第五十九話 夜の学校というもの
ちぐはぐな兄弟と別れてからさらに巡回を進め、すっかり陽が暮れてしまった。
田舎町とは言っても商店街、住宅街、農場に広場や近場の森などもあるので案外広い。
特に森は人が隠れやすかったりもするので慎重に調査したいところである。
「……とは思っていたけど、あちこちが賑やかだし、町の人もちらほら見かけるからそこまで見なくて平気かなあ」
【今のところ怪しい奴はいないし、楽しみながら回ってもいいんじゃないか】
監視役のゼオラや同じく警戒中のシルヴァとジェニファーも普通にしているため怪しい人間は居ないようだ。
「やっぱり盗人事件の時に父さんと母さんが根回しして警戒を強めてるんだろうな。母さんも町の人間になにかあるのは避けたいと言っていたし」
「母さんが人間じゃないのは驚いたけどなあ」
ギリアムさん達、警護団も常駐・徘徊と目を凝らせているのは貴族である両親のおかげかもと兄ちゃんズは言う。
いまだに会ったことないリンダさんとの戦いでいったい何があったのかは興味深いよね。
「あ、お母様ってヴァンパイアのトップだったって方よね? だから強いのかしら」
「力は継いでないと言っていたがな。その辺はウルカが持っている」
「でも、ギルバード君の魔力は群を抜いて高いですよ」
なにかしら受け継いだ才能と言うのはあると思うけど、努力家だしね二人とも。謙遜するのが勿体ないくらい、実は休みの日も訓練をしていたりする。
本当はギルドに出入りして依頼を受けたりしたいようだけど、珍しく両親がそれを許可しないから実現できていない。理由は不明だけど今は学業武道に専念しなさいと言っていたっけ。
「ま、俺達くらいなら王都や大人にいくらでもいるさ。だから妥協はしない」
「うう、かっこいいです……」
「そ、そうか?」
お、ギル兄ちゃんがいい雰囲気だ。
僕はシルヴァをさりげなく下げて並んで歩くように画策する。ロイド兄ちゃんもマリーナさんと二人で話しながら歩いているしいい感じ。
「あ」
「どうしたの?」
と、思っているとロイド兄ちゃんがとある場所を見て声を上げた。その方向を見てみると――
「学校?」
――恐らくそうじゃないかなって感じの建物が目に入った。
するとロイド兄ちゃんが口を開く。
「ああ。そういや教室に本を忘れていたなって。宿題に使うやつだからそれだけ後回しになってんだ」
「そうなんだ。取りに行く? ついでに学校内も見回っておいてもいいかも」
「お、いいねいいね。宿直の先生が居るはずだからちょっと行ってみるか」
「ええー……暗いし止めとこうよ」
学校内へ入ると聞いたマリーナさんがロイド兄ちゃんの袖を引いて顔も引き攣らせていた。
「怖いのかよ? まあ、オレだけ行けばいいんだけど」
「僕は行くよ! 楽しそう!」
「ウルカが行くなら俺も行くか。リカとマリーナはここでシルヴァ達と待っていてくれ」
「うぉふ」
「ま、まあ、それなら――」
マリーナさんが安堵した瞬間、聞きなれた声が耳に入る。
「あー! ウルカ君だ!」
「あ、本当」
「ありゃ、ウルカだ」
「あれ? みんなどうしたの?」
そこにはアニー、ステラ、フォルドが居た。そして、引率であるクライトさんが片手を上げて言う。
「やあ、さっきぶりだね。お嬢さんが増えているみたいだけど、どうだい巡回は」
「クライトさん! 怪しい連中はいないかな? 町の人や警護団の人もいっぱいいるし」
「冒険者も回っているから多分今回は大丈夫だよ」
「なー、それよりウルカは何をしているんだ?」
そこへ話もそこそこにフォルドが割って入って来た。僕はかくかくしかじかして、今から学校内へ行こうとしていることを伝える。
「え、面白そう! 俺も行きたい!」
「アニーも!」
「私も行く」
「え、でも暗いよ? 大丈夫?」
マリーナさんが怖がっていたので尋ねてみるも、ステラは鼻息荒く拳を握っていた。
「女の子達ってもしかしてウルカ君の? ていうか可愛い服を着ているわね……」
「ウルカ君に作ってもらったのー。お姉ちゃんたちはだあれ?」
「可愛い……! 今日は可愛いの日かなにかかな!」
首を傾げるアニーが僕の横に来て手を握り、それに悶えるリカさん。
そういえば初対面同士だしと子供たちが自己紹介をして、さあ次はどうしようかというところまできた。
「オレは自分のことだから行くぜ? ウルカもいいけど、シルヴァ達は入れないから置いて行くぞ」
「くぅん……」
「こけー……」
「にゃあ……」
「パパ、私も行っていい?」
「そうだねー。パパも休憩したいから行っておいで。動物達は俺が見ておくから」
「いいんですか? ならお願いします!」
見てくれる人が居るなら安心だ。しかもギルドマスターだし。お礼を言ってステラ達と一緒に兄ちゃんズの後に続く。
「おねえちゃんたちはー?」
「う……」
ふとアニーが振り返って聞くと、マリーナさんが言葉を詰まらせる。そこでロイド兄ちゃんが意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「怖いなら来なくて大丈夫だからな?」
「い、行くわよ! 小さい子にみっともないところを見せるわけにはいかないしっ!」
「ふふ、私もいくね」
リカさんは平気そうだなあ。意外と大人しい人ほど肝が据わっている、とか?
【ふあ……酒のみてえなあ……】
そんなことなどどうでもいいとばかりにゼオラがあくびをする。
夜の学校ってちょっと怖いくらいがワクワクするんだよね。夏の風物詩だし。
でも肝試しとか参加したことない……いや、一回だけある……?
「……」
「うわ!? どうしたのさステラ」
「なんでもない。いこ」
ステラに手を引かれて先を進み、宿直のおじさんから鍵を受け取って校舎内へ。鉄筋とかではなく木造なので雰囲気もある意味ばっちりだ。
「うう……ゴーストとかでないよね……?」
もう幽霊はそばにいるとは言わず、僕達は教室を目指す――
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