第五十六話 憑りついているのはとんでも人物というもの
「そ、そのゼオラなんちゃらって人のことをもっと教えてもらってもいいかな!?」
「え? 教科書にも載っているとても凄い人だよ?」
「そういやクリエイトってどっかで聞いた魔法だと思ったけどそれか」
リカさんの言葉にロイド兄ちゃんが手を打ってなるほどと納得していた。
教科書を見れば早いかもしれないけど、そこは優しいリカさんが詳しく説明を始めてくれる。
この国ではない場所……『ティヨルターナ』という国におよそ三百年くらい前に存在した実在の人物とのこと。
五歳前後から魔法の才覚を発揮していて、神童と言われるような能力の持ち主だった。
難易度が極度に高いクリエイトを始め、全属性・攻撃・防御・回復・補助となんでもござれな規格外なその人は十代ですでに魔法使いとして右に並ぶものがいなかったそう。
「そ、それでなんで死んだとか分かる?」
「そこが気になるの……? 変わっているわね。えっと、まず活躍したことを話すわね」
続いてマリーナさんが唇に指を当てながら空を仰ぎ、なんだったかなと考えを巡らせ始めた。
そして話の続き。
ゼオラは十五歳で王国最強の魔法使いとして名を馳せ、時の国王様に城仕えを懇願されるもそれを拒否。理由は『自由に生きられないから』と。
だけど国の脅威があったら手伝うのは吝かじゃないと笑い、冒険者として暮らしていたそうだ。
だけどとある日、グラザンドビダルというドラゴンの中でも凶悪なエビルドラゴンが国を強襲。
一体ならまだなんとかなるけど、相手は数体は居たらしい。国の総力を挙げてなお互角という中、拮抗を破ったのが19歳の誕生日を迎えたゼオラ・ハイマインだったとか。
「一撃必殺という言葉は彼女の為にあるとまで言わしめた魔法<オーバーレイ>で墜としていったとされているわ」
「だけど、その力は過ぎたものだと国は彼女を追放。国王様は難色を示したらしいけど、息子の王子や宰相が声を大きくしたものだから仕方ないと言った感じね」
「それは酷い……」
【ま、そういう時代だったんだよ。ああ、思い出したな、そのあたり】
いつの間にか僕の真後ろに立……いや、浮いてゼオラが神妙な顔で頷いていた。
【あのクソ王子があたしと結婚したがっていたんだけどそれを拒否したのが気に入らなかったらしいんだこれが】
「ええー……」
その後、その王子がエビルドラゴン討伐後、すぐに即位。隣国に戦争を仕掛けるようになってしまった。で、とある国を旅していたゼオラが追い返したんだけど、そこからケチがついたのか――
「国は亡んじゃったのよねえ。ゼオラ様さえいればそうはならなかっただろうに」
「追放した理由もくだらねえし、自業自得だろ」
「まったくだ。その後、大賢者ゼオラの足跡は辿れないらしいが、各地で色々なものを作ったり魔物を退治していたそうだ」
「へえ……」
【あたしが大賢者だってウルカ! えっへっへ……】
なんか照れているゼオラに目を向ける。追放とか戦争とか結構大変な目に遭っているんだなと胸が痛い。
それと300年も前なら記憶が飛んでいてもおかしくないなとも思った。
「結局、何歳で死んだんだろうね」
「戦いで負けることは無さそうだし、案外生きていたんじゃない?」
【あー、思い出した。確か40手前で死んだんじゃねえかな】
「微妙な年齢で死んでた!?」
「お、急にどうしたウルカ?」
「あ、いや、なんでもないよ。ありがとう、リカさん、マリーナさん。僕のクリエイトがそんなに凄い人も使っていたなんて嬉しいよ」
【ウルカ……】
実力は知っていたけど経緯を知ると敬意を払いたくなるとゼオラに笑いかける。幽霊だけど僕といる間は楽しく過ごして欲しいなと思うよ。
なら今の姿は何歳くらいなんだろう? 死んだ理由も思い出せないかな?
【ほら、巡回行くんだろ? そんな顔すんなって】
「あ、そうだね。後で話を聞かせてよ。それじゃ次はどこへ行こうか?」
「人の往来があるし町の入り口付近でも行ってみるか」
「さんせー♪ 途中の屋台で買い食いしながら行こうよ」
「遊びじゃねえって」
そのまま農場を後にして、町の入り口や周辺の森、いつもの池といった場所を巡回した。女性二人と兄ちゃんズの話は面白く、学校でのことを語っていた。
「そろそろ休憩するか。マリーナ、買い食いを許可するぜ!」
「はいはい、ありがとうございます! どこで食べる?」
「一旦広場に戻ろうか。あそこなら座るところも多いし」
特に不穏な空気といったものも無く、そうこうしているとお昼になった。屋台へフラフラと誘われていたけどそこはロイド兄ちゃんがお昼まではダメだとしっかり止めていた。
どちらかと言えば一緒に買い食いをしようとしそうな感じなだけに意外である。
「僕も……」
「ああ、座ってていいよ。ペットたちにも必要よね」
「うん。焼きトウモロコシとお肉があったらお願いしたいかな」
「オッケー。ロイド、行くよ!」
「よっし! 飯だ飯だ.。タイガ、好きなもん食わせてやる」
「ふにゃ~ん♪」
両親からお金はもらっているし僕も私財があるので昼食は屋台で好きなものを食べることに。そしてロイド兄ちゃんとマリーナさんの短期デートを見送った。だらしなくロイド兄ちゃんの肩で伸びきっているタイガなら邪魔をしないだろう。
「ふう、平和なものだな。あの盗人みたいなのが居ないことを願いたいものだ」
「そういえば前のイベントでそういうことがあったって言ってたね」
リカさんとギル兄ちゃんが椅子に座って話し始めたので僕は一つ隣の席に移りゼオラを正面にする。
「大変だったんだねゼオラ」
【んあ? まあそうだったっぽいかなというのは思い出したけど、それほど苦い思い出ってわけじゃないぞ。多分】
「多分」
【ああ。結婚もしなかったし子供もいなかったけど、それなりに楽しくやってた……と思う】
「死因は?」
【孤独死じゃねえかな……】
「シチュエーションじゃないよ!? まあ思い出せないってことだね」
僕の言葉にドヤ顔で頷くゼオラ。
「成仏……あの世に行きたくないのかい?」
【んー、できればって感じなんだけどな。何度かそう思ったことはあるけど逝ける気配は無かったな。もしかしたら……未練があったのかもしれないなあ】
大賢者で教科書に載るような人物だと思えばそれも含めて『なにかあった』としても不思議じゃないか。
フルネームも分かったし今度、文献でも読んでみようかな?
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