第六十六話 友達はやっぱりいいものだというもの


 「母さん、一度屋敷に戻って材料を取ってきていい?」

 「なにか作るの? そうね……ウオルター」

 「はっ、クラウディア様」

 「うわ!? 居たんだ」


 僕の提案に母さんが指を鳴らすとどこからともなくウオルターさんが現れてお辞儀をする。急に現れたのでちょっとびっくりした。

 ウオルターさんも謎だよね、兄ちゃんズ達とはまた違ってかっこいい。


 「ではウルカ様、一緒に戻りましょうか」

 「うん、ありがとうウオルターさん。でも母さんを護衛していてよ、エリナ様とデオドラ様もいるし」

 「大丈夫?」

 「魔法も使えるし、シルヴァに乗ってサッと行けるよ。バスレさんを乗せていこうかな」

 「やっと出番ですか。もちろんいいですよ」

 「承知しました」


 母さんが心配そうに言うけど、ここの方が警備を厚くしておいた方がいいのは間違いないのでウオルターさんは動かさない方がいい。

 バスレさんなら子供だけよりも安全だと思う。


 「あ、あ……」

 「大丈夫、すぐ戻ってくるよ。ジェニファーとタイガをよろしくお願いしますね」

 「う、うん……待ってる……怖い……」

 「エリナ様がいるから大丈夫ですよ」


 僕がそう言うとエリナ様が微笑み、デオドラ様がドレスの裾を摘まんで頷いてくれた。


 「頼むぞシルヴァ」

 「うおふ!!」

 「私が乗っても大丈夫でしょうか?」

 「うおふ!」


 頼もしい返事だ。バスレさんが乗ると言った時、ちょっとだけ勢いが落ちたけど前みたいに僕が乗って崩れるということは無かった。眷属の力を使ってはいるけどね。

 観覧席の上に居るデオドラ様に手を振ってからシルヴァに合図をすると一声鳴いて加速する。


 「きゃ、なに? 犬?」

 「凄いな。あれ、フォレストウルフじゃないか?」

 「ならあれがウルカ様……?」

 【おー、速い速い♪】

 

 風を感じることもないゼオラが暢気に僕の背中でそんなことを言う。実際、人と人の間をするりと抜けていくシルヴァは最初に会った時のような弱さは感じないね。

 すれ違う人もシルヴァを褒めてくれるので鼻が高い。


 「ウルカ様は凄いですね」

 「そうかな? ……でも確かにクリエイトの魔法が使えるようになってから褒められることが多い気がするから嬉しいかも」


 謙遜するのもいいけど、たまには自分の力を自慢してもいいかもなどと考えているとすぐに屋敷に到着した。


 到着したのだが――


 「あれ?」

 「ステラさんにアニーさん……それとフォルド君も?」

 【んー?】


 ――屋敷の前でいつもの三人が待ち構えていた。


 「どうしたの? 遊べるようになったの? リンダさんは?」

 「ママは家。私達はウルカ君を助けに来た」

 「え? どういうこと」


 真剣な顔で口を引き絞るステラがそんなことを言い困惑する。バスレさんを見ると彼女も首を傾げていた。するとアニーが僕の少し後ろを見ながら険しい顔で言う。


 「ウルカ君に憑りついているゴーストを退治しに来たのー!」

 「え!?」

 【お、そういうことか】

 「喋った……!? お前、ウルカから離れろ!」

 「まさか……フォルド、見えているのかい?」

 「どういうことですか……?」


 僕達のやり取りについていけないバスレさんだが、今は申し訳ないけどスルーさせてもらう。

 僕以外に見えなかったのにどうして……? 暑さではない汗が噴き出す。

 そこでアニーが呆然とする僕をシルヴァから引っ張ってゼオラから引き剥がした。

 

 「あっち行くの! ウルカ君はあげないもん」

 【おお、相変わらず元気がいいな! こりゃなんだ?】

 「せ、聖水だ! き、効いてねえぞステラ……!」

 「ゴーストのくせに生意気。ならこれはどう?」


 ステラが珍しく眉間に皺を寄せて取り出したのは巻物。いわゆるスクロールというやつだろうか? それを広げてゼオラに向けると魔法陣が浮かび上がりそこから光の帯が飛び出した。


