんで目線を合わせて笑うゼオラ。口は悪いんだけど子供には優しいんだよね。

 アニーは抱き着こうとしてすり抜けるのが面白いのかめちゃくちゃ笑っていた。もう怖がらないんだなあ。

 

 ともあれ早くなにかして遊ぼうと思い僕は池の水をせき止めてからクリエイトを使い近くの川まで流すため側溝を掘り進めていく。

 

「わふわふ」

「こけっ!」

「まてー! あはははは!」


 掘り進める僕についてくる動物達の後をさらに追ってアニー達も歩き出す。すぐに終わるんだけど待っているより行動していた方が楽しいようだ。

 程なくして川と繋げて水を流し切って作業終了。近くとは言っても森の中を十分くらい歩くからそれなりに距離はある。この川はそのまま町に繋がっているけど飲み水じゃないことは調査済みである。

 それじゃ池に戻ろうかと言ったところでフォルドが手を上げて口を開く。


「ゼオラの姉ちゃん、俺も修行すれば魔法を使えるか?」

「お、フォルド?」

「……私も覚えたいかも」

「よくわかんないけどアニーも!」


 なんとゼオラに魔法を教わりたいと言いだした。それにつられてステラとアニーも手を上げて魔法を覚えたいと口にする。

 僕はいいんじゃないかと思ったし、ゼオラも軽く引き受けると思ったんだけど彼女は腕組みをして口をへの字にして難しい顔をしていた。


【ううーん】

「いや、ホントに難しい顔だね!? ちょっと崩壊してない!? というか問題が?」


 僕が尋ねるとゼオラは空中であぐらをかいてから頬杖をつき、子供たちを見渡しながら言う。


【問題はある。教えることじゃなくて、覚えた後のことだ。フォルドとステラが五歳でアニーが四歳だろ? 火魔法で火事を起こしたり、攻撃魔法を人に向けて撃ったりして怪我をさせる可能性を考えると難しい】

「あー……」


 確かにその通りだ。

 まだ幼児の三人に魔法を教えると思わぬ事故やケガを起こすかもしれない。僕は中身が十七歳ということで問題ないし、ミズデッポウを教えた時はそれくらいならと口を出さなかったようだ。


「だ、ダメか……? ウルカはいいのに……」

【ウルカはあたしがずっと憑いているから目を離さないだろ? お前達は家に帰ったらなにをするか分からない。もし誰か死人が出たらあたしは後悔するよ】

「なるほど……」

「アニーは大丈夫だよー?」


 納得するステラと呑気なアニー。

 そこでフォルドが膝をついて拝むようにゼオラへ頼み込みだした。


「頼むよゼオラ姉ちゃん! 絶対に悪いことはしねえから!」

【信じたいけど、なんかあったらウルカのせいになるんだぜ? それは避けたい。学校でようやく教えてもらうのも十歳からだろう? ミズデッポウみたいな危なくないやつをウルカが開発して教えてもらえばいいさ。遊ぶだけなら十分だろ?】


 ゼオラはフォルドの頭を撫でながら困った顔で返していた。見えるのが僕と三人だけなのでゼオラに教えてもらったのであれば僕にも責任が発生する可能性が高い。


「ぐぬう……」

「というかどうしてそんなに魔法を覚えたいんだ?」

「それは……うーん、誰にも言うなよ?」


 そして語りだしたフォルド。

 というかまあ子供らしいというか……。あの祭りの日、踊り子の女の子は親父さんの屋台に串焼きを買いに来ることがたまにある子とのこと。

 で、その子にいいところを見せたいのが一番の理由らしい。


「あいつ踊りが上手いんだ。それを自慢げに語るんだけど、俺には自慢できるものが無いから魔法をって」

「なんと……好きな子の気を引きたいからとは……」

「す、好きじゃねえ! あいつをぎゃふんと言わせるんだ!」

「ぎゃふん」

「あ、シルヴァが変な声出したー。よしよし」


 語彙が気に入ったのかしばらくシルヴァがぎゃふんぎゃふんしている中、僕とゼオラは顔を見合わせて考える。


「どうする? 風か水……土ならまあいいんじゃないかな」

【うーん、あたしも応援はしてやりたいなあ。剣術とかの方がいいんじゃないか?】

「ロイド兄とかマリーナ姉ちゃんが強いけど忙しそうだから……」


 とか話していると気づけば池まで戻って来た。しょんぼりするフォルドがその辺に座り込んで言うとゼオラが少し考えた後にフォルドと目線を合わせて聞く。


【よし。なら攻撃魔法は教えられないけど、女の子にいいところを見せられそうな魔法を教えてやる】

「ほ、本当!?」

【ただし条件がある】

「じ、条件……?」

【ああ。ここにお前の親父さんか母親を連れてこい。筆談で今の話をして両親がオッケーしてくれたら教えてやろう。ステラとアニーも教えて欲しいなら親を連れてくるんだ】

「お、親父か……。わ、分かった! 明日なんとか連れてくるよ!」

「私もパパを連れてこようっと」

「アニーはママが来てくれるかなあ?」

「僕には分からないけど、魔法を覚えたいって言うんだよ?」

「うんー!」


 ゼオラは先生のような口調で三人に宿題を出した。

 親を巻き込んでダメと言われればそこは諦めざるを得ないし、教えることになっても簡単な魔法であれば問題ないと考えたか?


 とりあえず今日のところは僕の作った竹馬(竹は無いけど)らしき遊具で一日を過ごすのだった。

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