第四十七話 魔法の授業というもの


【そうだ、魔法を教えよう】

「え?」


 国王様達が来訪してから七日ほど経過した。

 あれからまたのんびり日々を過ごしており特に困るようなこともなく平和だ。

 

 ……ちなみにステラ・アニー・フォルドと動物達にプレゼントしたアイテムは全て防御魔法が秘められていたりする。

 例の盗人騒ぎがあったので、僕の友人ということで狙われた場合のことを考えてこっそりゼオラに教えてもらい措置を施した。


 というわけで今日はフォルド達は遊びに来ていないけど少し心配が減っている。 

 そんな感じで新・秘密基地に水冷式クーラーを引いていると、ゼオラが旅行にでも思い立ったかのようなことを言いだした。


「急にどうしたのさ」

【いや、国王が来てからそれなりに時間も経ったしそろそろ増えた魔力も安定してきたかなと思ってな。ちょっと潜り込ませてくれ】

「悪寒がする!? ……どう?」


 するりと僕の背中に憑りついたゼオラが腕組みをして目を閉じる。なにかが『繋がった』感じがした後、身体から抜け出てにこりと笑う。


【かなりいい感じで総量が増えていたぞ! ヴァンパイアハーフってのもあるだろうけど、魔法使い適性の高い子供と比べて三……いや十倍はある】

「数字だけなら凄いけど……」


 と、微妙に比較するものが曖昧なので眉を顰めていると説明をしてくれる。

 簡易的な数字だけど大人の魔法使いを百としたら、適正アリの子供が大体三十くらいなんだそうだ。で、僕はその十倍はあるので――


 「三百!?」

 【おう、そうだぜ! あたしがだいたい五、六千ってところだからまだまだだけどな】

 「六千!?」


 ダブルで驚いた。

 自信たっぷりに言うのできっとゼオラは嘘をついていない。だから僕の評価と自身の評価も正しいものに違いない。


 「じゃああの蛇を倒した魔法も使えるかな?」

 【今なら余裕だろうな。ちょっとやってみるか?】

 「やろうやろう」


 水冷作業はいったん中断して僕はゼオラと外へ。


 「わふわふ」

 「こけ」

 「にゃーん」

 「基地の中で待ってていいよ?」


 動物達もなんだなんだとついてきて大所帯となった。まあ邪魔をしないのでどっちでもいいんだけどね。

 

 「……よし。詠唱はどうだっけ?」

 【『閃光の輝きよ、眼前の敵を討ち滅ぼせ』だ】

 「そうだったね」


 というわけで空に向かって手を翳し、僕は詠唱してあの時ゼオラが代わりに出してくれた魔法を思い描く――


 「<オーバーレイ>!」

 【お】

 「おっと!?」

 「わふ」


 そして放たれるあの時と同じ一筋の光。

 発射の反動で僕の身体が大きく仰け反ると、シルヴァが支えになってくれこけることはなかった。


 さて、とりあえず撃った感じ体がだるくなるようなことも無く、また気絶もしなさそうだ。

 それよりも一筋の光が大きな夏らしい入道雲を散らしてしまったことの方が気になる。


 「……改めてみると凄い威力だ」

 【だな。世界でも有数の固い鱗を持つブラックドラゴンの羽でも貫く強力な魔法だから】

 「強すぎるよ……。あんまり使うこともないと思うけど、ありがとう」

 【へっへ、いいってことよ】


 おっさんか。

 ともかくドラゴンみたいな強力な個体以外には使いそうにないし他のを教わりたいものだ。


 「回復魔法とかないの?」

 【ある。あるけど、あたしは得意じゃないんだよな。後、ケガ人が居ないと実戦ができない】

 「あー」

 

