第五十二話 おかしなことになっているというもの
「知ってたの?」
町の入り口にある看板に僕の名前を冠した名称が書かれており、僕は笑っているロイド兄ちゃんに聞いてみる。
「くっくっ……あははは! まあ知っていたぜ。ギル兄もな。というか親父と母さんがこうしないはずないだろ?」
「俺達だってこの年齢になってもべったりなんだぞ。ウルカなんて可愛い盛りで賢いんだから当たり前だ」
「ぐぬぬ」
看板を作る時に僕を近づけさせないようにしていたのはそのせいか……。
もし事前に分かっていたら止めたのに。いや、だから教えなかったのか。歩きながら目を細めて看板を見ていると、ステラが顔を上に向けて手を叩く。
「ウルカ君ってウルカティヌスっていうんだ。もう町の名物」
「なんかすげえな」
「名物にしないで……」
ステラは嬉しそうだけどそれは勘弁してほしい。来年は別の名前にしないといけないな。
それはともかく町中まで行くとがらりと変わった景観が目に入る。
「さっきより人が増えてるー!」
「準備段階から見ていたけどやっぱりいいね」
「見たことない人もいるな。意外と近隣から来ているようだ」
「お金が無くても楽しめるはずだからどんどん来て欲しいよ」
「でもウルカはオレ達より金持ちなんだよなあ」
まあゲーミングチェア代金のおかげだけどね。
さて、時間があまり無かったので大通りにいくつか屋台を置いてもらい、残りは広場に展開。食事をできる場所をザトゥさんに頼んでテーブルセットを用意してもらった。
「俺を殺す気かウルカは」
とはザトゥさんの言葉だ。様をつけなくなったのは嬉しいところ。だけど魔法で作るよりお手製の方がいいと思うんだこういうのは……。
ゲーミングチェア制作も佳境を迎えているらしいのと、テーブルセットくらいならお弟子さんで問題ないということでなんとか都合をつけた。
そんな裏事情を思い返しながら飾り付けに目を向ける。アニーがきれいだと喜ぶ中、さらに歩を進めると程なくしてギルドへ到着する。
「おお……ステラちゃんが見たこともない服を……可愛い……尊い。リンダにも見せてあげたいな」
「ママは忙しいから仕方ない」
入口でそわそわしながら待っていたクライトさんがステラを抱っこして言う。浴衣の件は知っていたから待ち構えていたようだ。
「リンダさんか。まだ一回も会ったことないんだけど、挨拶くらいはしたいよね」
「そういやそうだな。クライトさん、次はいつ帰ってくるんだ?」
「今回は七日ほど野営討伐なんだ。今日が四日目だから、帰ってくるのは三日後だね」
「残念だな。こういうの好きそうだからあの人」
「多分好き。楽しみ」
兄ちゃんズが苦笑し、ステラがぐっと拳を握る。なるほど、明るい人で祭り好き……。
【ん? なんであたしを見ているんだ】
「いや、なんでもないよ?」
……リンダさんって豪快な人っぽいイメージがあるからちょっと似ているなと感じた。とはゼオラに言わないでおく。
それはともかくギルドへ三人を運ぶミッションが終了したので、僕はシルヴァに栄養補給(餌を食べさせる)をしながら手を振る。
「それじゃ僕はいくけど、みんな楽しんでね」
「うんー」
「またな!」
「どこかで会うかもしれないしまた後でね」
まだ寂しげなアニーをステラが宥めていた。一緒に遊んでいるからお姉ちゃんみたいになっているのかな?
あとはクライトさんに任せるとして僕達はいよいよ巡回をスタートさせる。
「大通りは今ある程度見たから次は広場に行くか」
「そうだね。ステージも見たいし……父さんに苦情も言いたいし」
「はっはっは、それもそうだな。よーし行くぞタイガ」
「にゃーん♪」
というわけで広場へ。
食べ物屋台は言わずもがなで、僕の作った積み木やダルマ落としといったおもちゃを販売してくれるオリジナル出店もある。
少し面倒だけどどういった屋台や出店をするのかという申請申告はしてもらっているので、まあ変なのは無いはずだ。
虚偽があれば取り締まる。それについても僕は見て回ろうかなと考えている。
「まだ時間も早いし、特に問題は無さそうだぜ」
「だね。冷やしトマトが美味しそうだなあ」
「一通り町を回ったら後で買うか。先に父さん達のところへ行っておくか?」
「そうしよう。シルヴァ、あの大きな建物にお願い」
「うぉふ!」
シルヴァを誘導してステージへ向かうと、すぐに両親は見つかった。なぜなら、一番高い場所に、ゲーミングチェアを設置しているのが見えたから。
さらに父さんと母さんの椅子の間にテーブルが置かれ、その上にはお酒が、あった。
「あー……」
「母さん、あまり普段飲まないのに珍しいな……」
「うーん、近づくの止めた方がいいかな?」
「ま、一応話はしておこうぜ」
ロイド兄ちゃんがそう言って肩を竦め、僕達は裏手の階段から両親の下へ移動。
よくみたら他の作業員の人もいるみたいだ。
「父さん、母さん?」
「ん? おお、お前達か! パパとママに会いに来てくれたのかい」
「うふふ、おいでウルカちゃん。ここでママとお祭りを楽しみましょうね♪」
「いや、兄ちゃん達と巡回だよ。というかウルカティヌス祭って酷いよ!」
母さんが立ち上がって僕を抱っこしようとしたのでシルヴァに避けさせてから抗議の声を上げた。
「あ!?」
しかし、母さんは先回りして僕を抱き上げて口を開く。
「だってこのお祭りはウルカちゃんが考えた上に、魔法もかなり使ったわよね?」
「だからこれはウルカのお祭りでいいんだ」
「……本音は?」
「「ウチの息子自慢」」
「やっぱりだ!! 兄ちゃん達はどうなのさ」
両親が口を揃えてそう言い、僕は兄ちゃん達に目を向けて尋ねると、逆に兄ちゃんズから返事が来た。
「まあ、そりゃそうだろうぜ」
「俺達もお前くらいのころは可愛がられていたし、これだけの計画を立てられる五歳なんて父さんたちじゃなくても自慢すると思う」
【兄貴たちが正しいな】
「おや!?」
意外とみんな達観していた。というか兄ちゃんズもそういう感じだったんだ。
ちなみにこの世界で双子は珍しいらしく、当時も屋敷でパーティをするなど色々やっていたらしい。
「それに私の力を受け継いだ子ですからね。ちょっとは宣伝しておかないと♪」
「むう……」
「そうですぜ坊ちゃん。この町、平和なんだけど娯楽が少ないから、こういうのはありがたいんです」
難しい顔をする僕に困った顔で作業をしていた人が声をかけてきてくれた。
「なら今回だけだよ? 来年は灼華涼祭で決まり」
「はっはっは、分かったよウルカ。今回だけだ」
「もう……」
とりあえずここまで出来上がってしまったのならもう変えられないし、苦情だけで終わりにしておこう。
今から忙しくなるしとりあえずこれくらいにして、次かな?
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