第六十七話 ひとまず保留にするというもの
「ふぐ……」
「良かった。ほんとに良かった」
「ゼオラはちゃんと謝ってね」
【ごめんなさい】
「ウルカの言うことを聞くのか……なあ、姉ちゃんはなんなんだ?」
とりあえず屋敷の庭でみんなが落ち着き、ゼオラが改めて謝罪をする。アニーは泣き止み、ステラも僕とアニーに抱き着いて安堵の息を漏らす。
フォルドがゼオラに尋ねると、ゼオラは苦笑いをしながらフォルドの頭に手を置いて口を開く。
【あたしはゼオラ。ウルカがでかい蛇の魔物に食われそうになったところを助けたんだよ。それから一緒に居るんだよ。もう三か月以上か?】
「え、じゃあずっと俺達と一緒に居たのか!?」
「あー、うん。ごめん、言ってなくて。フォルド達と会った時にはもうゼオラは居たんだ」
「マジか……。あ、すり抜ける」
冷や汗をかきながらもゼオラのお腹に手を通して幽霊ということを確認するフォルド。こういう好奇心が勝っちゃうのというは子供だよねえ。変な虫とかつい触ったりだとか。
「私にはなにも見えないのですが……」
「そうなんだ。あの時一緒に居た兄ちゃんズは見えるのかな? でも、なにも言ってこないしなあ……。あ、それより説明するけど――」
やはりわからないと困惑するバスレさんへ現状を伝えることにする。とはいえ、蛇との遭遇から今まで一緒であったこととゼオラ・ハイマインという昔の賢者であったことを伝える。
バスレさんもゼオラのことは知っていたようで珍しく目を見開いて驚いていた。
「ゼオラ……ということはクリエイトの魔法はその方から教えてもらったのですか」
【あたしはこっちだぞ】
「バスレさん、こっち」
ベタなネタを披露するバスレさんをステラに突っ込まれていた。とりあえずクリエイトはそうであることを伝えると、
「なるほど……。それでもあの魔法を習得するのは大変と聞いています。ウルカ様はやはり才能があるということですね。旦那様と奥様へは言わないのですか?」
「うーん、それなんだよね。僕しか見えないからそんなことを言っておかしな子だと思われても困るなって思ってたからさ。でも三人も見えるなら嘘じゃないってわかるかな?」
以上の理由から両親や兄ちゃんズには言わなかったんだけど、今なら話してもいいかもしれない。
まあクリエイトを自力で会得した魔法じゃないと知ったらがっかりするかもだけど、ゼオラという存在が身近にいることは伝えておきたいとバスレさんを見て思った。
教えてもいいものかと一瞬考えたけど、幽霊は珍しくない世界だしなあ。ただ、気持ち悪いと言われるなら家を出る必要があるかもしれない。
「うん、その時に考えよう。ほら、二人とも苦しいから離れてよ」
「いやあ……」
「怖くなっちゃったんですねアニーちゃん。落ち着くまでそのままにしてあげてくださいウルカ様」
「それがいいかも。ゼオラさんは成仏しないの?」
「やり方が分からないんだって。あ、ちょっと用事があるからみんな屋敷に入ってよ」
「お、おう」
【いやあ、子供たちがあたしを見ることができるとはなあ】
「生きている人みたい」
ゼオラがくっくと笑いながら屋敷に入り、後に続いて僕達も入っていく。とりあえず悪い霊じゃないと分かり話が通じるとなってからステラとフォルドも安心したようで話しかけるようになった。
「なにするのー?」
「えっと、王妃様とお姫様が来ていて母さんと一緒に居るんだよ。その二人にプレゼントをするため材料を取りにきたんだ」
「おひめさま!」
「また女の子が……」
お姫様に憧れでもあるのか嬉しそうなアニー。しかしステラは親指の爪を噛みながらなにやらぶつぶつ言っていた。
「ついて行っていいのか?」
「あの時は国王様がこっちに来たけど、今回は来賓としているから連れていけないかな。また明日、お祭りが始まる前に屋敷に来てよ」
「ん、わかった。もう増やしたらダメ」
「なんのこと!?」
「なにを作るの?」
黒い感情が見えるステラと違い純粋なアニーは可愛いなと思いつつリビングへ。あの羊魔物の綿と布、それと少しの金属と国王様からもらった魔石を持ってくる。
「お姫様は十歳みたいだけど気弱だからこれかな<クリエイト>」
「わあ! シルヴァとジェニファー!」
「あ、分かった? なら良かった」
「可愛いですね」
僕はデオドラ様のために動物達のぬいぐるみを作ることにした。シルヴァ、ジェニファー、タイガとまだ見ぬハリヤーのぬいぐるみだ。
可愛いとアニーとバスレさんが言ってくれたので僕の美的感覚は悪くないらしい。
「十歳……バスレさんより若い……危ない……」
「何か言いました?」
「ううん」
ステラの頬を引っ張りながら尋ねるバスレさん。二人は仲がいいな。
アニーが丸っこいジェニファーのぬいぐるみをふかふかしだしたので、もう一個作っておこう。で、エリナ様には面白いモノを所望されたので、こっちの世界でも通用しそうなアイテムをと考えた結果――
「これでどうだろう?」
【こりゃ……コップか?】
「うん。温度が変わりにくいコップなんだ。冷たいものはある程度は冷たいまま保つことができるんだよ」
「すげえな」
【これに酒を入れていたら冷たいまま飲める……?】
すぐお酒に行くのは良くないよゼオラ?
ゲーミングチェアは狙ってきたからいいけど、今回はあまり大きいものは持って帰れないと踏んでこの大きさだ。
ああ、上手くいっているか確認できたら売りに出してもいいかもしれない。水筒とか冒険者に喜ばれないかな?
「相変わらず凄いですね。ゼオラ様は賢者だと聞いていますが発想はウルカ様ですか?」
「うん。後、そっちにゼオラは居ないよバスレさん」
【やりにくいなあ。でも確かにこれは面白いな。さすがウルカだ】
「これ可愛いータイガ欲しい! お兄ちゃんはジェニファーね。ステラちゃんはシルヴァかな?」
「一人一個ずつなんだ……。ま、すぐ作るけどね。それじゃ母さんを待たせているから戻るよ」
「うんー!」
「おう、俺達も家に帰るかな。リンダおばさんどっか行っちゃったし」
とりあえずプレゼントはこれでいいだろう。
色々あったけどゼオラが他の人にも見えるのはちょっと嬉しかった。
そういえばリンダさんがここへ来なかったのはもしかしたらゼオラが悪い霊じゃないことを知っていたからかもしれない?
そんなやり取りをしながらみんなでお祭りへ戻ると踊りが一旦終わるところだった。
「あ、可愛い服だ」
「踊り子さんも新しい服を作ったからね。へえ、僕達くらいの子も居るんだ」
アニーが声を上げたので少し立ち止まってステージの上に女の子達が並んでいるのを見る。次の音楽に合わせて待機中らしい。
中には小さい子も居て頑張っているなと思う。するとその中の一人が僕達の方を向いてウインクしながら手を振ってくれた。
ツインテールの片方だけあるみたいな髪型で色は青、かな?
「……! い、行こうぜ」
「え? どうしたのさ手を振って返してあげなよ」
「いいから行くぞ」
「ばいばーい!」
急に顔を赤くしたフォルドが肩をいからせて歩き出し、アニーや僕達が代わりに手を振って返すと首を傾げながらも女の子は笑ってくれた。
よく分からないけどとりあえず三人を送り届けてから僕は母さんのところへ戻る。
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