第五十五話 ギル兄ちゃんは奥手だというもの


「そういえばリカさんはギル兄ちゃんの彼女なの?」

「な!? ……あれはマリーナが勝手に言っているだけだ。リカさんに失礼だろう」

「違うの?」

「え、ええ……!? グイグイ来るよう……」


 シルヴァをリカさんの横につけて顔を見上げて尋ねてみると、彼女は顔を赤くして頬に手を当てた。


「うーん、リカさんがギル兄ちゃんの彼女だったら嬉しかったんだけどなあ」

「え、ええ?」

「こらウルカ。困らせるんじゃない」

「ギル兄ちゃんはリカさん好きじゃないの?」

「う!?」


 今度はぐるりと首を動かしてギル兄ちゃんの目を見てそう聞く。すると言葉を詰まらせて後ずさった。

 僕は間髪入れずに詰め寄ってみる。


「どうなの?」

「う……」

「う?」

「うるさいぞウルカ!」

「あいた!?」


 やはり顔を赤くしたギル兄ちゃんが僕の頭にチョップを落としてきた。大して


「わんわん」

「ダメだよギルバード君、弟に暴力を振っちゃ」

「ぐぬ……」


 抗議の声を上げるシルヴァとリカさんに気圧されてギル兄ちゃんが苦い顔でシルヴァの頭を撫でる。


「ああ、大丈夫だよリカさん。あんまり痛くないようにしてくれているし。シルヴァもありがとうな」

「わふ」

「リカは好きだって言ってたから後はギルバード君次第じゃない?」

「ちょ、マリーナ!?」

「ほほう……」


 マリーナさんが爆弾発言を投下し僕の瞳がきらりと光る。どうやらリカさんとマリーナさんはそれぞれ兄ちゃんズが好きというのは間違いないらしい。

 ただ、ロイド兄ちゃんは口ではぶっきらぼうだけどマリーナさんのことを気にしている感じはある。多分だけど学校じゃそれなりに一緒にいる関係と見た。

 ギル兄ちゃんは意識しているけど、あんまり近づかないようにしているって感じかな?


「リカさんの気持ちは聞いちゃったけど、ギル兄ちゃんの答えは……まあ、みんなが居る中で言うのは難しいと思うから二人きりの時にね。後で答えだけ聞かせてもらえると……」

「「調子に乗るな」」

「痛い、痛い」

「ふふふ、仲がいいわねホント」

「あはは、可愛いね」


 兄ちゃんズが僕の両頬をつまんで引っ張るのを見てマリーナさんとリカさんが笑う。

 ギル兄ちゃんは顔を真っ赤にしているし、こういう時には言わないだろうと逃げ道を作っておくことにした。結果はマリーナさんに聞けばいいかもしれない。

 すると反撃とばかりに咳ばらいをしながらギル兄ちゃんが口を開く。


「コホン……。お前だって大きくなったら分かる。アニーとステラ、どっちが好きかと聞かれたら困るだろ」

「え? どっちも好きだよ? 将来は二人ともお嫁さんかなあ。ヴァンパイアって人間のルールとは違ってたくさんお嫁さんをもらうことができるって母さんが」

「う、ぐ……な、なんだと……」

「えー、すごい! もうリア充じゃん! 二人もいるの? 可愛い?」

「可愛いよ!」

「子供ってすげえな」


 ふっふっふ……もし十七歳の僕なら恥ずかしいと感じていたかもしれないけど、今の僕は五歳児。特に気兼ねなく言えるのは幼児の特権である。

 でも年を経て学校に行き出したら僕やフォルド以外の男子を目にするから今のままだとは思っていないけどね。

 呆れる兄ちゃんズを置いて僕はシルヴァをみんなより前に歩かせて振り返る。


「さ、それじゃ巡回の続きをしよう!」

「自由だな……。ま、いいか。二人も来るか?」

「うん!」

「面白そうだし行くわ!」

「おし! 気を取り直していくか!」


 ロイド兄ちゃんがパシンと手を叩いて気合を入れ直すと僕の後を追って歩き出す。

 そこから住宅街を回るとマリーナさんやリカさんがこの辺に住んでいるということもあり、色々な人から声をかけられていた。


「おや、ガイアス家の息子さん達じゃないか。ウルカ様もいるんだね。お祭り、楽しみにしていますよ」

「ありがとうございます!」

「ウルカ君って人見知りしないよね。それに町の人も知っている人が多いし」


 イベントがあったからと応えると『そういえばあの凄い椅子あったねえ』とマリーナさんが頭を撫でてくれる。

 そのまま農場と牧場があるエリアへと入る。


「こけー!」

「うわあ初めて来たけど広いなあ」

「ジェニファーやシルヴァ達を遊ばせるには良さそうだけど、他の動物が怯えるか?」

「……」

「いや、その前に警護団の人に睨まれそうだ」


 ここも特に異常は無さそうだ。

 野菜泥棒が出るかもと思ったりもしたけど、ギリアムさんのような警護団の人が居るのでそうそう悪さを出来る状況ではなさそうだ。

 でも立ったままも疲れそうだな。


「ん? どうした坊主……ってウルカ様じゃないですか。巡回は我々に任せてもらっていいんですよ」

「あ、知ってるんだ。いや、主催者の一人として見回りはするよ! で、立ったままなのも疲れそうだしと思って――」


 と、僕はクリエイトを使って土で椅子とテーブルを作ってあげた。ここは二人体制らしい。ちなみに睨んでいたのではなくこの人は目が悪いだけだったようだ。


「ありがとうウルカ様」

「頑張ろうねー」


 警護団の人に喜ばれながら農場をを後にする僕達。そこでリカさんが僕の顔を覗き込みながら言う。


「クリエイト……初めて見たけどさっとできるんだね。凄いなあ」

「だろ? この剣と兄貴のロッドもウルカ作だぜ」

「これも!? アダマント鉱石の加工って難しいんでしょ? まるで大賢者のゼオラ・ハイマインみたいだよね」

「……!」


 リカさんが気になる言葉を発して僕は目を見開いて驚いた。ゼオラ、今ゼオラって言ったはずだ。僕は慌てて小声でゼオラを呼ぶ。


「ゼオラ、今リカさんが言っていた名前ってゼオラのことじゃないか!?」

【……ぐがー】

「大人しいと思ったら寝てる!?」

「どうしたウルカ?」

「い、いやなんでもないよ。その、ゼオラって人は有名な人なの?」


 ゼオラが役に立たないので尋ねてみると――

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