第五十四話 ロイド兄ちゃんは主人公のようであるというようなもの

「ギルバード君達はなにをしているの? お家は屋敷だし、その恰好……?」

「あ、確かに見慣れない服を着ているわね」


 リカさんとマリーナさんが僕達の恰好を見て首を傾げる。兄ちゃんズは馬車で送り迎えされていて住宅街には来ることも殆どないのでそこも引っ掛かっているようだ。

 するとロイド兄ちゃんが口を開く。


「あー、今お祭りをやっているだろ? ウルカ……弟の企画で始まったイベントで、ウルカが巡回をするってんでオレ達も一緒に居るってわけだ」

「巡回……ってまだ五歳でしょ? なんかカッコいい狼にまたがっているけど……」

「うおふ♪」

「こけー!」

「わ、ニワトリさんが吠えた」


 自分も褒めろと羽を広げるジェニファー。それには構わず僕が彼女たちへ言う。


「一応、攻撃魔法も使えるしこの狼もフォレストウルフっていう魔物なんだ。だから平気だよ」

「うーん、話しには聞いていたけど強い子ね」

「はは、兄の威厳ってやつがなくなるよ」


 マリーナさんが肩を竦めて僕の頭を撫でているとギル兄ちゃんが苦笑していた。

 僕は謙遜する兄ちゃん達へ手を上げて返す。


「そんなことないって。僕は兄ちゃん達が凄いのは知っているし好きだよ」

「うふふ、可愛い。そうよね、お兄ちゃんは凄いのよ」

「だよねリカさん」

「お、おい、止めてくれ」


 いつも冷静なギル兄ちゃんが焦るのは面白いなと頬が緩む。そこで僕は女性二人に声をかけた。

 

「二人もお祭りへ行くの?」

「え? うん、そうね! なんか楽しそうだし。できれば一緒に行きたかったんだけどね」


 ちらりとロイド兄ちゃんを見るマリーナさん。それに気づいたロイド兄ちゃんが頭を掻きながら目を瞑る。


「オレは仕事があるから駄目だぜ」

「なによ、彼女をデートに連れて行ってくれてもいいじゃん!」

「いや、お前が『私に勝った人の彼女になってあげる』とか言っていただけだろうが。確かにオレが勝ったけど、彼女が欲しいとは言っていない」

「ええー!」


 おっと、これは一方的にマリーナさんが言い寄っているパターンかな? 僕はギル兄ちゃんを呼んで耳打ちをする。


「ねえ、マリーナさんって学校だと強いの?」

「ん? ああ、俺達の学年で剣技最強のトップ2がロイドとマリーナだ。正直、女の子であのレベルはなかなか居ないんだぞ」

「ですね。マリーナはあの可愛さなので彼女にしたいと男子たちが戦いを挑んではちぎって投げられてました」

「ある意味お似合いだね」


 とりあえず言い争いをしているロイド兄ちゃんというのも珍しいので見ておきたいけど、そろそろお仕事に戻ろう。


「ロイド兄ちゃん、そろそろ行こうか。マリーナさん、お祭り楽しんでね」

「だいたいあんたはいつも――って、もう行っちゃうの? ウルカ君ともお話したいなあ。あ、そうだ! ね、一緒に行っていい?」

「え?」

「いや、仕事だからあちこち歩きまわるぞ」

「いいわよ。訓練だと思えば」


 おお、ストイック……。

 僕はどっちでもいいし、むしろ普段見れない兄ちゃんズというのは新鮮だと思う。


「なら一緒に行こうよ。危ないことがあったら一緒に逃げようね」

「うんうん! そうこなくっちゃ! 弟君の方が話が分かるじゃない」

「おいウルカ、こいつは面倒だから駄目だ」

「あ、待ってよ。シルヴァ行くよ」

「うおふ」


 頬を膨らませたロイド兄ちゃんが大股で歩き出し、僕達もそれに続いて進む。

 どうやらリカさんもついてくるようで、大所帯になった。

 

「小さい子だけでウロウロさせられないものね」

「そうだな。ウルカはヴァンパイアハーフでもあるし誘拐でもされたら困る」

「そうなの?」


 リカさんとしては子供の面倒を見るお兄ちゃんが優しいと思っているようだ。だけどギル兄ちゃんの認識は要人警護みたいに聞こえるなあ。


【まあ、クリエイトが使えるだけで金の卵を作る鶏だからウルカは。注意するに越したことはないぞ】

「鶏って」

「こけ?」

「ああ、ごめんジェニファーのことじゃないよ」

「こけー♪」


 急に声をかけてきたゼオラについ反応し自分のことだと声をあげたジェニファーを撫でてやり満足させる。


「ロイド兄ちゃんって学校ではどうなの?」

「んー? 口は悪いけど優しいし強いわね。下級生の面倒もよく見るし、剣術の稽古も真面目だし」

「うるせえぞマリーナ!」

「家でも僕や肩に乗っているタイガとかと遊んでくれるし、優しいよ」

「止めてくれウルカ……」

「いいじゃん、優しい男の子って評価高いと思うわよ」


 そう言って笑いながらロイド兄ちゃんに追い付いて背中を叩く。

 口を尖らせて後ろ頭を掻きながら口を開く。


「優しいとかじゃねえよ。ウルカを見てっから下級生に強く当たれないだろ? 戦い以外で強さを誇示する必要もねえ」

「そうねえ。だから勝負ごとの時だけは真剣でめちゃくちゃ強いって感じ」

「ロイド兄ちゃんカッコいい! ……むぎゅ!?」


 僕が手を叩いて称賛すると両頬をぎゅっと抑えられた。痛くないけど。

 なんというかロイド兄ちゃんは正義だよね。

 

「照れてる照れてる♪ あ、そうだ、あんたまたフェリガに絡まれてなかった?」

「あー、休み前にちょっとな。大したことじゃねえよ」

「お?」

「そう?」


 フェリガ、という名前を聞いてロイド兄ちゃんの雰囲気がピリッとなった気がする。


「どういう人なの?」

「そいつは俺のクラスメイトなんだが剣技はロイド、学術は俺に勝てないからと絡んでくるんだ」


 僕の問いにギル兄ちゃんがため息交じりに答えてくれた。


「いつも取り巻きを連れているのよ。あんまり好きじゃないかな私は」

「あいつが好きなのはマリーナだろ」

「やめてよ。いくら貴族でもああいう平民を見下すようなのはちょっとね」


 なるほど、やっぱりそういうのは居るのか。

 ロイド兄ちゃんってラノベの主人公っぽいな。マリーナさんも可愛い人だし。

 

 こうなるとギル兄ちゃんも気になる。

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