第五十一話 勝手に名前が使われるというもの


 というわけでお祭り初日。

 見回り隊として兄ちゃんズと僕は警備に回るため準備をしていた。

 

 とはいえ僕は魔法とゼオラという全方位をカバーする幽霊がついている上にシルヴァに乗って移動し、さらにハリヤー達もついてくるためそれほど危険は無かったりする。


「昼過ぎから回りだすぞ。警護団はすでに行動を開始しているから急がなくていい」

「うん。とりあえず三人が来るのを待ってからだね」

「にしても、なんか力がみなぎる格好だよなこれ」

「でしょ? 戦いにはあまり向かないけど動きやすいから」


 タイガを肩に乗せたロイド兄ちゃんが言う『力がみなぎる格好』というのは甚平とはっぴのことである。

 はっぴは僕が夜なべをして家族と屋台を出す人全員に配った。かなり疲れた。

 ウチはそれに加えて甚平を作成し、母さんには浴衣をプレゼント。


「ウルカちゃんからのプレゼント……!! バスレ、家宝にするのよ!」

「はい」

「そういうのはいいから!?」


 というような話もあったけど概ね喜んでもらえた。きつけはよく分からないので浴衣はなんちゃってな仕様なんだけどね。


【スース―するよぉ】

「無理しなくていいのに……。あと、なんで可愛く言ったのさ」


 ゼオラも何故か着替えて口を尖らせていた。スースーするの? 幽霊なのに?


 ちなみに僕達の甚平や浴衣には鉄糸を編み込んでいるので少しだけ耐刃も兼ねている。刺す攻撃には弱いし重い一撃には耐えられないけどないよりはきっといい。


 という感じで祭りらしさを演出。で、三人を待っているのはステラとアニー、それとフォルドにもプレゼントをするためだ。


「む、来たぞ」

「おーい! こっちだよ!」

「やっほー!」


 丘を登ってくる三人に手を振ると、元気よくアニーが駆け出してきた。いつも元気だな。


「とうちゃーく!」


先にダッシュしてきて僕に抱き着いてくるアニーの後からステラとフォルドもやってくる。


「おはようウルカ君」

「よ!」

「おはようみんな! フォルドはお疲れ様」

「おう……マジで疲れたぜ」


 でも楽しかったけどなと鼻の下を指で擦るフォルドは満足そうだった。ジェットコースターもどきを使っていた時は楽しそうだったしね。


「というか兄ちゃん達もウルカもなんかカッコいい服を着ているな」

「うん。それなんだけど、みんなのも作っておいたよ」

「え!? マジか!?」


 早速、シルヴァに移動してもらい、庭のテーブルの上に用意しておいた服をそれぞれ手渡してあげる。採寸とかはあまり考えていないのでだいたいだけどどうかな?


「わーい! アニー着るー!」

「こら、ここで脱ぐんじゃないって。バスレさん、バスレさーん!」

「お任せください」

「うお!? どっから出てきた!?」

「気にしたら負けだよロイド兄ちゃん。いつもこんなんだよ? ステラとアニーの着替えを手伝ってあげて」

「嬉しい」


 ステラも僕に抱き着いてから軽い足取りでバスレさんについていく。

 ロイド兄ちゃんが訝し気な顔でバスレさんを見送っていたけど、特に言及はしないでOKだろう。彼女はそういうものなのだ。


 さて、みんな喜んでいたので結果は上々。後は着替え終わった三人が出てきたら警備に出発だ。


「というかウルカ。別に俺達に巡回を任せてくれていいんだぞ? フォルド達と遊ぶんじゃないのか?」

「言いだしっぺが僕だから行くよ。巡回しながらでも楽しめると思うよ」

「ま、たまには兄弟で歩くのも悪くねえな」


 フォルド達はクライトさんが見てくれるらしいので着替えたら連れて行く予定である。五歳になってから色々と屋敷以外で過ごすことが多くなってきたし、兄ちゃんズと一緒なのも悪くない。

 そんな話をしていると着替えた三人が戻ってくる。


「こけー♪」

「おう、ジェニファー。喜んでくれるか!」

「可愛い」

「わたしとウルカ君、お揃い!」

「うんうん、似合う似合う」


 ステラは浴衣で、フォルドとアニーは甚平だ。アニーは元気すぎるのでまだ甚平みたいな動きやすい方がいいという判断だ。来年、大人しくなれば変えてもいいけど。


「可愛いよステラ、アニー」

「……」

「やったー!」


 相変わらず表情は口元以外変わらないけど、顔を赤くして僕の袖をひっぱるステラ。アニーは大喜びでシルヴァの背中に飛び乗った。


「それじゃあ町まで行こうか。ギルドへ行ったらクライトさんと回ってね」

「残念。パパを貸すからウルカ君は一緒に行こう」

「それはダメだよ!? ほらステラもシルヴァの背中に乗って。さ、出発だ!」

「「おー!」」

「わふわふ」


 フォルドとアニーが拳を突き上げて声を出し、シルヴァがゆっくり歩き出す。子供とはいえ二人を乗せても足取りがしっかりしているので魔物としての力は復活したらしい。僕が力を分けなくても頑張れるヤツだ。


「ウルカ君と一緒に行きたかったなあ」

「また遊ぼうよ。明日は普通に回って明後日また巡回だし」

「ぶー」

「プッ! アニーは分かりやすいな」


 頬を膨らませるアニーを見てギル兄ちゃんが珍しく噴き出していた。子供だから感情のまま動くし気にはならないけど、我慢することも勉強だと頭を撫でてやる。


「ん……。絶対一緒に遊ぶんだよ!」

「うんうん。今日はお祭りを楽しんでよ」

「はあい」

「うぉふ!?」


 まだ頬を膨らませていたけど理解してくれたようだ。だけど気が収まらないのかシルヴァの背中をぺしぺしと叩いていた。

 シルヴァがびっくりしてたけどちゃんと痛くないよう軽くだった。アニーはいい子になるな、きっと。


 そのままてくてくと丘を下っていくと町の入口付近にお祭りの提灯が見えてきた。


「お、この距離だと見栄えが……いい、ね?」

「くっくっく」

「おい、笑うなよ」


 僕が固まったのを見てロイド兄ちゃんが笑いそれを窘めるギル兄ちゃん。固まった理由……それは――


「なんだよ『ようこそウルカティウス祭』って!?」


 そう、看板には僕の名前がどーんと書かれていたのだ。

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