第六十五話 見知らぬ兄へ嫌悪感というもの


「ふわふわー」

「わん」

「こけ」

「にゃふん」


 さて、デオドラ様は動物に囲まれ、ようやく見た目に違わぬほわほわなオーラを出し始めたので放置になった。

 

 そして始まる武芸大会。


「おお、なんか凄い!」

「ロッドを自在に操るわね」

【格闘は男のマロンだな】

「これ、王都で行ってもいいかもしれませんわね」


 参加者は結構居たけどあれよという間に進んでいった。

 この手の大会は長いので試合自体は割愛させてもらう。

 

 で、変なのが参加しないように参加費はかかると告知したけど結構いて驚いた。参加費はそのまま優勝賞金にプールされるのでそれ目当てだろう。

 ちなみに副賞は父さんが提案した、無理のない範囲で欲しいものを僕が作ってあげるというもの。手持ちの材料でなんとかするのが条件だけど。


「そういえばエリナ様はなにか作って欲しいものがあるんですか?」

「え? ……そうですわね、あの椅子もいいのだけれどわたくしとデオドラに一品ものとして作ってもらえると」

「む、難しいなあ。あ、でもデオドラ様にはなんとなく作れるかも」

「……?」


 シルヴァ達に囲まれたデオドラ様が首を傾げていた。それがなにかを話す前に、母さんがステージを見て声を上げる。


「ウルカちゃん、ロイドの出番よ」

「あ、それは見ないとだね。ごめんなさいエリナ様、この話はまた後で」

「あらお兄さんってウチの子より大きかったかしら」

「もう十五ですよ、以前エリナ様とお会いした時はまだウルカちゃんくらいでしたけども」


 母さん達が笑いながら早いものだと口にする。

 そういえば僕は生まれてからこの意識をもっているけど、母さん達が僕の傍を離れたことが無いことに気付く。

 お散歩はしていたけど必ず一緒だった……あの池の一件以降は目を離すことも多くなったけど。でも子供を心配するのは当然かな?


 それはともかくステージに上がって来たロイド兄ちゃんへ声援を送る。


「ロイド兄ちゃんー、頑張ってー!」

「お、ウルカか! 見てろよ俺の強さを!」

「ぐぬ……クラウディア様の息子か」


 僕と母さんに気付いて手を振るロイド兄ちゃんを見てやりづらいと零す対戦相手。 

 ギルドに出入りしている戦士さんのようで、二人とも得意な武器を模した危なくない得物を持っている。

 そんな対戦相手に母さんが不敵に笑いながら口を開く。


「安心なさい。戦いは非情よ? 例え私の息子でも戦いの場に立つ以上、一人の戦士として見るわ。あなたが勝っても問題は無いのよ」

「そういうと思ってましたがね? クラウディア様の息子二人は良い奴等だから攻撃するのは躊躇っちまうんだよ。他の連中だってそうさ」


 保身のためかと思ったけどどうやら兄ちゃんズを痛めつけるのは申し訳ないって話らしい。そう言ってもらえる兄ちゃんズを誇らしく思っていると、母さんが指を振りながら言う。


「ふふ、あなた方も大概優しいと思うけどね? ま、勝ちを譲るならそれも良いけれど」

「それは出来ねえですな。というわけでロイド、悪いが負けてくれ」

「嫌だね。オレが優勝するんだから」

「さあロイド、やぁっておしま――」


 母さんが言い終わらない内に開始のゴング(僕作成)が鳴り響き戦闘が開始される。


◆ ◇ ◆


「そこまで!」

「ふう、さすがだな」

「くっ……強くなったなロイド……」


 そして戦いは終わった。時間にして十分。もっと長く感じられたけどそれほど白熱していたということだろう。ロイド兄ちゃんがとても強く、戦いは面白かった。

 

【あの足払いは良かったな】

「そうだね」


 ゼオラも満足そうだ。

 エリナ様は「面白い」と評してくれたけど、デオドラ様はこういう荒事に興味はないため青い顔でシルヴァに埋もれていた。


「……殴り合い……怖い……」

「デオドラ様は戦わないから大丈夫だと思うけど」

「どこかの国と戦争になったら戦わないといけない……負けたら捕まって……怖い……」

「どうしてそう思うの?」

「お兄様が……」

「帰ったらルースを鍛えなおしましょう。デオドラはルースに近づいたらダメですわ」

「うう……」


 エリナ様、ガチ切れである。平和なこの国でそうなる可能性はどこにもないというのに妹を脅かすためにそんなことを言うのだ、なんという兄だろう……ちょっと文句を言ってやりたくなった。

 

「国王様達も気づかないくらい隠すのが上手いってことなのかな……?」

「いつも一緒に居ますからね。いえ、一緒に居たがっているという方が正確かしら? ともあれここに来たのは本当に良かったですわ」

「どこかの田舎で一人生活させてみては? ウチの双子は学校でキャンプなどしてましたから鍛えられています」

「そうね……後継者として勉学はしっかりやっていましたが、そういうのも大切かもしれませんわね」


 文句はエリナ様からしてもらえるようで良かった。物語とかでよくあるけど、忙しくて教育係に任せてしまうパターンのようだ。

 国王夫妻も決して暇すぎてここに来ている訳ではないと力説してくれた。熱の入り方がちょっと嘘くさかったけど。


 ふむ……折角だし、そのお兄さんにもなにかプレゼントをしてみるか。ただし、条件をエリナ様につけてもらうような形で。


「お兄様……怒られる? 私の、せい?」

「ううん。そうじゃないですよ、デオドラ様にはいいものを作りますからね」

「うん……」

「わおん!?」

「ああ、ダメですよシルヴァの毛が巻き毛になっちゃう!?」


 と言う感じで武芸大会を見ながらダメ兄ルースの話題で盛り上がった。

 ちなみに武芸大会の優勝はロイド兄ちゃんが……と言いたいところだけど、ベスト8だった。

 年齢的にそれでも十分なんだけど本人は悔しそうだった。マリーナさんも応援しているのが見えてほっこりしたね。

  優勝者は冒険者の人で僕は知らない人で二位はギリアムさん。いつもの甲冑ではなく動きやすそうな装備だった。


 始まりが十三時で今が二十時と結構長かったなあ。

 そういえばステラ達が本当に姿を見せなかった……正直、ちょっと寂しい。

 ちなみにエリナ様達はこのまま次の催しである踊り子たちの催しを観覧するようだ。


 今のうちに屋敷に戻って材料を取ってこようかな?

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