第六十八話 決意をするというもの


「ただいまー!」

「おかえりウルカちゃん! 遅かったわね?」

「ちょっと色々あって。ステラやアニーが屋敷に来てたんだ」

「こけー」

「にゃーん」


 観覧席へ戻った僕に母さんが声をかけてくれる。とりあえず起こったことについては後でいいかな。

 そのまま僕はエリナ様とデオドラ様に持って来たプレゼントを手渡すことにした。


「戻りました。材料を取ってこようと思ったんですけど作ってきたのでお受け取りください」

「まあ、もう作ってきたの? これは蓋のついたコップ?」

「はい。あまり温度に変化が出ないコップなんです。使ってみますか?」


 おしゃれなグラスのような形をしたコップを手に首を傾げるエリナ様が微笑みながら頷いたので氷を入れてお酒を注ぐ。そのまま蓋をしてもらいしばらく待ってもらうことに。


「……確かになかなか氷が溶けませんわね。夜とはいえ灼華の月で暑いのは変わらないのに」

「温かいものもしばらく温かいまま保てます。ちょっとゲーミングチェアと違ってインパクトは弱いですけど、面白いかと思いまして」

「うふふ、急な申し出だったのにきちんと面白いものを作ってきてくれましたのね。ありがとうございますウルカちゃん♪ 五歳とは思えない感性ですわ」


 エリナ様は喜んでくれたようだ。

 僕はお辞儀をした後、デオドラ様へ持っていたぬいぐるみを渡す。


「わあ、みんなのぬいぐるみ……!」

「うおふ」

「こけー♪」

「ウチの動物達を気に入ってくれたみたいだからこれがいいかなって」


 今日一番の笑顔を見せてくれたなとほっこりする。やはり動物は癒しなのだ。

 シルヴァのぬいぐるみは大きめに作ったけど見るなり抱き着いていたのは嬉しい。


「大きいけど……怖くない……シルヴァ、可愛い」

「わふわふ」

「ジェニファーちゃんもふかふか……タイガちゃんは……伸びてる?」

「にゃ~ん♪」

「こいつ最近怠けているんだよね」


 もう野良猫の面影はどこにもない茶トラ猫はそれが誇らしいとばかりに長く鳴く。ただ、何気に暇なときはシルヴァやジェニファーと訓練をしていることがあるのを見たことがある。努力を見せないタイプなのだろうか?


「ありがとうウルカちゃん……大切にするね……!」

「はい!」

【少し表情が柔らかくなったな。良かったじゃないか】


 ゼオラが僕の頭に手を乗せて笑ってくれた。お兄さんのことは気になるけど、エリナ様がなんとかしてくれることを祈ろう。

 

「さ、踊り子たちのダンスが始まるわよ。料理も追加したからゆっくりしましょう」

「はーい。あ、さっきの子だ」

「知っている子?」

「ううん。フォルドに手を振っていたんだけど、それで何故かフォルドが怒ってたんだ」

「へえー?」


 母さんがにやにやしながらその子を見ていた。

 フォルド達は知らない子だといっていたからこの町の子ではないらしい。

 

「ま、今度聞いてみようっと」

【ウルカも自分のこと以外には鈍感なのかねえ】

「え、なに?」

【なんでもねえよ。あたしも着替えてみるか】


 そう言って浴衣に変身したゼオラが観覧席の縁に立って踊りを見始めた。

 お祭りやエリナ様の来訪で後回しになっていたけどゼオラのこと、調べた方がいいかなあ。


 そんなことを考えながらデオドラ様と一緒に踊りを見て今日のお祭りは終了。巡回は巡回で楽しかったけどのんびりするのも悪くない。

 だけどステラ達とも過ごしたかったなとも思うし、デオドラ様に紹介したらもっと楽しかったんじゃないかな。

 次はそのあたりも踏まえてスケジュールを組みたい。

 

 ただ、今回の初回で町の人がどう思ったかの意見を集めて開催可能かどうかなど次回以降の判断材料をまた集会場で話し合いをしないといけないけどね。


「世話になりましたねクラウディア様。今度は城へいらっしゃいな」

「機会があれば是非」

「また遊ぼう、ね……」

「またお会いしましょう」


 そして翌日。

 エリナ様とデオドラ様はウチに宿泊し、早朝に王都へ戻っていった。王都へ行くかはわからないけどお二人と握手をして見送った。


「ぬいぐるみ気に入っていたわね」

「良かったよ。というか兄ちゃん達を怖がっていたのは申し訳ないけど面白かった」

「やめてくれウルカ。城に仕えるようになってそれが話のネタになったら困るぜ」


 騎士達と馬車が見えなくなったところでロイド兄ちゃんが落ち込んでいたので腰をポンポンと叩きながら軽口を言い合う。

 そのままリビングへと戻ると父さんが首を鳴らしながら僕達へ声をかけてきた。


「さて、それじゃ今日が最終日だ。ウルカ達は今日も巡回か……遊んでていいんだよ? 昨日はエリナ様とデオドラ様の相手をして大変だったろうし」

「僕が言い出したことだからそれは気にしないでいいよ父さん。それより今みんな揃っているから話したいことがあるんだけど……」

「どうしたのウルカちゃん? なにか新しいことでも思いついたの?」


 母さんが神妙に話を始める僕に首を傾げる。

 だけど今から話すことは重要で、家族がどういう反応を示すか分からない。

 もしかしたら気持ち悪いと放逐されるかもしれないけど、三人とバスレさんにバレた以上、隠し通せる気もしないし。


「どうしたウルカ? 話しにくいことか?」

「うーん、それはそうなんだけど……今後に関わるから言わないわけにもって感じかな」

「気になるな……ただウルカが何を言っても私たちは味方だよ?」


 父さんがありがたいことを言ってくれ僕は決意する。


「……実は僕に昔の大賢者ゼオラ・ハイマインが憑いているんだ」

「……!」


 その瞬間、みんなの表情が変わる。

 そして――

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