第五十三話 おやおや兄ちゃん達も隅に置けませんなというもの


「私も行きたいんだけど……」

「ママは私と一緒に挨拶があるからここは息子たちに任せよう。すまないがウルカを頼むぞ二人とも」

「当然だぜ!」

「任せてくれ」


 兄ちゃんズがそう言ってくれるも母さんが僕を放してくれない。というか力強っ!? 仕方がない。僕は母さんに抱き着いてから言う。


「僕もママと一緒がいいけど、お仕事だもんね! 僕も巡回をしないといけないんだ。みんなのために!」

「まあ……!」


 母さんが感動して僕を取り落とした。そのままシルヴァの背中に着地し、母さんの射程外へと逃れる。ちょっとずるいけどみんなのために頑張る僕を演出しておく。


 すると――


「パパ……ウルカが……ウルカが『ママ』って……」

「いいなあ! ウルカ、パパって呼んでくれ!!」

「そっちに感動していたの!? 兄ちゃん達、行こう」


 そういえば初めて呼んだっけ? 中身が前のままだからずっと父さん・母さんだったんだよね。


「待ってウルカちゃん、もう一回!!」

「パパと呼んでおくれ……!!」

「うわ、追ってくる!? パパとママはお酒でも飲んでゆっくりしてて!」

「「はふん……」」


 シルヴァを走らせて階段を降りながら振り返って言うと、いい笑顔で膝から崩れていた。


「ふう……」

「はっはっは! ウルカも大変だな! オレ達の時も学校に入るまではこんな感じだったぜ!」

「いやあ本当だよ。でも優しいからねえ」

「だな。たまにウザイと思うことはあっても、いい親だからな。ほらシルヴァに乗ったままでいいから手を繋ぐぞ」


 三兄弟で呆れ笑いをしながらため息を吐く。苦言を言いに来たけど結局負けた気がするな……。

 そのまま僕を真ん中にして三人で手を繋いで歩き出す。この兄ちゃんズも優しいよね。

 で、広場をぐるりと一周してから問題が無いことを確認。


「おや、ガイアス家の皆さん。良いお召し物を着ていますね」

「あ、ギリアムさん! うん、僕が作ったんだ」

「相変わらず恐ろしい才能を使ってるなあ。巡回、俺達も全力でやっているからウルカ様達はお祭りを見回りながら怪しい人間などが居たら教えてくれるだけでいいから」

「はーい!」


 ギリアムさんはそう言って僕達から離れて行った。警護団の人達も3日間交代で出動と休みをとって全員がお祭りを見れるように配慮しているらしい。

 非番でも怪しい存在を見つけたら仕事をするみたいだから頭が下がるよね。


「警護団でもいいなあ」


 そんなギリアムさんの背を見送りながらロイド兄ちゃんが腕組みをして呟く。鉢巻を巻いたらめちゃくちゃに合いそうだなと思いながら聞き返す僕。


「ロイド兄ちゃんは王都の騎士に入団するんじゃなかったっけ?」

「一応そう決めてはいるんだけど、この町を離れるのもちょっと寂しいなとも思う訳よ」

「俺は王都へ行きたいがな」

「僕が継いでもいいし、父さん達も強制はしないんじゃない?」

「そうなんだけどな」


 逆に強制しないから申し訳ないのだとギル兄ちゃんは言う。

 家で不労所得を稼いでだらっと暮らしていける算段が最近ついた気がするので両親の面倒は僕が見てもいいと考えている。だから兄ちゃんズは好きなことをしてもらってもいいんだけどね。


 そんな感じで大通りへ戻り、今度は住宅街へと向かう。

 まだ昼を回っていない時間なので子供たちが道で遊んでいたり、布団や洗濯物を干す人などが目に入る。

 

 まあ要するに平和というやつ。


「あのソーセージを串に刺したやつは美味そうだったな」

「家でいくらでも食えそうじゃね?」

「いやいや、こういう場所で食べるから美味しいんだよ」

「うおふ……」

「にゃー」

「うお!? ちょ、やめろタイガ! 服が汚れる!」


 住宅街へ入る前にみたフランクフル的なものを売る屋台の話で盛り上がり、シルヴァが名残惜しそうに振り返るけど仕事をしてからだよと背中を撫でる。

 ロイド兄ちゃんが肩に乗せていたタイガも肉食なので目を細めて涎を出していた。  

 それに気づいたロイド兄ちゃんが慌ててタイガを地面へ置いた。


「油断ならねえな……」

「まあまあ。洗濯すればいいじゃない」


「あれ? ギルバード君にロイド君?」

「ん?」

「お」

「おや」


 地面でびろーんと伸びているタイガを見ていると、女性の声がかかった。

 声のした方を向くと、そこには青い瞳にピンクの髪をサイドテールにした、兄ちゃんズと同じくらいの年の女の子が立っていた。


「おう、マリーナじゃねえか! どうしたこんなところで!」

「やあ」

「こんにちは」

「あら、可愛い子。こんにちは♪ って、どうしたもこうしたもウチの家この辺だし。どちらかと言えばどうしたは私の言葉じゃない」


 ごもっともだ。


「クラスメイト?」

「そうだぜウルカ。こいつはマリーナ――」

「ロイド君の彼女でーす♪ え、もしかしてこの子が噂の弟君?」

「ば!? 誰が彼女だってんだ!」

「私、いつも好きだって言ってんじゃん。まんざらでもないでしょ?」

「ほうほう」

「ウルカ、ニヤニヤするんじゃねえって!」


 なるほど。学校生活というのは共学なら男女のアレコレがあってもおかしくないよね。僕も向こうの世界でそういうのを目にしてきたことはあるし。

 実際、双子の兄ちゃんズはイケメンタイプ。さらに理知的なギル兄ちゃんと野性味のあるロイド兄ちゃんというギャップは面白いし、注目の的になると思う。


「こんにちはマリーナさん! ウルカティヌスといいます。ウルカと呼んでください! ロイド兄ちゃんをよろしくお願いします!」

「よ、余計なことを言うんじゃねえよ」

「あいた」


 かなり軽くだけど珍しく拳骨をもらい僕は舌を出す。そこへ新たな人影が現れた。


「あ、ギ、ギルバード君……」

「む。リカか。どうしてこんなところに?」

「ギル兄ちゃん、そのくだりはさっきやったから!?」

「そ、そうだな……」


 今度は群青色って感じの髪色と、同じ瞳の色をしたセミロングの女の子だった。熱っぽい視線を向けているので彼女はもしかしたら?


「あ、リカじゃない。やっほー! あんたも彼氏を見つけたから来たの?」

「か、彼女って……!?」

「ま、まだ違うぞマリーナ!」

「ほうほう」

「ニヤニヤするんじゃないウルカ」

 

 やっぱりそうだったか。

 リカさんは大人しそうだし、ギル兄ちゃんには合っているかもしれない。さて、なにか面白い話が聞けるかな?

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