第六十二話 夫婦はやはり似た者同士になるというもの


「ウルカ様、起きてください」

「ううん……もう少しだけ……」

「ダメです。朝食のお時間ですよ。よいしょ」

「うわあ!? なんでベッドにもぐりこもうとしているのさ!?」


 久しぶりにバスレさんが僕と添い寝をしようともぐりこんで来たので慌てて飛び起きる。起こしに来たのにそれではミイラ取りがミイラだ。


「ふあ……仕方ない、起きようっと」

「ちぃ」


 抱き着こうとしてきたバスレさんを回避してベッドから降りて着替えをする。

 とりあえず手伝ってくれているけど僕を見ながら頬を染めるのは止めて欲しいなバスレさん? 元の年齢だとこの子も三つ年下なんだよなあ。

 着替えが終わり、食堂へ行くとご機嫌の父さんと母さんが挨拶をしてくる。


「おはようウルカ! 昨日は大変だったな、ありがとう」

「ウルカちゃん、今日はママと一緒に居れるかしら?」

「おはよう! うーん、今日はアニー達と一緒に遊ぼうかなって思ってるけど、母さん一緒について来てくれる?」

「もちろんよ! うふふ、昨日も楽しかったけど、今日はさらに楽しくなりそうね」


 と、母さんの言う通りお祭り二日目。

 今日は兄ちゃんズも僕も巡回はしないためお祭りを楽しむことができる。父さんも挨拶は昨日終わらせているから自由……ということもなく、今日は父さんが各所を回るらしい。巡回というわけではなく、あくまでも「やっとるかね!」という感じで挨拶をするそう。


「兄ちゃん達はどうするの? 昨日の二人とデート?」

「ぶふぉ!?」

「え、なになに? デート? ウルカちゃん昨日なにがあったの?」

「えっと、二人に彼女が居て一緒に巡回してくれたんだ」


 僕がそう言うと母さんの顔が明るくなった。

 その後、紹介しなさいと母さんに詰め寄られてギル兄ちゃんが「彼女じゃない』と悲鳴を上げ、ロイド兄ちゃんが照れながら昨日の帰りに付き合うことになったと告白。


「やったねマリーナさん」

「良かったんだろうけど、釈然としねえ……。ウルカ、後で剣術の稽古な」

「ええー!? ごちそうさま!」

「あ、待てって!」


 僕はいい仕事をしたと思うんだけどね!?

 優しいロイド兄ちゃんが強制訓練を言いだすとは思わなかった。


「やはり恋は人を変える……?」

【多分違うぞ】

「そうかなあ」


 廊下を走りながらゼオラとそんな話をしつつ部屋へ戻る。

 とりあえず昼過ぎにステラ達を迎えに行こうと思っているのでそれまでは時間がある。


【隠れ家にでも行くか?】

「いや、シルヴァ達と遊んであげるよ。ハリヤーも昨日は連れ出せなかったからブラッシングをしてあげようかな」

【はは、いいなそれ。ふあ……平和だなあ、酒が飲みたい……】

「二言目にはそれだね昨日から」


 一応、僕にちゃんと憑りついてから僕が食事をするとその味は感じられるんだって。幽霊とはどういうものなのか気になるなあ。


「わんわん♪」

「こけー」

「にゃあん」

「相変わらず仲がいいねお前達は。さ、ハリヤーおいで」


 少し食休みをした後、庭で固まってのんびりしていた動物達にご飯を食べさせてあげた。ハリヤーは先にウオルターさんに食事をもらっていたみたいなので動物達の食事を見ながらブラッシングだ。


 まあ、そんな平和な朝だったんだけど、いざ母さんとステラ達を迎えに行った時にはそれががらりと変わる。


「え? ステラは遊べないの?」

「うーん、そうなんだ。今日はアニーとフォルドと一緒に朝からどこかに行っちゃってさ。ウルカ君にはごめんなさいと伝えてくれって。明日の最終日に一緒に遊ぼうって言っていたよ」

「ウルカちゃんと遊ばないのは珍しいわね。というより子供たちだけでお祭りに行かせて良かったの?」

「ああ、今日はリンダが帰っているから任せたんだ。疲れているから休めと言ったんだけどね」

「化け物より化け物だから大丈夫じゃないかしら?」


 リンダさんが連れて行ったらしい。相変わらず母さんは辛辣だ。

 それはともかく約束をしていたのにリンダさんについて行ったのは母さんの言う通り珍しい。ステラはともかくアニーとフォルドは特に珍しい。

 

【フォルドは冒険者志望なんじゃないか? ロイドの剣術を教えてもらいたそうだったし】

「あー、だからリンダさんか。強い冒険者みたいだしね」


 とりあえず母さんに今日は僕達だけで回ろうと伝えてギルドを後にし、広場のステージへと向かう。


「今日は武芸大会をやるんだっけ」

「そういうスケジュールね。お昼ご飯を屋台で買ってから昨日の場所で見ましょうね」

「では、屋台を回りましょうか」


 護衛はバスレさん……というわけではなく母さん自身。正直、母さんに勝てる人間は早々居ないからね。逆にバスレさんと僕が守られている。


そして――


「ふう、色々買い込んだね。兄ちゃん達もデートしてたし」

「いい子達だったわね。このまま付き合ってくれるといいけど。バスレとくっつくかと思ったんだけどね」

「私はウルカ様一筋なので」

「ステラとアニーも居るわよ?」

「ウルカ様なら複数の女性と結婚は可能になるかと」

「そうね」

「そうなるかな!?」


 父さんが昨日座っていた場所に僕が座り、テーブルに串焼きなどを広げながら母さんとバスレさんが妙な会話を繰り広げる。

 まあまだ未来は決まっていないしこれからゆっくり考えるさと思っていると、ステージの下にどよめきが起こる。


「ん? なんだろ」

「あ、あれは……」

「え、どうしてあの方が? ちょっと行ってくるわ」


 高台にあるここから下を覗き見ると、騎士が乗った馬と豪奢な馬車がゆっくり近づいてきた。

 ちゃんと停車場に止まるのが見え、そこから凄い美人が降りてきた。バスレさんと母さんはその人に見覚えがあるらしい。


「あの人は誰?」

「ええっと……先日、陛下がこちらへ見えられましたよね?」

「うん」

「あの方はその陛下の奥様……王妃様です」

「え」


 バスレさんが冷や汗をかきながらそう言い、驚いて再び下を見ると母さんが応対し、一緒に歩いてくる。


 僕達の居る場所に到着し、僕に気付いた王妃様が軽く手を振って口を開いた。


「ウルカ君はあなたかしら? 夫に聞いた通り可愛い子ね。わたくしにも面白いものを作って欲しいのだけれど」


 どうやら好奇心でここまで来たらしい。夫婦そろってなにをやっているんだ……!?

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