 あると便利なんだけど……。ほら、僕って死にたくないわけだし。それにステラ達になにかあった時に対応できるのも心強いと思うんだ。


 「うーん、ちょっとケガをしてみよう」

 「こけー!?」

 【お前ってたまに変なことを言うよな】


 動物たちが慌てて止めに入るけど、僕は持っていたアダマント鉱石製の十徳ナイフを取り出して手の甲に傷をつける。

 切れ味がいいだけあってスッと滑らせるだけで赤い血が筋に沿ってぷっくり浮かび上がる。


 「わおわおーん……」

 「お前、狼なんだからこれくらいで委縮するなよ」


 という僕が平気な理由は前の体の時に血を吐いたりしていたからだったりする。あの痛みに比べればこんなの怖くも痛くもないのだ。


 【ま、いいや。回復魔法というものはな――】


 と、その辺の岩に腰かけてゼオラ先生の話を聞くことに。


 「わふ」

 「こけっこ」

 「にゃー」

 「……」


 僕の周りにここには居ないハリヤーを除く動物達が取り囲んできた。


 「暑い!」

 「「「……!!」」」


 まだ灼華の月は長いので外は日差しが強い。そんな中、ふわもこに挟まれたとなれば汗がどっと拭き出すのは当然だ。


 「ちょっとだけ離れていてくれよ? ほら、扇風機」

 「こけ」


 ジェニファーが羽を上げて『承知した』と了承してくれた。

 氷柱も出して少し過ごしやすくしてゼオラの話を聞く態勢になる。


 「ごめん」

 【いや、暇だしいいぞ。こいつらも可愛いしな】

 「見えてないみたいだけどね」


 僕の言葉に目をぱちくりさせた後、肩を竦め、二人で苦笑する。せめて動物達が認識できると面白いんだけどな。


 【触れはするんだけどな】

 「こけー」

 「あ、なんか飛んでいるみたいに見える」


 ジェニファーがきらりと目を光らせてドヤ顔だ。

 それはいいとして回復魔法を教えてもらわないと傷がかさぶたになってしまう。


 で、回復魔法は魔力で傷口を塞ぐんだけど三段階ほど効果が違う魔法があるそうだ。


 【基本的にそういう軽い傷を癒す<ヒール>を使えるようになってから次だ】

 「ふうん。<ヒール>」


 手をかざして傷口を滑らせるように使う。すると傷口がフッと消えて血も無くなった。


 【そんな感じだ。後は<ミドルヒール>と最上級の<シャイニングヒール>がある】

 「最上級だけ急に名前がカッコよくなった」

 【あたしがつけたわけじゃねえよ。古の魔法使いが編み出したやつが語り継がれているだけだ】

 「まあそうだよね。シャイニングヒールはどんな感じなの?」

 【欠損までは治せないけど切断された腕をくっつけることはできるし、上手くやれば刺された内臓の傷を塞ぐことも可能だぞ】


 ミドルヒールはヒールとの中間で骨折程度ならなんとかなるらしい。

 だけど使う機会があまりないから戦争なんかで使わざるを得ない状況になったり、城の人や病院に居る人などしか使い手がいないそうである。


 【小さい傷でも使えるけどそれがミドルとかシャイニングで治ったかはわからねえからなあ】

 「あ、なるほどね。だから試すのが難しいのか」

 【そういうこと。とりあえずあたしが居れば危険は少ないし回復魔法はヒールだけ覚えておけば今はいいかな】


 ゼオラの言葉に頷くと次の授業ということで色々と教えてくれた。

 攻撃魔法でフレアという広範囲爆発魔法や暴風魔法のワールウインド、水で敵を飲み込むヴォーテクスといった強力なものばかりを。


 「使い道がないだろ!?」

 【おおー、でも出来るんだな、偉い偉い♪】


 攻撃魔法はそれほど必要ないと告げたところ、<ピュリファイ>という浄化魔法や防御魔法の<ホーリーウォール>などを教えてくれた。


 「ホーリーウォールはステラ達に付与したシールドとは違うの?」

 【こっちは反射も兼ねているからな。その代わり一度なにかをガードした後は消える。シールドは防御に特化しているからああいう付与に適しているってわけだ】

 「へえ。とりあえずピュリファイは便利だね、汚れがあっという間に無くなるし」

 【だな。後はターンアンデッドとかあるといいかもしれねえな】

 「ゼオラが消えるんじゃ……?」

 【まああたしに使わなければ大丈夫だろ?】


 そして――


 【おお……なんか気持ちよくなってきたぞ】

 「あ、ちょっと薄くなってる!? ストップ! すとーっぷ!」


 ――お約束で締めた。


 とは言うもののゼオラが消えることは無さそうですぐに復活した。アンデッド……に近いと思うんだけどなあ。

 そんな調子で夏の暑い一日が終わるのだった。

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