 「浄化魔法<ホーリーシャイン>を封じたスクロール。ママからもらったこれなら……!」

 【んー、悪くはねえけどちょっとかゆいくらいだな】

 「嘘……!? 最上級の魔法なのに!」

 

 ゼオラにはまったく効いていない……。多分、悪霊を退治する魔法とかだからかなあ。意識もあるし悪霊じゃないからね。


 「ステラちゃん、アニーがやるよ! これで叩けばいいってステラちゃんママが言ってた!」


 今度はアニーがベルのようなものを持ってゼオラに攻撃を仕掛ける。が、夜空にいい音色を響かせるだけでアニーの突撃はすり抜けてしまった。


 「なんでえー!?」

 「くそ、手ごわい……! 聖水をミズデッポウでかけてやる!」

 【ふふん、当たらないね】

 「速い!?」

 「なにが起こっているのでしょうか……」


 三人は確かに視認しているらしく、聖水ミズデッポウはゼオラに狙いをつけていた。が、ふわふわと動く彼女に当てるのは難しい。

 

 というかいつからなんだろう? 少なくとも最近そんな話は無かったし明るく楽しんでいたはず。リンダさんに相談したのが今日なら……昨日の鏡事件か!?


 そんなことを考えていると三人がゼオラに襲い掛かっていくのが見えた。どうやら僕はかなり心配されていたらしい。特にステラの目に感情があるのは本気だと感じる。

 一通り除霊グッズを使った後、まったく効果が無いことにステラが焦る。


 「そんな……こいつは強力すぎる……」

 【お、どうした終わりか? ならバレたことだしそろそろ行くか】

 「え? ……あ、ウルカ君が!」

 「うわあ」


 ゼオラが僕を抱えてふわりと浮く。

 アニーが慌てて手を伸ばすがあと一歩のところで僕の足を掴み損ねた。


 「ダメ―! 連れて行っちゃ嫌なの!」

 「返しなさい……!」

 「くそくそ! こいつ!」

 「危ないってフォルド!?」


 半泣きで石を投げてきたフォルドがゼオラをすり抜けていく。ぽかーんとなるバスレさんとシルヴァが横目に見える中、ゼオラがくっくと笑い眼下に居る三人へ告げる。


 【見て見ぬふりをしていればこんなことはしなかったんだが、残念だよ。こうなった以上ウルカは連れていく。じゃあな】

 「ああ……高くなって……もう届かねえよ……」

 「くっ……ママが居れば……なんで来れなかったの」

 「嫌あぁぁぁぁ! 連れて行っちゃやああああああああああ!!」

 

 半泣きの二人に大泣きのアニー。

 特にアニーの泣きっぷりは半端なく、慌ててバスレさんが抱きしめるくらいだ。

 そこで僕はハッとなり、悪ふざけをするゼオラに声を上げる。


 「ゼオラ、降ろしてよ。悪霊じゃないって話をしないといけないしアニーが心配だよ」

 【あー、そうだな……ちょっとやりすぎた】


 過呼吸になりそうなくらい泣いているアニーが気になるとすぐに降ろしてもらう。


 「僕は大丈夫だよ」

 「あうう……」

 「ウルカ君」

 「わ!?」


 地上に降りた僕に即抱き着いてくる二人。そして目を見開いていたフォルドが口を開く。


 「だ、大丈夫なのか……? このゴースト」

 「あー、うん。この幽霊はゼオラって言って悪い幽霊じゃないんだ。僕にしか見えないと思っていたんだけど三人には見えるみたいだね」

 【ごめんごめん、ウルカは取ったりしないってアニー】

 「う、うう……連れて行かない?」

 【連れて行かないぜ。むしろ守っているくらいだ】

 「ほんとう……?」

 【ああ】


 ゼオラがそう言って笑いながらアニーの頭を撫でるとしゃっくりをしながら小さく頷いた。


 「ウルカ様、これはいったい……?」


 とりあえずこうなった以上、バスレさんに話す必要があるか。でも家族に話すべきかなあ……。僕は少し考えながら口を開く。



 

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